第18話 レオンの真実
翌日早朝。
マークレガーはレオンの部屋を訪れていた。
「レオン。今日帰国するよ。色々協力してくれてありがとな。」
「マーク。いや、俺こそありがとう。日本にまで来てくれて。」
「ほんと、世話の焼ける親友だな。・・・今日なんだろ?お前が日本に来た本当の目的は。」
「・・・ああ。」
「そっか。気を付けて行ってこいよ。」
そう言い残すと、レオンの部屋を後にした。
葵は、退院の準備をしていた。
そこへ、司が慌てた様子で入ってきた。
「葵!レオン王子がホテルから姿を消した!」
「桜葉さん?レオンが居なくなったって事?」
「朝まではホテルに居たらしいんだ、でもその後姿が見えなくなったらしい。まさか何かあったんじゃ・・・」
「落ち着いて。大丈夫、心当たりがあるから。」
「心当たり?」
「うん。ちょっと付き合って貰える?」
********
美しい海の見える小高い丘の上に墓標がひっそりと建っている。
墓標の前にはレオンが佇んでいた。
「・・・・。」
レオンの表情は穏やかだがどこか寂しそうだった。
そこへ足音が近付いてきた。
「アオイ・・・?」
白い薔薇の花束を抱えた葵が居た。
「お邪魔じゃない?」
「・・・ちょうど話終わった所だよ。」
「そっか。私も良いかな?」
「勿論。ありがとう。」
墓標を見ると
『REINA MORISAKI』
と刻まれていた。
葵は、花束をソッと置くと手を合わせた。
レオンはそんな葵の事を優しい顔で見つめていた。
「ありがとう、アオイ。」
「ここに来ることが来日した本当の理由・・だよね?」
「敵わないな、アオイには。」
レオンは墓標を見つめた。
「今日は命日なんだ、俺の本当の母の。この海はね、父と母が出会った場所なんだ。親日家だった父がお忍びで日本に来た時、ここで母に出会ったそうだ。お互いに一目惚れだったそうだよ。」
レオンは葵を見つめた。
「二人はあっという間に恋に落ちた。そして父は母と結婚したんだ。でもね、アルミナの王族達は良い顔をしなかった。日本人の母を歓迎はしなかった。でも、そんな母の事を父はずっと支えてた、深い愛情でね。そんな時俺が産まれたんだ。俺が産まれた事で何かが変わるかもしれないって思ったそうだ。だけどっ!周りが変わることは無かった。母の心を壊すのに十分な位にね・・。」
「レオン・・・。」
「結局、最後まで母を認める事はなかった。母は逃げる様にアルミナを去った。日本に帰った母はいつもここで海を眺めていたそうだ。でもね、一度壊れてしまった心は確実に母を蝕んでいった。そして・・・とうとう自ら命を絶ったんだっ。」
「・・・・。」
「俺は憎んだよ。母を認めなかった人間をね。父は今でも母を愛してると言ってる。でも、アルミナを捨てることが出来なかったんだ・・。俺は父も憎んだ、どうして母の事を守ってやらなかったんだって。だけど、一番許せなかったのは俺自身なんだ。俺が産まれなければ母はまだ生きていたんじゃないかって・・・。」
「レオン」
葵はレオンを抱き締めた。
「自分をもう責めないで?お母さんはきっと貴方を産んだ事後悔なんてしてないよ。だって、貴方は愛されて産まれてきた。何より嬉しかったはずだよ?」
「そんなのっ!わからない・・・。」
「わかるよ。レオン貴方を見てれば、愛されて産まれてきた。愛されて育てられた。」
葵はレオンを諭すように言った。
「でもっ・・・。」
身体を離すと、葵はポケットからネックレスを取り出した。
「これは?」
「貴方のお母さんの形見だよ。」
レオンがネックレスを見ると、ペンダントヘッドにアルミナ国の刻印が刻まれている。
「中を見てみて?」
「これはっ!」
そこには、赤ちゃんを笑顔で抱く女性と男性の写真があった。
「お母さんは肌身放さずいつも身に付けて大切にしていたそうよ。そしていつも貴方の事を心配していた。そう言ってたわ。」
「一体どうして?」
「ここに来る前に貴方のお母さんのお父さんに会ってきたの。レオンのお祖父さんね。・・今は身体を壊して入院してる。だから、このネックレスをレオンに渡して欲しいって預かったの。」
「母が・・?これをっ?・・・っつ・・ふっ・・」
レオンの金色の瞳から涙が落ちた。
葵はまたレオンを抱き締めた。
「だから、もう誰も責めないで?勿論、レオン自身も。」
「アオイっ!!」
「『憎しみに染まってはいけない。憎しみは憎しみしか呼ばない。』私の父の最期の言葉よ。だからレオンも憎しみに染まらないで?」
身体をはなして葵を見つめる。
レオンの銀髪が陽の光を浴びてキラキラと輝く。美しい金色の瞳は葵だけを写していた。
「ありがとう、アオイ。俺は日本に来て良かった。アオイに出会えて良かったよ。」
レオンは晴れやかな笑顔で葵を見つめた。
少し離れた場所から司が二人を見守っていた。
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