31話 【呼び出し手】と神獣たちのお茶会
ローアたちがやって来てからしばらく。
俺は飛びついて来たローアから話を聞いていた。
「……つまり、ローアたちは俺がクズノハに攫われたと思っていたのか?」
「そういうこと。宿に行ってもお兄ちゃん居ないし、かといって指輪の効力でお兄ちゃんの声も上手く聞こえないし。頑張ってお兄ちゃんの匂いをたどってここに来るまで、本当に心配したんだからね!」
ローアは俺の膝の上に乗りながら、ぷんすかといった様子だった。
「それに狐さんって、人間を化かすことで有名なんだから。お兄ちゃんも知らない神獣について行ったらダメなんだよ?」
「確かにローアたちに何も言わずここへ来たのは悪かったな……」
クズノハがあまりに真面目な顔で「茶飲み友達が欲しい」と言っていたので思わずホイホイついてきてしまった訳だが、ローアが心配するのももっともだ。
こりゃフィアナやマイラにも悪いことしたな……と思っていたら、クズノハが追加で淹れてくれたお茶を飲んでいたマイラがくすりと微笑んだ。
「ローア、もうその辺りにしてあげたら? 【呼び出し手】さんも無事だったのだし、こうして合流できたんだから」
「そうそう。クズノハも悪い神獣じゃなさそうだし、出してくれたお茶もお菓子も美味しいしね」
フィアナは皿に盛られた菓子を上機嫌にぽりぽりと齧り、頬を緩ませていた。
そんなフィアナたちの姿を見て、クズノハもホッとした様子だった。
「うむうむ。口に合うようで、何より誤解も解けたようで良かった。……そやつが少々面白そうだったので、ついちょっかいを出してしまった訳だが」
クズノハは俺の方をちらりと見てから、フィアナに言い訳気味にそう言った。
「ま、アタシたちのご主人さまに惹かれる気持ちは分かるよ。現にアタシたちもご主人さまが気に入って居候になってる訳だし」
「居候、のう。まさか神獣を三人も侍らせ、あまつさえ共に暮らすような人間がこの時代にも現れようとはな……。【魔神】を討伐したこともそうだが、まるで最初の【呼び出し手】の再来のようだ」
「ん、やっぱり最初の【呼び出し手】も神獣たちと一緒に暮らしてたのか?」
「故郷にいる妾の師匠からそう伝え聞いておる。実際、師匠も最初の【呼び出し手】と行動を共にしていたそうだが、普段から五、六体程度の神獣が付き従っていたそうだ。多いときには十体もいたようだが」
「初代【呼び出し手】のところは結構な大所帯だったんだな……」
神獣が普段から五、六人、それで多い時には十人もか。
……うちの神獣三人もよく食べるけど、初代【呼び出し手】も食事関連では結構苦労したんだろうなと何となく察した。
「……ん? ちょっと待って。初代【呼び出し手】と一緒にいた東洋の神獣ってことは、お師匠さんはもしかして【天輪の銀龍】?」
首を傾げたローアに、クズノハはうむと頷いた。
何やら俺の知らない呼び名が飛び出したけど、ドラゴンや神獣の間じゃ有名なんだろうか。
「如何にも。我が師匠は【天輪の銀龍】と呼ばれし者で相違ない」
「へぇー、確か今も東洋の神獣の纏め役をしているっていうあの。また随分と有名な名前が出てきたけど……逆に弟子のあんたはこんな異郷でお茶なんか飲んでていいの?」
訝しげに聞いたフィアナに、クズノハは目を逸らした。
「ま、まあ少しばかり長い休暇ということでな。……師匠が厳しいので所用ついでに逃げ出して来たということはないぞ? 決してな」
若干早口気味になったクズノハに、俺たちは揃って思ったことだろう。
わざわざ東洋から逃げて来たのか……と。
「……何だ、揃いも揃ってその微妙そうな顔は」
「いや、九尾にも怖いものがあるんだなって」
俺の一言に対し、クズノハは声を大にした。
「あるに決まっておろう! 特に師匠は最初の【呼び出し手】と共に【七魔神】を数体倒して残りも地下へ追いやった実力派だぞ!? 九尾の妖狐たる妾ですら逆らいたくないと感じる相手、その筆頭だとも……!」
思い出したくないことでも頭に浮かんだのか、クズノハは「ううっ、少々寒気が……」小刻みに震え出した。
そんなクズノハの様子を見て、ローアが小さく吹き出した。
こんな感じに俺たちは打ち解けていき、気がつけば朝方まで話し込んでいたのだった。
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