26話 【呼び出し手】と【魔神】討伐の報酬
「……そう言えば、ふと思ったんだけども」
目が覚めてまともに動けるようになった次の日の朝。
俺は我が家の隅に固めてあったとあるモノを指差しながら、ローアたちに聞いた。
「この財宝の山、何?」
……そう。
何でか知らないが、今俺の目の前には結構な量の金銀財宝があった。
難しそうな顔をして本を読んでいたローアは、俺の言葉を聞いてぴょこりと顔を上げてから思い出したように言った。
「それね、あのダンジョンの奥に隠してあったから持って来たの〜」
「そうそう。ダンジョンって大概、この手の宝物がいくらか隠してあったりするものだから。せっかくだしかっぱらって行こうって話になってね」
暇なのか眠たかったのか、机に突っ伏していたフィアナも起き上がって俺に説明をし始めた。
それから「あ、それとさ」と財宝の山をごそごそと漁って、俺に何かを放り投げて来た。
「ほい。それつけてみてよ、ご主人さま?」
「指輪、だよなこれ?」
フィアナが投げて寄越したのは、何の変哲もない鉄の指輪。
財宝の山から取り出したにしては些か地味な物だけど、もしかしたら希少なものなんだろうか。
俺は指輪をすっと指につけてみる……すると。
「うおっ、何か光ってないか? ……文字?」
指輪が光ったと思ったら、蛇がのたくったような文字が浮かび上がった。
「何か見たことない文字だけど、これって?」
「ふっふっふー。よくぞ聞いてくれましたご主人さま!」
フィアナは机から身を乗り出して、得意げに説明し出した。
……やっぱりさっきまでは暇だったらしいと、何となく察した。
「これは神獣にも伝わってる古い文字なんだよ。初代【呼び出し手】がいたころまでは人間も使ってたらしいだけど……まあいいや。ともかく金銀財宝に混じってたそれはとっても古い魔道具で、その力は……」
と、フィアナが説明している途中。
キィっとドアが開いて、マイラがひょこっと顔を覗かせた。
「あらっ? いきなり【呼び出し手】さんの気配がなくなったけれど、外に出たの……へっ?」
マイラは俺と目を合わせて、不思議そうに首を傾げた。
俺も何のこっちゃって感じに首を傾げたが、フィアナは何故か腕を組んでうんうんと頷いていた。
「そ、これが指輪の能力。基本的には持ち主の気配を消せるって寸法。ついでに一部のスキルとか魔術なんかも封じ込めちゃう、本来なら困ったさんなアイテムなんだけどね」
なるほど、マイラの反応もこの指輪のせいか。
フィアナは「それで、ここからが肝心なの」と話を続けた。
「アタシが思うに、その指輪をつけている間はご主人さまの【呼び出し手】スキルは封じ込められて、声も周囲の魔物に届かない。つまり今のご主人さまは、アタシたちとこうして接している以外はほぼ一般人って訳」
「……つまり、人里にも降りられるとか?」
「そゆこと! ご主人さま、そういう話が早いところは結構好きだよ」
フィアナは財宝をビシッと指さした。
「これだけ金銀財宝があっても使えないんじゃ勿体ないし、一回人里に降りて買い物にでも行かない? 勿論、ご主人さまの故郷には行きづらいだろうから、ちょっと離れたところでさ!」
「買い物か、いいなそれ」
自給自足生活も充実してきたけど、そろそろ足りなくなってきたものもあるなって思い始めた頃合いだった。
例えば調味料とかがいい例だ。
ローアもフィアナもマイラも結構食べるのだ、これがまた。
「あ、でも待って」
ローアがゆっくりとやって来て、指輪に触れた。
「……フィアナ、まだ言ってないことあるでしょ?」
じーっと目を細めるローアに、フィアナは後ろ頭を掻いた。
「分かってる、それはこれから話すってば。……ご主人さまももう分かってると思うけど、【呼び出し手】の力って意外と効果範囲が広いんだよね。出力だけで言えば、そこいらの魔術系スキルに負けないくらい強いの」
「えーと、要するに?」
稀に見る遠回しな言い方をするフィアナに変わって、マイラがバッサリと答えてくれた。
「そんな指輪程度じゃ、【呼び出し手】の力は封じられても長くはないってことね。保って五日とかじゃないかしら?」
「ま、そゆこと」
「五日か……」
五日もあれば遠出できるけど、逆にたった五日だけ。
「でも、人里に降りられる機会があるだけマシか」
【呼び出し手】スキルのお陰でローアたちに会えたとは言え、魔物を呼び寄せるってデメリットのせいで一生山奥で過ごさないといけないとこれまで思っていた。
だからこそ、また人里に行ける機会ができたってだけでも十分喜ぶべきことなんじゃないかと思う。
「それに一回人里に降りて勝手が分かれば、今度からはご主人さまの代わりにアタシたちの誰かが買い物に行くことだってできるし。結構便利じゃないかなって」
「そりゃ言えてるかもな」
デスペラルドが溜め込んでた宝物を換金すれば、十分な軍資金になる。
ここはひとつ、皆で買い物兼プチ旅行に行ってもいいだろう。
指輪の効力の都合上時間も限られているので、俺たちの意見はすぐにどこかの街へ行くことで一致したのだった。
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