20話 【呼び出し手】とダンジョン突入
『GUOOOOO!!!』
「クソッ、何だこの数!? いくら洞窟に潜んでたって言っても限度があるだろ……!」
俺は長剣を振るって目の前まで迫った魔物を切り捨て、その死体を渓谷に蹴り捨てていく。
洞窟から湧き出てくる魔物の数は尋常じゃないが、種類だって異常だ。
コボルトから始まりゴブリンやスライム、それにグールまでいる。
グールみたいなアンデッドは、これまでこの山では見たこともなかった。
「やっぱりこいつら、どこかの山から洞窟を抜けてここまで来たとかじゃないのか……くっ!?」
『GUUUU……!!!』
襲いかかってきたグールの拳をとっさに長剣で斬り払い、短剣で喉笛を掻き切って蹴り倒す。
こんなに数が多いと、まともに考えることすら難しい。
それにアンデッドは生きている人間を襲う傾向にあるためか、グールが次々に俺へと殺到してくる。
それを見たフィアナは声を荒らげ、爆炎を強めてグールに体当たりを仕掛けた。
「アンデッドども、今すぐご主人さまから離れなよっ! マイラ!!」
「任せて!」
フィアナやマイラが俺の周囲にいる魔物を蹴散らしてくれる中、次々に湧き出る魔物たちを尾や前脚でなぎ払っていたローアが遂に痺れを切らせたらしく、大きく叫んだ。
「いい加減、多すぎるよーっ!!」
ローアはブレスを溜めて放ち、魔物の群れを薙ぎ払って消滅させた。
それから俺のすぐ側に着地して、魔物が現れた洞窟を睨んだ。
「あの洞窟、もしかしたらダンジョンになってるのかも。……これだけ沢山の魔物が入り乱れてるってことは、中で次々に生まれているんじゃないかな」
「そうね、色んな魔物が湧き出てくるのはダンジョンの大きな特徴だもの。それに魔力を断つ蔦がなくなってから、嫌な魔力の流れも感じるし……間違いなさそうね」
「ダンジョンか……」
俺はローアの言うダンジョンについて思い返していた。
ダンジョンとは、この世界の各所に時たま現れるという魔物の巣窟だ。
強大な力を持つ魔物が山の中や地下空間を拓いて、魔物の巣にしてしまうのだ。
ダンジョンを作る理由は魔物の種類によって様々で、身を守るため、力を蓄えるため、果ては最奥で安全に繁殖するためという話まである。
しかしながら何にせよ、ダンジョン内には多くの魔物が住み着きダンジョンの外にまで出てくるので、人間からはあまり歓迎されていない存在には違いない。
「なら早いうちに対処した方がいいとは思うけど、魔物の巣窟に真正面から突入するって言うのもな……」
ローアたち神獣でも、流石に危ないんじゃないか。
俺はそう言いかけたが、それより先にフィアナが力強く言った。
「ううん、アタシは今ここで叩いた方がいいと思うよ、ご主人さま。何せダンジョンを作った奴にはもうアタシたちの存在はバレてるだろうし。多分こうやって簡単に侵入できるチャンスは、今回きりじゃないかな」
「うん、わたしもそう思う。そもそもこの山にダンジョンがあるんじゃ、わたしが縄張りを主張したところでいくらでも魔物が産み落とされて出てくる訳だし。お兄ちゃんにとっても良いことはないかなーって。……それに縄張りの中にジメジメしたダンジョンがあるのは、ちょっとどころかすごーく嫌」
フィアナは至極真面目に、ローアは顔をしかめてそう言った。
また、マイラもローアとフィアナの言い分には同意した様子だった。
「それにダンジョンを放置して巨大化したら、この山の中身が丸ごと取り込まれるかも。……そうなったら、わたしたちでも手の付けようがないわ」
三人の話からして、事態は思っていた以上に切迫しているらしい。
俺は覚悟を決めて、三人に頷いた。
「分かった、それなら今すぐ乗り込もう。俺だって、せっかく住みやすくした我が家が魔物に壊されるのも癪だ」
それから洞窟ことダンジョンに突入する前、ローアたちは俺にダンジョンに関する予備知識をあれこれと教えてくれた。
要点だけをかいつまんで言えば、ダンジョンの最奥に居座る主こと「親」の魔物を倒せばダンジョンは機能を失い、ダンジョンから生み出された「子」の魔物も同時に消え去るらしい。
となると、俺たちはダンジョンの最奥を目指す必要があるようで。
「……ってことなの。いい、お兄ちゃん? だから一番奥でダンジョンの主を見つけたら見敵必殺。これは絶対だよ?」
「ああ、肝に命じておく」
長が山に襲来した時くらいにメラメラと気迫を滾らせるローアは、やはり迫力があった。
……なるほど、縄張りを侵されてローアも大分怒っている訳だ。
これはローアのためにも、最奥まで行ってダンジョンの主を止める必要がある。
それに俺たち皆でゆっくりと過ごす生活を守るためにも、このダンジョンを放置することはできない。
多分ミャーもこのダンジョンから出て来たんだろうけど、この前畑にいたのがミャーじゃなくアンデッドだったらと思うと背筋が凍る思いだ。
俺は改めて気を引き締め、三人と共に渓谷を降りてダンジョンへと突入するのだった。
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