18話 【呼び出し手】と魔物の住処

 畑にいた子魔物を保護してしばらく。

 子猫似の子魔物はすっかり元気になり、もしゃもしゃと餌を頬張るまで元気になった。

 今は俺の膝の上で気持ち良さげに昼寝中だが、そんな子魔物を見ていたマイラがふと呟いた。


「そう言えばこの子、どこから迷い込んで来た子なのかしら?」


「多分山の外じゃないかと思うんだが……。フィアナもどこからか山に入り込んできた、みたいなこと言ってたし」


 マイラは「それは分かるけれど……」と手を顎に当てて考え込む仕草をした。


「わたしが言っているのは侵入経路の方よ。魔物の子供がドラゴンの縄張りに入り込むなんて自殺行為、普通はしないわ」


「言われてみればそうか」


 この辺りに住んでいた魔物は、ドラゴンであるローアがこの山を縄張りにしたことで全て逃げ出して行った筈だ。

 ダークコボルトどころかこの山でよく見かけていた普通のコボルトすら、今は狩りをしていても見かけることはない。

 大人の魔物が姿を見せない以上、子供の魔物なら尚更ドラゴンの縄張りに近づかないのが道理だ。

 マイラはしばらく考え込んでから、口を開いた。


「もしかしたらこの子、ローアの飛び回る姿が見えない場所を通って来たのかも」


「空が見えないってなると……たとえば洞窟とかか?」


 世の中では時たま、炭鉱や山と山を繋ぐ洞窟から魔物が這い出て来たなんて話が出たりする。

 地中に住んでいた魔物や縄張り争いに敗れた魔物が洞窟を通って別の山へ抜けてくるってケースは、ままあることだった。

 俺の考察に、マイラは小さく頷いた。


「その線はあるかもしれないわね。山の中にある洞窟を通って出てくれば、ローアの存在を知らないままこの山に来ることができるもの」


 マイラの意見はもっともだけど、この山にそんな洞窟あるんだろうか……と思ったのだが。

 よくよく考えれば洞窟に潜むというダークコボルトが前に現れた以上、洞窟があったとしても不思議じゃない。

 それに俺は今まで、この山に住んでいたコボルトのような魔物の縄張りを避けて行動してきた。

 もしかしたらこの山にも、まだ俺が分け入ったことのない場所には未知の洞窟があるのかもしれない。


「……ってなると、またいきなり魔物が出て来ても困るし、一度皆で山の中を探索してもいいかもな」


 最近は食糧事情も改善して、時間にもかなりのゆとりがある。

 山の探索に当てる時間も十分にある。

 マイラは頷いて、すっと立ち上がった。


「それなら今から行きましょうか。魔物が出てくる洞窟なんて実際にあったら厄介だし、早く見つけるに越したことはないでしょうから」


「だな。畑に出ているローアやフィアナもじきに戻ってくるだろうし、そうしたら……」


「お兄ちゃん、今日も沢山収穫して来たよー!」


「アタシも大きいのを採ってきたよ、ご主人さま!」


 話している途中、丁度ローアとフィアナが収穫して来た作物を両手で抱えて戻って来たので、俺は二人にも山へ行く旨を伝えた。

 そうしたら、ローアは胸を張って言った。


「へっへーん、こういう時もわたしに任せて! ドラゴンは鼻も良いから、魔物がいる洞窟があったら匂いで分かるかも!」


「ああ、頼りにしてる。ちなみにフィアナも……」


「当然。アタシはご主人さまに力を貸すためにここへ来たんだから。逆にお留守番なんて寂しいことは言わないでよね?」


 やる気十分な三人の同意を得たことから、俺はすぐにでも行くかと立ち上がろうとした。

 しかし膝の上で一匹丸まっていたので、俺はまず子魔物を抱え上げた。


「お前、今日はお留守番な。良い子で待っててくれよ?」


「みゃーん?」


 子魔物を抱え上げて床に置いてやると、子魔物は可愛らしく俺のスネに頭を擦り付けてきた。

 ……正直「置いて行かないで?」と言われているような気がしてならない。

 どうしよう、このまま置いて行くのもなんだか罪悪感が……。

 しかし俺の葛藤はそう長く続かず、子魔物はローアにぱっ! っと抱かれてしまった。


「むぅ……。ミャーちゃんでもお兄ちゃんにくっつき過ぎるのはダメだよー? そもそもお兄ちゃんの膝の上は、わたしの定位置なんだから」


「みゃーぉ」


 子魔物はローアに抗議するように鳴いた。

 ついでに「いつからローアの定位置は俺の膝の上になったんだ」と突っ込みかけたが……いやそれよりも。


「ミャーちゃん? いつの間にか名前付けてたのか」


「うん。名前がないと呼びづらいなーって」


 ローアは子魔物改めミャーを撫でながらそう言った。

 何だか鳴き声そのままな気もするけど、フィアナもマイラも特に何も言わなかったので、我が家の新たな住人である子魔物の名前はこの場でミャーと確定したのだった。


 ……適当な名前を付けられたミャーが不機嫌そうにしていたのは、多分気のせいだと思いたい。


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