1話 外れスキルで魔物襲来
「日が暮れる前に着いたのは良かったけど、よく見たら随分と適当に纏められたもんだな……」
山奥の狩り小屋にたどり着いた俺は、荷車に縄で括られた荷物をほどきながらそう呟いていた。
皿なんかも力任せに押し込まれたのか一部欠けてるし、大急ぎで突っ込んだって感じだ。
そんなにとっとと街から出て行って欲しかったのかと、今じゃ苦笑いしか出てこない始末だった。
「でも、魔物に出くわさずにここまで来れただけマシか」
何はともあれ、狩りで山に入る時に魔物があまり出ない道を行き来していた経験もあったからか小屋までは無事にたどり着けた。
最悪魔物に出くわしたら荷車を捨てて身ひとつで小屋まで走ることも考えていたから、運が良かったと言っていいのか。
それでも常に魔物と出くわすかもしれないという緊張感がずっと体から離れないのは、あまりいい気分じゃなかった。
「さて、早く荷物を中に入れないと……」
と、荷物の一部を小屋の中に運んだ時、すぐ近くから大きな唸り声が聞こえた。
『GUOOOOOOO!!!』
「……っ!? もう来たか!」
この小屋は当然、山に住む魔物の縄張りから離れたところに建てられている。
当然ながら、寝込みを襲われたんじゃそれこそ一大事だからだ。
それでもこの小屋の近くで唸り声が聞こえたってことは、やっぱり【デコイ】が発動しているのか。
狩りで使っていた弓と短剣、それに長剣も持ち出して急いで外に出る。
小屋の前には、もう魔物が十数体ずらりと並んでいた。
「ダークコボルト……! こんな奴らまで誘い出すのか【デコイ】って!?」
『GRRRRR……!!!』
狼によく似た頭部を持ち大人くらいの背丈のある二足歩行の魔物……ダークコボルト。
それは漆黒の体毛を持ったコボルトの派生種だ。
暗い体毛と夜目を活かして暗闇や洞窟で活動するダークコボルトは、基本的に普通のコボルトよりも身体能力に勝ると言われている。
というよりどんな魔物でも派生種自体かなり希少でかつ、通常種よりも強力な個体が多いが……こんな奴らまで引き寄せてしまう【デコイ】は文字通り最悪のスキルだった。
「くそっ、この数じゃ逃げても追いつかれる。やるしかない!」
俺は弓を引いて、飛びかかって来たダークコボルトの喉笛に矢を突き立てた。
次に二体目に矢を放つが、ダークコボルトは今まで見て来た通常種のコボルト以上の反応速度で、矢はダークコボルトの背後にあった木に突き立ってしまう。
『GUOOOOO!!!』
「くっ……!」
突進して来たダークコボルトの爪が俺に届くより先、長剣を抜いて刺突の構えを取って二体目を仕留める。
だが、三体目四体目と次々に押し寄せられ、俺は防御する間もなく背中から小屋に叩きつけられた。
その衝撃で、弓が折れて真っ二つになってしまった。
「ぐあっ!? クソ、街一番の狩り上手とか言われてた癖にこの始末か……!!」
いつの間にか街の人たちから受けていた称号が【街一番の狩り上手】
自分も多少は鍛えていたからそう言われて悪い気はしなかったし、弓も罠も、何なら徒手空拳だってそれなりに自信があったかもしれない。
けれど、相手は大自然の中で生き抜いてきたダークコボルトの群れ。
一体二体倒したところで、多勢に無勢じゃどうしようもない。
「俺もここまでか……いや、最後まで諦めてたまるか! 俺だって、そう簡単に死にたくない!!」
俺は立ち上がって短剣も引き抜いて長剣と共に両手で構えて、ダークコボルトに向き合う。
さあ、どっからでもかかって来い……!
『GUAAAAAAA!!!』
「ラァッ!」
跳ね飛んで頭上から落ちて来たダークコボルトを躱し、前方にいる別のダークコボルトに刺突を食らわせて胸を貫く。
次いで短剣を振って、その脇にいたダークコボルトの喉笛を……!
「ぐあぁ!?」
背中から殴られたのか、俺は一瞬で宙を舞い木に激突した。
幸い音からして骨は折れていないと思うが、それでも呼吸をするごとに激痛が走る。
……チクショウ、本当にここまでなのか。
こんなスキルのせいで故郷から追い出されて、魔物に襲われて。
「まだだ、まだ終わってたまるか……!!!」
そうだ、俺はまだ死にたくない。
街から追い出された途端魔物に襲われて終わりなんて運命、受け入れてたまるか。
俺はまだ、こんなところで満足して死ねるほど生きちゃいない……!!!
「死んで、たまるか!!!」
喉奥が裂けるほどに声を荒らげ、俺は長剣を杖代わりに立ち上がった。
視界は霞むし足もフラフラ、魔物の攻撃を何度も食らって無事でいられるほど人間の体は頑丈じゃない、だとしても!
「何をやってでも切り抜けてやる。それで俺は、いつか満足して逝けるくらいに生き抜いてやる!!!」
『GUOOOOOOO!!!!』
ダークコボルトが咆哮を上げてまとめて飛びかかって来たのに合わせて、俺は長剣を構えた。
……その時、不思議なことが起こった。
「うんうん、よく言いました! だったらお兄ちゃん、わたしが助けてあげるよー!」
『GURRRRR!!??』
鈴の音みたいな軽い声が聞こえた途端、目の前のダークコボルトが一気に倒れた。
閃光……いや、雷が落ちて来てまとめて丸焦げになったような。
……ただし、その近くにいた俺は。
「ぐっ!?」
「ああっ、ごめんなさい!? お兄ちゃん大丈夫!?」
あまりに凄まじい衝撃の余波で吹っ飛ばされ、真後ろの木に再激突して意識を失った。
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