夢見探偵は旅をする
瑕疵宮
第1話
17歳の女子高生である私、
外装はだいぶ古びているが、中に入ると打って変わって洋風のホテルのような綺麗な内装である。フロントには青色の花が添えられ、若い女性がフロントから迎えてくれた。
「すいません、予約していた生河宮です」
私が女性に話しかけると、神妙な表情を浮かべてこう言った。
「生河宮様ですね。申し訳ありませんが、こちらの不手際でご用意する予定の部屋が埋まってしまって。お値段を少し下げますので、代わりのお部屋の宿泊でもよろしいでしょうか?」
「あ、はい大丈夫です」
元々高い部屋ではないし、多少値段が下がるならラッキーだと思っておこう。
「本当にありがとうございます。こちらがルームキーです。大浴場はフロントから右手にございます」
「分かりました」
「では、ごゆっくりどうぞ」
少しのハプニングはあったものの、なんとか部屋に辿り着いた。部屋は普通のビジネスホテルと大差なく、体を休めるには十分だ。
「ふぅ〜着いた」
私も来年の今頃は大学受験の勉強に勤しんでいることだろう。こうやって羽を伸ばして旅行できるのも最後になるだろう。
「綺麗だったなぁ諏訪湖、今年は御神渡りも見れるのかなぁ。明日はどこに行こう」
地元名古屋からはるばるやってきた体は、もう限界に近い。
「さて、大浴場もあることだし、行ってみますか」
入浴に必要な物をまとめて、再びフロントに向かった。人こそ少ないが、あまり広くない場所なのでそれなりの密度を感じる。
「えっと、ここから右手の方だからこっちか」
大浴場の入り口まで辿り着くと、よく見る暖簾がかかっていた。ここだけ和の要素があることに少々違和感を感じつつも、暖簾を
「さて、どんなものかな」
細かな用意を終え、いざ扉を開ける。すると目の前には、大きな楕円形の浴槽とそれを包む暖かな暖色系のランプが広がっていた。
「おぉ〜」
思わず声が漏れてしまう。この辺りの宿の中では、間違いなく良い設備だろう。
「よっ、と。はぁ〜」
あまりの気持ち良さに、一気に旅の疲れが抜けていく。湯加減も程よく、まるで天国のようだ。
「お隣、失礼しますね」
浴槽でゆっくりしていると、私と年が近いと思われる女性が隣に座りこんだ。髪も私と同じくらいの長さであり、何となく親近感を感じる。
「静かでいいですよね、ここの浴場」
「はい。湯加減もちょうど良く、名古屋からの疲れがどんどん抜けていきます」
「あら、名古屋からですか。私の祖父も、名古屋近辺に住んでいるのですよ」
「そうなんですね! もしかしたら──」
思ったより会話は弾み、あれから30分も話し込んでしまった。見知らぬ人との思わぬ交流も、旅の醍醐味と言えるかもしれない。
少し冷える高地の朝、携帯に予めセットしていたタイマーが鳴り響いた。
「んー? ふわぁ〜」
朝に弱い私は、何度も布団の中で体を捩る。しかし時間がそれを許さず、何とか布団の魔の手から脱出する。
「んっんー、もう6時半かぁ。そういえば、昨日の人と朝食一緒に食べるんだっけか」
昨日大浴場で話し込んだ彼女は、確か真上の部屋の401号室だったはず。
「名前を聞き忘れたのは痛いなぁ」
まだ眠い目を擦りながら、部屋取り付けのシャワーを浴びた。熱水によって段々と体温が上昇し、体全体が目覚めていく。
「ストーカーの相談までしてもらったのに、何だか申し訳ないなぁ」
そんなことを思いながら身支度を整えていると、時間は7時を回っていた。彼女との約束も、確かこの時間であった。
「さて、お部屋に向かいますか」
朝食権と携帯を持ち、廊下へと足を踏み入れる。そのままエレベーターに乗って上の階に上がり、彼女の部屋の前に辿り着く。
「もしもし、昨日話した者です」
何回かノックをするが、一向に返事は帰ってこない。もしかしたら、まだ寝ているのかもしれない。
「お時間ですよ」
その後もノックを続けたが、何も音沙汰がない。
「何か言ってくれてもいいはずだけどなぁ」
試しにドアに手を掛けてみると、なんとそのまま開いてしまった。始めから鍵は掛かっていなかったのだ。
あまり人の部屋に入るのは気が進まないが、恐る恐る足を踏み入れる。電灯は一切点いておらず、カーテンは閉まったまま。真っ暗な闇の中でスイッチを探す。
「っと、この辺りかな」
ようやくそれらしきものが手に届き、スイッチを押した。その瞬間、私の目の前に最悪の光景が浮かび上がった。
「……っ!」
明かりが灯されて現れた、真っ赤に染まったベットと一つの死体。頭から血が流れ出ており、床も物が散乱している。
突然の出来事すぎて、声一つ出せない。頭が働かない。脳が理解を拒んでいる。私は思わず、その場に座りこんでしまった。
「えっ、なんで、頭から、えっ、死んでる?」
『人が死んでる』と脳が理解した瞬間、一気に鉄の匂いでむせ返った。
「はっ、あっ……っきゃああぁぁあ!」
脳があまりの衝撃に耐えられず、一種のパニックを起こしていた。目に見えるものすべてが認識できず、やがて私は意識を失った。
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