空中浮遊にうってつけの昼
アシッドジャム
空中浮遊にうってつけの昼寝
ある日部屋に帰ると寝室の電球が一つなくなっていた。警察に泥棒が入ったと連絡しようとしたが特に高価でもない電球だけを盗まれたなんてバカバカしいので連絡せずにその日は眠った。
次の日に帰るとまた別の電球がなくなっていた。これはいよいよ新種の嫌がらせに違いないと思い警察に連絡をした。
警官が来て話をした。鼻毛が出ていた。警官が話すたびに鼻毛がふわふわと動く。明らかに面倒くさそうな顔をしながら警官は話を聞いていた。「勘違いってことはないですかねぇ?」「それはないと思うんですがね.....」「思うですか.....」
また次の日にはテレビがなくなっていた。これはいよいよ監視カメラを設置しなければならないと思っていると本棚の上にテレビのリモコンがあった。リモコンは盗り忘れたのかと手に取り何の気はなしにスイッチを押すとテレビの音だけがなった。
ためしにテレビがあった場所に触れてみると液晶画面のツルツルとした感触があった。盗まれたのではなくなぜか見えなくなっていた。
次の日には電話がなくなりその次の日には冷蔵庫がなくなった。見えない電話が鳴りだす。気持ちが悪いので部屋を引っ越した。見えなくなったものに関しては引っ越し業者に廃棄してもらった。引っ越した次の日に部屋に帰るが特に見えなくなったものはなかった。
安心して見えなくなった原因を検討してみた。部屋にあったものの配置を紙に書き出してみるとテーブルを起点にして渦巻き状にものが見えなくなっていったことがわかった。しかし見えなくなった原因はわからないままだった。
世の中には不思議なことが起こりその出来事に遭遇してしまう人がいるらしい。テレビやなんかで多くの人が様々な不思議な体験を語るがそれを聞いている側は自分にもそんな不思議な体験が起こればいいと思いながら自分には起こらないのだと思っていたりする。でも70億人も世界には人がいるのだから毎日誰かに不思議な事が起こっていてもおかしくない。自分に起こる確率は低くても世界の誰かに起こる確率はかなり高いだろう。という考え方が起こっている事態を見えていない。おかしくなったのは世界じゃなくて俺の方に決まってる。
その後は何も起こらなかった。友達や同僚に話しても信じてもらえなかった。街を歩いていると知っている店がなくなっていた。昨日きたばかりなのに建物ごと消えていた。建物のあった場所に触れてみるとコンクリートの感触がした。これは確実に何かの病気だ。病院へいった。
診察した医者はここではわからないのでと別のもっと大きな病院の紹介状を書きその病院へ行ってみると建物がなくなっていた。その次の日からはどんどん建物が消えていったというより見なくなっていった。もし車が見えなくなれば轢かれてしまうかもしれない。信号が青でも他の人が渡っていなければ横断歩道を歩かないようにした。
怖くなり国外に逃げようと仕事も辞めて飛行機に乗った。飛行機の中で精神的な疲れからかすぐに眠ってしまった。目がさめると青い空の中にいた。下を見ると抽象画のような地表が見え途方もない高度で一人で浮かんでいた。しかし恐怖心はなかった。とても心地よく昼寝をした。
眼を開けるというより開ける瞼がもうなかった。わたしは純粋な一つの目になっていた。純粋な目になったわたしはどこへでも自由にいくことができた。わたしはあらゆる場所に行くことができた。今はウェブ上を遊泳している。あんたの目の前にいるのはそういう経緯だよ。
空中浮遊にうってつけの昼 アシッドジャム @acidjam
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます