第4話
妹が出て行って静けさが戻ってきた部屋で僕が日記をめくる音だけが響く。
「拝啓、ほし空を見上げていた君へ」
一瞬息を呑んだ。僕のことかと思ったからだ。いやいや、そんな訳もないのに。
この日は「いちばんたいせつなことは、目に見えない」というかの有名な星の王子さまの名言から始まった。
この日はよくほし空を見つめていた想い人へまた言葉を、綴ったらしい。何かに追い詰められてしまった想い人への励ましの言葉と私が助けるからねというメッセージが書かれていて後ろ姿しか知らない彼女の健気な姿が思い浮かんだ。
一階から母さんの「ご飯出来たよ」という声が聞こえ僕は一階に降りてご飯を食べた。その日の夕食は母さんが僕を気遣ってくれたのか赤飯などではなくいつも通りのメニューだった。少し小豆の行方が気になった。
食後、僕は妹に引っ張られ家から少し歩いた神社へやってきた。昔は夜にこの神社に来ることは怖かったが、最近はよく来るようになったからか、恐怖を感じることはなくなった。神社の階段を登る。つい少し前までは妹の天体観測の付き合いでここに来る時毎回お賽銭していたが残念ながら効果はなかったようだ。階段を登り切るともう外灯はなくあたりは真っ暗でよく星が見えた。
「にーちゃん、北斗七星どれか分かる?」
突然妹が話しかけてきた。普段は僕らはただじっと30分ほどほし空を見上げているだけだ。僕が英語のリスニングをしていたからかもしれないが僕らの間に会話なんてなかった。妹なりに気を遣っているのだろうか。
「分からない」
「あれね」
妹はなんとも雑な北斗七星の場所の説明をして話し出した。
「北斗七星はおおぐま座の一部でね、その近くにはこぐま座があるの。その2つの星座には有名な逸話があってさ、聞いてくれる?」
疑問系だが僕の回答は聞く気がないのだろう。僕には言い切りの形に聞こえる。
「むかしむかしあるところに美しい妖精がいました。その美しさから神様に気に入られて妖精は可愛らしい息子を預かります。しかし意地悪な他の神様に妖精は熊の姿に変えられてしまいました。残されてしまった息子は優しい人に拾われ狩人になりました。ある日狩人きなった息子は森で熊と出会いました。その熊は息子に突進してきました。実はその熊こそが熊の姿に変えられてしまった妖精だったのです。しかしそうとは知らない息子は熊を撃ってしまいました。その様子を見ていた神様は急いで2人を空に上げ星座にしましたとさ。おしまい」
妹は話し終えると僕の方を見てもう一度口を開いた。
「熊さんがさ、息子に殺されちゃったことは悲しいことだけど、そのおかげで神様に星座にしてもらえて2人はもう離れ離れにされることなくこれからはずっと近くにいれるんだよ。一見悪いことでも結果的に見たらいいことも世の中いっぱいあると思うよ」
気分が軽くなったのかよく分からない。でも妹なりの精一杯の気遣いだったのだろう。
僕は妹の頭を撫でてやった。髪の毛がぐちゃぐちゃになるでしょ。と怒られた。
家に帰ったらお風呂に入りゆっくり湯船に浸かった。受験期は湯船に浸かる時間がもったいないとシャワーだけで済ましていたが湯船に浸かった方が疲れは取れる。
お風呂から出てくるとベットに倒れるように寝た。今日の出来事が全て夢なら良かったのに、と心の中で少し思ってしまったのは否定できない。ただ、夢の中へと逃げた。
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