第27話 カップルチャンネルとして頑張ります

「と言うわけでツブヤイターで告知した通り、年が明けて落ち着いたら旅行も行くけど、それまでもカップルチャンネルらしいことするよ」

「それはいいんじゃが、本当にこれはカップルらしい内容なんじゃろうか?」

「そりゃそうでしょ。ポッキンゲームなんて、カップル以外しなくない?」

「うーん?」


 前回の生放送でカップルチャンネル化を宣言したので、今回の生放送からそれっぽいのに挑戦することになっている。とりあえず体をくっつけるほど近くで並んで座って腕を組みながら始めている。


 《タイトルに釣られてきました》

 《まじでカップルチャンネルになんの!?》

 《ツブヤイターみろ とっくになってたぞ》

 《カップルチャンネル成立おめでとうございます!》 ¥3000

 《タイトル草》


 カップルチャンネル初回記念、ポッキンゲームやります! と言うわかりやすいタイトルなのだけど何故かちょっと受けてるな。

 ロングセラーのポッキンと言う細長いお菓子をつかったポッキンゲームは存在は知ってるけどやったことない筆頭、ざカップルっぽいし、お手軽にできてネタになるかなーと思ったのだけど。


「カップルチャンネル的にネタになる内容も募集してるからよろしくおなしゃーす」


 《百合セ希望》 ¥1000

 《ちゅーしてくださいお願いします病気の妹がいるんです》 ¥500


「当たり前だけどBANされるような公序風俗にかかわるようなことは駄目でーす。お金を払っても駄目でーす」


 百合セとか言った笑う犬、今回はぼかしてるから見逃すけど次したらBANだね。いちいち言うと雰囲気悪くなるから、最後に言うの忘れないようにしよ。


 《風俗草》

 《風俗にかかわるとかえちちじゃん》


「ん? あれ。なんだっけ、こーじょりゅーぞく?」

「もしかして公序良俗と言いたいのか?」

「そんな感じそんな感じ」


 《草》

 《馬鹿の皮がはがれてきたな》

 《ぽんこつお姉さんとしっかりロリっ子のおねロリ、ありだと思います!》


「ぽんこつとか言わないの。それ以上にひどい悪口はお姉ちゃん怒るからね」


 悪口が悪化するとあれだけど、下ネタとかめちゃくちゃな嫌悪を感じる罵倒じゃなかったら多少は身内ネタみたいな感じでいいと思う。

 でもやっぱりあんまり雰囲気悪いと猫の動画しか見てない人がびっくりするだろうしね。このチャンネルは癒し系でいきたいのでほどほどに、めっと指をたてて冗談っぽく注意をしておく。


 《唐突な姉ムーブ いけるやん》 ¥300

 《はーい 気を付けまーす》

 《初見です ちゃんねる登録しました》


「お、登録ありがとう。さーて、場もあたたまったところで、ポッキンゲームしよっか」


 《待ってました!》 ¥10000

 《どんな状況からでも唐突にしかならなくて草》

 《これを見に来た》 ¥500

 《全裸待機した甲斐があるぜ》 ¥1000


「と言う訳でポッキンゲーム。シロはルール知ってる?」

「ふむ。知らんが、棒状のお菓子を使っての遊びと言うことなら、そう種類はないじゃろ。まずはチャンバラ、折れた方が負け。次にひっぱりゲーム。クロスして両端をつかんでひっぱいあい、先に割れた方が負け。どっちじゃ?」

「どっちもはずれでーす」


 腕を組んでどや顔で推理してくれたシロだけど、違います。そうだと思ってたからカップルがするゲームなのかといぶかしんでたのね。

 指でばってんして否定すると、シロはぱたんと耳を伏せて不満そうに尻尾でソファの手すりをぽんぽんしながら唇を尖らせた。


「むぅ。……答えはなんじゃ」

「あのね、このポッキンを両端から二人同時にくわえて同時に食べ始め、さきにポッキンを折った方が負けだよ」

「……一歩間違えば人前で口づけてしまうような危ういゲームじゃな」

「そうだね。度胸試しみたいなものだね」

「度胸試しにしたら、まあ……わらわに二言はない。してやろうではないか」

「負けたら罰ゲームにしよう。内容は視聴者さんに募集します。勝負してる間にコメント書き込んでおいてください。さ、いくよシロ!」


 私はいったんカメラの方を見るのをやめる。ちなみにパソコンやカメラの資材ですが、なんと、ただのノートパソコンとスマホだけだった貧弱設備が進化しています。

 大きなデスクトップパソコンとしっかりしたマイク付きカメラがつながっているのだ。メイン画面と別に横に置いたノートパソコンの画面で実際の視聴者さんが見ている場面も確認しながらできるので、とても便利だ。

 普段に邪魔にならないよう本体は机の下で、必要な時だけ画面ONにするだけだ。無線だからほんとに便利。予算は親がだしてくれた。仕事としてするならちゃんとしなきゃ駄目でしょ。って。優しい。動物嫌いなこと以外は完璧な両親だよ、愛してるマミー、パピー。


 それはともかく、ポッキーをとりだす。口に含む。ぽりぽり。美味しい。


「普通に食べてどうするんじゃ」

「まあまあ、美味しいから。はい、あーん」

「ん……まあ、美味いが」


 とりあえず一本食べて口鳴らしもしたところで、シロと向かい合って一本構える。


「次はくわえるだけね。あーん」

「あむ」


 先端をシロにくわえさせて手を離す。そして顔を寄せて先端を私もくわえる。


「……」


 お、思ったより近いな。普段はいちゃついてるの猫の姿が大半だし、体はくっついても顔を寄せるのはそんなにない。身長差もあるし。

 でもこうして真正面から顔を見ると、シロってほんとに、美少女だなぁ。めっちゃ綺麗な顔してる。瞳に吸い込まれそう。


「……」

「…ん」


 ぽり、とシロが食べ進めた。一口分シロが近くなる。うわ。うわ、ちっか。ほんとにキスしそう。すごい。照れる。


「……、……」


 え、シロめっちゃ近づいてくるじゃん。いやそりゃそうだけど。そう言うゲームだけど。シロ普通に、むしろちょっと得意げと言うか、余裕じゃん。く、悔しい。


「ん」


 私も思い切って一口食べる。同時に食べると揺れて難しい。それに、もう鼻先がくっつきそうなくらいの距離だ。

 シロもいったん止まった。ちょっと照れてはいるけど、多分私はその比じゃないくらい顔が赤くなってる自信がある。


 おかしい。こんなはずでは。普段ちゅーとかしてるし、ぎりぎりまで顔をよせたら視聴者さん喜ぶかなって、ついでに照れた可愛いシロの顔見れるかなって、それだけだったのに!


「……」

「っ、こ、こうさん!」


 シロがもう一口食べて、鼻先が本当に触れちゃったのに思わず身を引いてしまって、私はたまらずそのままポッキンを食べきって降参した。

 両手をあげて無残にも、このゲームの言い出しっぺの癖に何一ついいところなく負けた私に、シロは最後の一口を食べてから笑った。


「にゃはは、汝も可愛いところがあるのぉ」

「こ、こんなはずでは」


 《ざこざこで草》

 《おねロリじゃない、ロリおねだ!》 ¥3000

 《言い出しっぺの癖に弱すぎwww》

 《ありがとうございますありがとうございます》 ¥10000


 ちらっとパソコンを見ると案の定ディスられている。ぐぬぬぬ。そして喜ばれてるのもそれはそれで複雑なんだよ!


「くっ、負けは負け。罰ゲームはなに!」

「いっぱいきておったみたいじゃが、どれにするんじゃ?」

「シロが決めていいよ」

「そうか……ではこの『語尾ににゃをつけて話す』にするかの」

「えっ、私が?」

「汝以外に誰がいるんじゃ。他のに比べて一番簡単じゃと思ったんじゃが」


 全部は見てないけど、軽くスクロールしただけでも激辛料理に挑戦するとか、腹筋1000回とか、ガチかよってくらいひどいのあるな。あと絶対無理な本名発表とか、なめてる。それに比べたらまあまともな罰ゲームだけど。

 でもシロを目の前にして私が猫語話すとか、普通にめっちゃ恥ずかしい。


「うぅ、し、しかたない、にゃ。敗者として甘んじて受け入れるにゃ」

「似合うではないか。可愛いぞ」

「に”ゃー」


 威嚇したのにシロは楽しそうに私の頭を撫でてきた。うう。悔しい。


 《おまかわ》

 《似合うじゃん》 ¥100

 《アカも猫になればいいんじゃね?》

 《二人とも吸血鬼なら可能だな》

 《かーいー》 ¥300


 いじられながらもなんとかまろまろを読んだりして生放送を終えるまで猫語を続けた。








「んあー……くやしい。何でシロ照れないの」


 放送を終わらせマイクとか片づけながらポッキンゲームで惨敗したのが悔しくてそう文句を言うと、シロは猫になって右手をなめながらくすくす笑った。


「実際にしないゲーム、と茜が言ったんじゃろ。どうしてあそこまで照れるんじゃ」

「だってー……シロ、顔が可愛いんだもん。あんなガチ恋距離ずるいって」

「なんじゃそれは。汝から言い出したゲームじゃぞ」

「わかってますー。うぅ」


 シロがこんなに強いとは思わなかったんだよぉ。この調子だとにらめっこも駄目そう。むむむ。

 あっさり猫になっちゃうし。ずっと猫だから、人間の顔に耐性がないんだ。そのせいだ。ずるい。


「まあ、評判はよかったようじゃし、いつもと違って茜に対して可愛い可愛いとコメントが来ておった。わらわとしては汝の魅力がつたわったようじゃし、満足じゃよ」


 ぐ。いつになく大人ぶっちゃって。いや、年上だけど。なのに可愛いし。ずるい。いつかリベンジしてやる。


「それはそうと、そろそろクリスマスだよね。次回はクリスマスパーティを放送するのはどう?」


 片付けも終わったので、早速次回の生放送について打ち合わせることにする。


「クリスマスパーティ。ふむ。冬のイベントじゃな。キリスト教の。何となく知っておる」

「じゃあ話は早いね。クリスマスと言えばツリーを飾って、プレゼント交換をしてケーキを食べる日だよ」


 ツリー持ってないから買わなきゃだけど、動画映えするからこれも必要経費だよね! テンションあがってきた! ちょっと早めのクリスマスパーティ、めっちゃ楽しみー!


「そうなのか。プレゼント交換と言うことはお互いにプレゼントしあうんじゃな。茜は何がほしいんじゃ?」

「ぶっぶー、そう言う聞き込みはNGです」

「ぬ?」


  普通に聞いてきたので腕でばつをつくって禁止する。


「こういうのはサプライズ! お互い内緒にして、当日のお楽しみにするものなんだよ!」

「そう言うものなのか」

「そうそう。シロ、お小遣い残ってる? 思いつきだしなかったらその分の費用渡すけど」

「ほぼ使っておらんからあるぞ」

「よかった。放送にかかる費用としてだしてもいいけど、それだと金額わかるしちょっと味気ないもんね。放送用のイベントだけど、二人のものとして楽しみたいもんね」


 私とシロそれぞれ同じだけお小遣い、好きに使っていい分として毎月5千円の支給をしている。生活費や食費としてお菓子代もはいってるし、確かにあんまり使わないけど、形だけでもちゃんと自分だけのお金があるっていうのは気持ちが違うもんね。 プレゼントにとは考えてなかったけど、ちょうどよかった。

 ちいさな巾着財布にためてきた無駄遣い用財布が火を噴く時がきたのだ!


「ふむ……そうか。わらわの手腕が試されるということじゃな」

「まあそこまで気負わなくても、シロが気持ちをこめてくれたらだいたいなんでも嬉しいからさ。私も、シロが喜んでくれるよう心を込めて選ぶからね! 楽しみにしてて」

「うむ。わかった。茜も楽しみにしておるがよい」

「わーい」


 シロもいつもどおりちゃんとのってくれたし、クリスマス楽しみ!

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