第26話 顧客の変化
シロとお酒をのんでさらに仲良くなった気がする。シロとの距離がぐんと近くなったよね。毎朝の猫動画は相変わらず一定の評価もうけている。最近はアンチも減ってきた気がする。総数が増えたので割合的には。
そして生放送の同時視聴数もあがっている。そんな感じで順調な日々を送っている。
「はいシロ、あーん」
「うむ。おぉ、これは美味いの。不思議な触感じゃ」
ましゅまろをシロに食べさせたことがなかったので、今日の配信はましゅまろを食べながらまろまろを消化していくことにした。
さきほど配信を開始して、さっそくシロにましゅまろを食べさせた。オーソドックスな白いやつ。
《あーん可愛い》
《てぇてぇが過ぎる》
《いいぞもっとしろ》 ¥1010
《ナチュラルにいちゃついてるな》
《もっといちゃつけ》
《今日のおやつ代》 ¥300
人数が増えた分、コメントの速度が速くなった。だけど吸血鬼の視力をもってすれば読むのはたやすいのだ。まあスパチも増えてきたので、最後にまとめてお礼を言うことにしているんだけどね。
それにしても
「うーん。なんか最近、ちょっと視聴者さんの方向性が変わってきている気がするよね」
「む? そうなのか? わらわにはよくわからんが。そもそも何がただしいのか知らんし」
「まあ正しいとかはないかもだけど」
《年の差百合会場はここですか》
《類は友を呼ぶ 百合は豚を呼ぶ》
《堂々といちゃいちゃしてる癖にわがままを言うな》
《黙っていちゃついてろ》 ¥500
最初の頃にも百合か、などと言うからかいはあったけど、まあそう言うのは男女でもあることだ。人間が二人仲良くしてっればカップルかと思うのが人のサガと言うもの。
とは言えなんだか最近あまりにもそう言う、恋人いじり? みたいなのが多い気がする。今日とかすごいな。いつもと特に変わってるところはない気がするけど。
「そんなにいちゃついてるかな?」
「うぅむ、ついしてしまったが、あーんとか、人前ですることではなかったのかもしれんな。気をつけるがよい」
「えー、そうなのかな。そのくらい女同士だし普通にすると思うけど。視聴者さん、答え教えて」
シロに尋ねると私を見上げて神妙な顔で注意されてしまった。とは言えあまりピンと来ない答えだ。コメント欄に聞いてみた。
《気を付けるなんてとんでもない》 ¥1500
《え? 本気で言ってるこの人たち》
《つまり膝抱っこは日常、と》
《ここに結婚式場を建てよう》 ¥5000
「あ、そう言えばシロを膝にのせてた」
「ぬ……ごほん」
シロは咳ばらいをして誤魔化してからするっと私の膝から降りた。
ちゅーするようになってからはシロもずいぶん馴染んでくれて、頼まなくても膝にのってくれるようになった。それが馴染んでいた膝に何かのってても気にならなくなったようだ。
生放送はじめるよー、さ、座って。と隣に促してから普通に私の右ひざに乗ったのが自然すぎて二人とも気付かなかった。
《前からどんどん距離が近くなっていたけどこれはさすがに草』
《気づかないことある?》
《もしかして一線超えた?》
「ちょっと、シロの教育に悪いことは言わないでください。それはともかく、そんなに無意識にいちゃついてたかな。まあ、距離は段々近くなってるなとは思ってたけど」
「そ、そんなことないじゃろ」
「え? なんでそんな反応なの? 私はシロがどんどん心開いてくれて嬉しいよ」
「こ、心を閉ざしておるつもりは、ないが」
《照れてるシロかわよ》 ¥600
《今日のツンデレデレデレ代》 ¥120
「照れてるシロ可愛い」
「コメントを読み上げるでない」
「ただの本音だよ」
シロはよっぽど照れくさいのか、明らかにちょっと距離をとって画面ぎりぎりまで離れて私をジト目で見ている。可愛い。
でもよく考えたらこれは別に悪いことではないのでは? 想定外とは言えお客がついていて評判がいいのなら、その方向性に舵を切るべきでは?
「もしかしてこれは百合営業してカップルチャンネルにするのが求められているのかな?」
「何を言っているのかちっともわからんのだが」
《いぐざくとりーでございます!》
《チップです お納めください》 ¥1000
《いつになく冴えてるな》
《ここまで素だったのに今更営業ぶるの草》
《もっと営業してください》
《別に無理はしないでいい》
《働けぇ!》
《今日の時給おいておきます》 ¥500
《最低時給下回ってるの草》
《自然体なのが一番》
コメントの勢いも上がったので全体的には好評のようだ。
「なるほど。別にシロといちゃつくの普通に楽しいし、無理ない範囲でそんな感じでいこっか」
「なるほどとか言っておるが、わらわにはコメントのノリがいつもよくわからんのだが」
シロの肩を抱いて引き寄せて同意を求めると、シロはちょっと眉を寄せたまま不満そうだ。でも下から見てくるシロは耳をぴこぴこさせてて、その先が寄せた私の頬を撫でてようするにとても可愛い。
「大丈夫大丈夫。聖徳太子じゃないんだから、だいたいでいいって」
「汝のノリもよくわからんのじゃが」
「シロとご飯を食べたり遊んだりするのもいつかネタ切れするかもだし、カップルチャンネルのネタもつかっていくのは悪いことじゃないでしょ。芸風はいくつあってもいいってこと」
「む。そう言われたら、そうなのかもしれんが。しかしカップルチャンネルとは、その、恋人であることを見せびらかしていくということなのか? 見る方もする方も趣味が悪いような」
シロはあんまりぴんときていないみたいだ。まあ私もそう言う存在があるって知ってるだけで見たことないけど、趣味が悪いってことはないでしょ。
「そんなことないでしょ。カップルが幸せそうに仲良く楽しくしてたら本人はもちろん幸せだし、見てる側も仲良しの二人を見てたら心が和んで楽しい気分になるじゃん」
「んん? そう、いうものなのかの?」
「私も見てないけどそう言うことでしょ、多分」
「まあ、それがお金になるというなら、わらわは仕事内容に意義を唱えるつもりはないが」
《公私混同しないシロさんさすが!》 ¥1000
《これが営業百合のはじまり、か》 ¥300
《これでもくらえ!》 ¥10000
《早く仕事してください!》 ¥1500
《金さえあれば推しのイチャイチャが見れるだって!?》 ¥5000
《どうやら俺の財布を開放する時が来たようだな》 ¥30000
「うお!? え、えぇ、急にスパチ増えすぎじゃろ」
「びっくりしたね。とりあえず、膝、のっとく?」
「えぇ、いや、この反応はまじでちょっと怖いんじゃが」
「まあまあ」
シロを抱き寄せて膝にのせる。頭をなでなでしながらその後まろまろを読んで、お礼の読み上げまでシロを膝に乗せ続けた。
○
「んー! 今日も疲れたね」
今日の生配信を終えて私は伸びをする。伸びる必要もないけど、何となく終わったーと言う区切りでそうしたくなる。シロもやれやれとでも言いたげに首をまわした。
「うぅむ。今日の流れは本当にびっくりしたの。なんなんじゃ、カップルチャンネルと言うのは」
「文字通り恋人同士がチャンネル運営することだよ。実際にはそうじゃないけどそう言うコンセプトですることもあるし。兄妹チャンネルもあって、そう言う設定で他人同士がしてることもあるし。もちろんみんなわかってて見てるやつ」
「えぇ……えぇ? いや、ちと、頭がついていかん。ごっこをみて、そう言う劇を楽しむような感覚なのかの?」
シロはそう言って首を傾げるけど、私も見てないからよくわからない。今言ったのも前に今流行ってる~の流れでそう言うのをテーマとしてとりあげてたのを見た知識だし。
「私も見てないから、ちょっと一緒に勉強してみよっか」
「構わんが……わらわとしてはやはり、抵抗はあるの」
「えー、駄目? シロが嫌がることはしないし、カップルチャンネルって言っても変なことはしないよ? キスとかも直接うつすようなのは生々しいからしないし」
「そう言うものなのか……? まあ、今日はわらわが間違えて膝にのってしまったのが原因じゃし、仕事なら多少は仕方ないが」
「とりあえずやってみて、駄目ならやめればいいでしょ」
さっきは最初だからスパチ多かったのかもだけど、とりあえず過去最高額もとんでてめっちゃ反応良かったしね。さっき生放送でするって言ったし、今更やめたはないでしょ。
「とりあえず一緒に他の人のカップルチャンネル見て、どんな感じか見てみようよ。カップルって設定なだけで普通に遊んでるとかなら全然問題ないでしょ?」
「それはそうじゃが、そうだとしたら見ているものは他の友人同士で遊んでいるのと何が違うと思って見ておるのじゃ?」
「シロ、設定って大事だよ? 私たちだって吸血鬼って設定なんだから」
「現実なんじゃが……」
いやまあそうだけど。それにその設定のお蔭て見てくれてる人どのくらいいるかわかんないけど。でも大事でしょ、設定。みんな夢を見たいんだよ、きっと。
呆れた顔のシロのことはなでなでして誤魔化して、とりあえず一緒に動画を検索した。
なるほど、なんか、内容今私たちがしてるのとそんな変わらないような?
料理動画とか、おしゃべりしたりとか、女の子が美人だとお化粧のとか、なれそめを話したりとかカップルしかできないこともあるけど、ただの日常って感じだ。
あとはドッキリから。恋愛がらみの。んー、そもそもドッキリが私たち向けじゃないんだよね。だって、基本撮影時以外はシロは猫だし。今も途中から猫に戻ってるし、猫にどっきりかけて、人間になられたりしたらさすがに変身シーンは撮影できないし。
修羅場ドッキリとかは、台本書いてってなったらできるかもだけど、営業って言いきってるのにやるのはちょっと白々しくない?
「うーん。せっかくカップルチャンネルやりますって宣言してスパチももらったんだし、それらしいイベントの一つくらいしたいよね」
「まあ、そうじゃな。数えていないが、結構もらっておったの」
「うーん、あ、旅行しない? 一泊二日とかで。今からなら年明けてから、温泉旅行なんてどう?」
「む……否はないが、それ、見てて楽しいのかの?」
「楽しくなるように、なんかイベントに参加するとか」
葵ちゃんが来た時に日帰り温泉に行ったことでなあなあになってたけど、元々旅行行きたいって話してたもんね。最近は金額も増えているし、来月には余裕できてるよね! 多分。
うわー、わくわくしてきた! さっそく明日にでも旅行パンフレットもらいに行こ!
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