第19話 閑話:生放送の反応

 今日は数日前から楽しみにしていた、お気に入りの配信者、きゅーけちゅちゃんねるの生放送がある日だ。

 お気に入りに入れた時はまだ普通に、ちょっと色物だが可愛い女の子二人の日常動画と言う感じで特出したところはなかった。ただ二人とも容姿がよく特にシロは珍しい日本語ペラペラ外人JCっぽかったし、猫動画も可愛かったからお気に入りにはしていた。

 だがまさか、こんなにバズるとは。もちろんあの猫耳めちゃくちゃ可愛いんだが。個人的にはなれない素人が少しずつ慣れていく感じとか、シロの方がアカに遠慮してたのがなくなっていく感じとか、そう言う全体的にぎこちない感じがめちゃくちゃいいと思うんだが。


 もちろん話題になるのはいいことだ。配信者の何割が長く続けられるか。生活費の為になどと公言しているし、身にならないとなればやめてしまう可能性が高い。

 だが急に話題になった場合は変なアンチもつきやすい。バックがついているわけでもなく、個人でやっているからなおさらやめるかどうかは気分一つだ。


 俺はなんとか荒れないよう祈りながら生放送を見守ることにした。


「お」


 はじまったか。

 黒かった画面に映像が映る。二人が並んでいる。やや緊張しているのか、シロの方は姿勢がめちゃくちゃいい。可愛い。


《はじまた》

《可愛い》

《シロちゃんきゃわわ》

《え、耳あるのすごくね》


 コメントが流れ出す。登録者数が増えたとは言え、個人のチャンネルの初生配信にしてはかなり盛況ではないだろうか。コメントもいい感じだ。

 と言うか、シロに普通に耳と尻尾がついている。しかもめちゃくちゃ自然で、加工した感がない。まるで本物みたいだ。最近の技術はこんなに進んでたのか。


『はーい、こんにちはー、きゅーけちゅチャンネルのアカと』

『シロじゃ』


 声小さいな。生放送は初めてだから仕方ないが。ここは指摘してやろう。


 《声小さい。もうちょい大きくして》

 《囁き声かわよ》


『ん? 声? 調整するから、ストップって言ってね。あーーーーーーーーー』


 声を出しながら音量調整しはじめた。ていうか息長いな。


 《ストップ》

 《もうちょい前》


『このくらいかな? できたできた。かんぺーき。はい、と言うことでね、初めての生配信でーす。なーまはいしん、なーまはいしんっ』

『テンション高いのぉ』


 設定をいじり終わったアカは笑顔でグッドジェスチャーをして喜んでいる。そんな満面の笑みのアカに、シロはやや呆れたように突っ込みを入れた。


『むしろシロ低くない? ほらほら、テンションあげて』

『にゃははっ、やめんか、くすぐったい』


 アカはシロの耳先を両手でいじってシロを笑わせた。可愛い。けど、いや、すげえぇな。まじで自然だ。


 《しっぽピーンってなってんのかわいすぎ》

 《めちゃくちゃリアル》

 《その耳とかどうしてんの?》


 疑問に思ったのは俺だけではないらしく、コメントが流れる。それだそれ。


『ん? ああこれね。えー、なんか凄腕の人が協力してくれて、じゃなくて、吸血鬼の力だから本物だよ』


 《凄腕の人とか怪しくて草》

 《男?》

 《まじかよ、百合の間に挟まる男とか許されねぇぞ》

 《百合厨のワイ、悲しみの低評価》


『百合? なんかコメントおかしくないかの?』

『なるほどね。じゃあ凄腕の人の設定必要か。どうする? 男か女か、老いか若いか』 

『いやそう言われてもの』

『あ、そうだ。私の妹なんてどう? 現役国立大学生で、可愛くて優しくて思いやりのある妹、アオちゃん。これだ』

『それか? と言うか、そんな簡単に名前を出してよいのか?』

『あっ、くまで、設定だから。設定。この動画はフィクションだから』


 いや、あっ、って思いっきりしまったみたいな反応してるじゃん。妹さんが凄腕で、学業の合間に手伝ってくれたってことか。と言うか、と言うことはこのシロは姉妹ってわけじゃないのか。髪の色が違うが、アカの色もしれっと変わったからこれも地毛じゃなくて普通に姉妹かと思ったが。


 《エリートの妹裏山》

 《わいも妹に養われたい》


『養われてないし。むしろ私が養うし。あ、もちろんシロもね!』

『その気持ちは嬉しいが、わらわと汝は一緒に働いているようなものなのではないかの?』

『確かに。まあまあ、とにかく、せっかく生で反応が見れるんだから、まろまろに答えたりしていこうじゃないか!』

『そう言えばそう言う台本じゃったな』


 あー、こういうあけすけな物言いするところが、シロの可愛いところなんだよな。それでいて二人の絶対的な関係があるから軽口も安心して見れるし。


 《台本草》

 《シロちゃん可愛い》

 《俺のまろまろ読んでくれー》


『はーい、まあね、こないだバズってから結構まろまろもらうからさすがに全部は無理だけど。厳選したから、シロ、読んで』

『う、うむ。えーと

 「アカさん、シロさん、こんにちは」

 うむ。こんにちは。

 「突然ですがお二人は百合なんですか? 気になって夜しか眠れません! 百合厨になにとぞお恵みを!」

 さっきのコメントにもあったの。百合厨とはんじゃ?』

『女の子二人が仲良くしてるのが好きな人のこと』

『ふむ。では、わらわたちが仲良しなのか、という質問なんじゃな。うむ、まあ……百合なのではないか?』

『そだねー、じゃあ百合百合。私たちラブラブでーす』


 《適当で草》

 《本人認定キタ――(゜∀゜)――!!》

 《百合厨ワイ歓喜、喜びの高評価連打》


 きょとんとして説明を聞いてから照れくさそうにする可愛いシロにアカが肩をだいて頷いたことでコメントが加速する。その姿には俺もぐっときた。ううむ。これが百合か。悪くない。前から女子が仲良くしている姿には癒されてきたが、こういうことなのか。


『じゃあ次のまろまろね。今度は私が読みまーす。シロちゃん可愛いぺろぺろ、ばつばつばつしたい』

『ばつばつばつとはなんじゃ?』

『放送禁止用語です。こういうの送ってきた人は即ブロックしてるので、注意してください。何故ならシロは私のだからでーす』


 《解釈一致ですこ》

 《つーか調子乗ってね? 猫のシロちゃんで先に話題になったのに、ブスだけでやってきたみたいな顔してんな》


『あ、アンチコメきたね。ブロックしまーす』


 《対応早くて草》

 《メンタルつよ》


『まあそれはそれとして、可愛い可愛い猫ちゃんバージョンのシロも後で登場させますけど。とりあえずまろまろもどんどんいくね。はい、シロ』

『うむ。

 「猫のシロちゃんの好物はなんですか、ついでにお二人の好物も教えてください」

 そうじゃな。猫の時はやはり、猫の味覚になるからかの。ちゃーるが好きじゃの。人の時は……ううむ。今のところ、アカと食べている食事は全部美味しいの』

『シロ……きゅん。私の好物はエビフライかな』


 《そこはシロと食べる食事やろがい》

 《もっと百合営業しろ》


『私たちの関係は営業じゃないからセーフ。はい、次』

『うむ。えーっと

 「シロちゃんは中学生くらいだと思うけど、学校は通ってないんですか?」

 むぅ。わらわ、そんなに子供に見えるのかの』

『シロは吸血鬼だし成人もしてるから学校に行ってませーん。以上。次』

『うむ。

「二人の使ってるシャンプーを教えてください」

 ふむ。シャンプーはつかっておるぞ』

『メーカーってことでしょ。この質問結構多かったんだよね。そんなに私たちの美髪が気になるのかな? 今使ってるのは椿です。スーパーで安かったから』


 グルシャンのことは知らないのか。アカはばんばんネットしてるのかと思いきや、配信はあんまり見てないのか。定番ネタなのに。まあ言い出したようなガチが存在することを思うと恐いネタだが。


 その後もどんどん質問箱に答えていく。あまりに即ブロックされるからか、あまり荒れることなくすすんでいくので、俺も気負うことなく純粋に楽しめた。


「ふー、終わったか」


 終盤はちゃんとシロが退出してから猫のシロも出てきて癒された。と言うか、生放送なのにアテレコめちゃくちゃうまかった。もっと評価されてもいいと思うんだがなー。

 にしても、ツブヤイターでは収益化したお祝いに生放送と言うことだったが、投げ銭解禁されてなかったな。普段あまりしないからクレジット登録もしていないが、今回はご祝儀代わりに投げられるようにプリペイドで用意しておいたのに。


 まあ今回のでさらに登録者数も増えているし、次回からでもいいのか。


 そうだ、スレで宣伝でもして


「おっ」


 専用スレがたってる! これは一人前の配信者の仲間入りしたと言ってもいいだろう。うんうん。いいことだ。

 俺は掲示板サイト内のスレ、【猫耳】きゅーけちゅちゃんねるについて語るスレ【美少女】を開く。


 なかなか評判は悪くない。荒らしもいるが、即バンの対応も割と受けてる。メンタルつよい女の子はいいよな。

 これで初めて知ったと言う人もいる。おすすめの過去動画を投稿しておこう。

 あんまり複数投稿するとやっかいオタ扱いするから、ほどほどに。回線をかえて、と。お、反応きた。


 うんうん。これでますます人気になるだろう。古参の俺が応援してやらないとな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る