第16話 私の愛を受け取って?
「お、おぇぇ?」
「ど、どうしたんじゃ?」
シロの猫耳お披露目動画は手持ちの分がなくなってからになるので、時間的余裕があったのでよくよく手をかけた自信作だ。
それを投稿して眠って起きた私は、顔を洗ってからすぐにスマホを起動して投稿動画の確認をして、その予想外の反響に思わず変な声がでてしまった。
心配そうに人間になって私の顔を覗き込むシロに、そっと画面を見せる。再生回数1万を優に超え、投稿し始めてから約一か月の我らのきゅーけちゅちゃんねる、ついに登録者数が1000人を突破した。と言うか普通に5000人まであと一歩だ。そんなに?
コメントが付いた時とか、ツブヤイターへの反応はまとめて見ることにしているので通知は切っていたから気づかなかった。だけどどうやら昨日の夜から話題になっていたみたいだ。
一応、謎の最新技術で今日から猫耳娘になります。と言う説明をしておいたし、まさか本物の人外とは思われていないみたいだけど、本物みたい! と大好評のようだ。
何気に私も髪の色なら変えられるようになって、名前に相応しい赤色に変えたのにそのことには全く触れられていない。ちょっと残念だけど、それだけシロの可愛さが認められたと言うことだ。
「ついにやったよ、シロ! これでお金がはいる!」
「そう言うことか。なるほどの。よかったのぉ」
「さっそく申請して、これが通ったら来月から視聴数に応じてお金がはいるんじゃないかな? 多分」
「来月か? 結構かかるんじゃな」
「まあこれからだし、それと肝心なのが直接投げ銭がもらえるってこと。手数料はとられるけど、生放送だけじゃなくて動画にももらえるらしい。でも動画のはどうやってお礼言うのかよくわからないなぁ」
視聴に応じてもらえるのも、これって申請してから再生された分なのかな? 最初に調べた時そこまで意識してなかったけど、そもそも登録の仕方はわかりやすく書いてあってもあんまり細かく書いてなかったような。あのサイトが問題なのかな?
「わかることからしていけばよいじゃろ」
「そうだね!」
細かいことは後から考えればいいよね! 今はそれより目標達成したことを喜ぼうじゃないか!
「お祝いに、そうだ、もうすぐ連休だし、なんかしようか! なんなら旅行とか?」
「ふむ。連休の、なにかするなら他の者が働いている平日の方が空いているのではないか?」
「た、たしかに……!」
シロの身分証もないし、あんまり平日に外出するのはって控えてたんだよね。冷静に考えたら、我々は毎日休日のニート、じゃない。えー、自由業? まあとにかく、週休自由業なのだから、世間のお休みは避けた方が宿泊なんてその方が安いじゃん。
「シロってほんとに、賢いね」
「う、うむ。汝よりはの」
なんか謙遜みたいなノリで私をディスられた気がする。いやまあ、事実ですけど? シロって勉強してこなかっただけで地頭絶対いいもんね。はい。やっぱり年の功か。
「とりあえず朝ご飯食べよっか。何食べるー?」
朝ごはんを食べて申請しておく。短いと一週間くらいで申請は通るらしい。ふむふむ。
無事申請が通ったら、生放送するように台本とか、あ、それも申請しておかないと駄目なんだよね。いつでも生放送できるようにそっちもしておかないと。
まずはとりいそぎツブヤイターにいっぱい登録してもらえて嬉しいありがとうと投稿して、沢山の反響にいいねやお礼コメントを返したり、はたまたブロックしたりしていく。
それから次の動画の用意。申請が通ったら生放送と告知もしておく。
さらに連休があけたらじゃあ近場でどこ行こう、と色々と予定をたてたりしているとあわただしく時間は過ぎていった。
○
「んー、まあ、とりあえず順調、なのかな?」
審査結果はまだきていないけど、あれから数日、いくつか動画を投稿した。一瞬めちゃくちゃ増えたのがちょっとは減ったけど、基準は満たしているし、いままで以上のコメントだ。
ツブヤイターにもめちゃくちゃコメントやまろまろがくるので、ちょっとびびってるけど、悪い反応ではないのだろう。まあ、たちが悪いのは全部ブロックしてるしね。
昼下がりの現在、今日の朝投稿した猫動画を確認すると、人動画と猫動画の再生数とかは逆転してしまったけど、猫の方も安定して見てもらえている。これはこれで逆に安心だ。
人の方がもっとあれしてこれして、みたいなのや質問も多いので、後日の生放送で答えると予告している。これで生放送時のネタ切れには困らないだろう。
「なんじゃ? うかない顔じゃの。よいことではないのか?」
「まー、そうなんだけどさ」
なんというか、順調すぎてちょっと怖いけど。お金にはなるかもだけど、こんなに増えて、こんなにたくさんの人にみられてると思うとちょっとびびるよね。今さらだけど。よし、気にしないでおこう。
「よし! 元気だすから抱っこさせて!」
「まあよいが」
シロは私の膝にのってくれる。あれからしょっちゅうお願いしているのでなんの抵抗もなく来てくれる。可愛い。もちろん、シロを呼んで膝にのってもらう動画も投稿済みだ。
膝にお座りしてくれたシロのぴんとたった耳と丸い頭、ちょこんとした鼻先が見える。あー、たまらなく可愛い。どの角度から見ても可愛い。
両手でシロの体を挟むように撫でながら、そっと顔を寄せて頬で耳先に触れる。ふわふわだー。
「……シロさん、お願いがあるのですが」
「んにゃ? なんじゃ?」
つい先日にもお願いをして膝に乗ってもらうようになったばかりで恐縮なのだけど、シロを可愛がれるようになるほど、もっともっとと私の心の中の我儘な私が言うのだ。
「あー……その、嫌だったら全然断ってもらっていいんだけど」
「なんじゃ? いつになく遠慮がちじゃな。いいから言うてみよ。断るにしても、怒ったりはせんから」
「えへへ、そんな優しいシロだから言っちゃうのですが、その、ちゅーしてもいい?」
さすがに外猫にはちゅーできない。猫って寄生虫もいるし。外猫を可愛がったらちゃんと家に帰ったらしっかり洗ったりとか、その辺りはちゃんとする私なのだ。だからシロにもちゅーしてなかったし、実は吸血鬼と知ってからちゅーするのはちょっとどうかな。と思って遠慮していた。
でも吸血鬼だから当然寄生虫はいないし、ちゅーしちゃいけない物理的な問題はない。もちろんもはや寄生虫とかじゃなくて、猫と人間の話ではなく、吸血鬼と吸血鬼の話なので簡単にちゅーしていいものではない。
でもほら、私たちってもはや家族じゃん? 人生共同体じゃん? スキンシップも許されてるし、さすがに口と口でキスするのはまずいかもだけど、ちゅーならほら、頬ちゅーとか子供の時妹としたりしてたし。シロが良ければセーフだよね? 全然下心とかじゃなくて純粋に愛おしさの表現と言うか、そう、私はシロの全てを愛してるだけなんだよ!
と心の中で長文言い訳を用意しながら尋ねたところ、シロはびくっと震える様に驚いて振り向いた。
「にゃあっ!?」
ピーンと尻尾は立っていて、目をカッと見開いている。あー、やっぱさすがに駄目だったかな?
「あ、あの、もちろん無理強いしたいわけじゃなくて、その、シロがすごーく可愛くて、だーい好きだから、その、ちょっとちゅってしたいなって言うか。その、愛しさの表現と言うか」
「……」
私のフォロー? にシロはゆっくりと顔を伏せ、前を向いて私から顔をそむけた。尻尾も太くなってたのを戻してゆっくりと私の右手首にまきつけた。
黙ってるけど、尻尾は繋いでるし降りないから、不愉快ではないのかな? もしかして受けるかどうか迷ってる?
「べ……別に、構わんぞ」
「えっ!? ほ、ほんとにいいの!?」
「耳元でうるさいのっ! 聞き返すでない!」
「あ、ごめんなさい」
言い出したものの十中八九断られて、残念だけど諦めるしかないってなる結末だと思っていたので、私のほうがびっくりしてしまった。でも口を押さえて小声に謝る私に、シロは一回だけ前足で私の足を叩いただけ逃げたりしなかった。
「シロ、ほんとに嫌じゃない? 私結構ぐいぐい行くタイプだし、暑苦しいとか言われたこともあるし、うざいなら全然言ってくれていいからね? それで私傷つくとかもないし、全然気にしなくて何度も同じことやって怒られるタイプだからね? 我慢しないでね?」
「いや……それはそれでどうなんじゃ。別に、我慢などしとらん。驚いたが……嫌ではない」
「し、シロぉ……嬉しいっ。大好きっ。シロ好きっ」
念のために再度確認すると、シロは照れくさいのか顔を向けてはくれなかったけどそう私の愛を受け入れてくれた。感激でぎゅっと抱きしめながら、そっと頭にちゅーをした。
唇で触れてもふわふっわで気持ちいい。そのまま頭や耳をはぐはぐしたりなでなでする。シロはただの猫じゃないので、感情のまま思いっきり抱きしめても全然平気だから安心だ。
「んー、シロ可愛いね」
そして最後にシロを抱っこして後ろからむりやり頬にちゅーをする。髭が触れるのが面白い。
「ん、……いつまでしておるんじゃ。もう十分元気はでたじゃろ」
「んー。いつまでも。って言いたいけど、そろそろ二時半か。三時のおやつの準備の時間だし、はじめよっか」
今日は元々、クレープを焼いて食べる動画撮影の予定だったのでお昼は少なめにしておいたのだ。お腹は減らないはずなのに、そろそろ食べたいかな、という気分にはちゃんとなるから習慣ってすごいよね。
「うむ。そうじゃ」
私が抱きしめるのをやめるとシロは鷹揚に頷いて私の膝から飛び降り、人間になって台所に向かう。もちろん大きな猫耳と尻尾もついていて、ふわふわが揺れていて可愛い。
その姿も見慣れてきているけど、一瞬見えたシロの横顔は照れているらしくて頬が真っ赤だった。
猫の姿なので全く抵抗なくちゅーしたけど、やっぱり同じ人間(吸血鬼)でもあり、この可愛い女子中学生みたいな子にキスしたんだよなぁ。と当然のことを自覚すると、ちょっと私も気恥ずかしくなってしまう。
妹にも大きくなってからはちゅーしてないし、家族感覚とはいってもやっぱり、猫と人だと距離感違うよね。うーん、まあ、それはそれ、これはこれで! シロがいいっていってるんだし、あまり突っ込まずにいよう。これからも可愛い猫のシロを思う存分可愛がりたいもんね!
「あ、待ってー」
自分で自分を納得させてから、私はシロを追いかけた。
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