天翔るヴァルキュリアス〜仕方なく女装してるんですけどバレてませんよね?〜

ふぃるめる

Prolog 女装の戦士

 一月の中旬、戦争により荒廃した国土と経済を立て直し中興の祖とまで呼ばれた当代の国王の死去が発表された翌日のこと。

 喪に服すべきその日の朝は、緊張感に包まれていた。

 それは、夜明けと共に国境警備隊から天空騎士団司令部に入った連絡に起因する。


 『所属不明の空戦部隊、約十五騎がテルム共和国方向よりプファルツ王国領空に侵入せり』


 最近、何度となく続いていた所属不明部隊による領空侵犯の報告に天空騎士団司令部及び国軍司令部は、『速やかなる退去を勧告せよ』


 といつも通りの命令を下したのだが今回は敵側の対応が違った。

 領空侵犯の報告から僅か十分後に二十七騎からなる国境警備隊壊滅の報告が付近の観測所から届いたのだった。

 それからの二時間、領空侵犯した所属不明部隊の捜索に領内各地の天空騎士団部隊が出撃するも領空侵犯した敵を見つけることは出来なかった。

 だが国境警備隊の壊滅から二時間後、所属不明部隊の姿はプファルツ王国の王都上空にあった。


◇◆◇◆


 僕の所属する天空騎士候補生部隊にも王都上空での待機命令が出ていた。

 

 『私達にまで出撃命令が出てるとは、相当マズイらしいですね』


 出撃した候補生部隊は魔導士官学校の二回生と三回生からなっていて、僕の列騎を務めるクラスメイトのクシャトリヤがクラス内の回線で心配そうに言った。


 『所属不明部隊が目指しているのは間違いなくこの王都だ。見つけ次第直ちに連絡しろ!』


 候補生部隊のオープン回線からは、候補生部隊の指揮官を務める三回生のアリシア・グランデの凛々しい声が聞こえてくる。

 王都上空に展開した五十四騎の候補生部隊全員が天空騎士専用装備である双眼鏡を覗き込んで所属不明部隊を捜索していた。

 見る方向を変えようと双眼鏡を動かそうとしたときだった。

 双眼鏡の円の中で何かが光った。

 間違いない、あれは発砲炎マズルフラッシュだ!

 直感的にそう思った。

 そして近づいてくる膨大な魔力も確かに感じれる。


 『敵の発砲炎マズルフラッシュを確認!方向は直上!散開して下さい!』


 その直感を信じてオープン回線で叫んだ。


 『総員、アンナの指示に従え!』


 指揮官であるグランデ先輩の指示で全騎が即座に距離をとる。

 だが最悪なことに敵の武装は【散弾砲バックショット・キャノン】だった。

 

 『被弾した!』

 

 あっという間に三騎がその火箭に絡め取られ落下していった。

 そして再びの発砲炎マズルフラッシュ

 味方は回避運動に入ってるけど、このままじゃまた撃墜されてしまう。


 「【対魔障壁アンチ・マギアシェル】【加速アクセレラション】!」


 相手の攻撃は魔導銃によるものだから、実質的には魔術に分類される。

 だから魔術攻撃に対して有効な【対魔障壁】を自分の周囲に展開させた。

 そして現在進行形で発動中の飛行魔法に加速をかけて上空の敵へと直線上に急上昇する。

 

 『ちょっと!?アンナさん!?』

 『アンナ、戻れって!』


 ヘッドセットからは、仲間達から引き返すよう名前を呼ばれるが、僕は戻らない。

 なぜなら、偽名を使い女装をしているが僕が男だからだ!

 同年代の少女達を庇うのにそれ以外の理由がいるだろうか?


 「【出力最大マクシム】!」


 そろそろ、敵の攻撃と衝突する頃か?

 あらん限りの魔力を【対魔障壁アンチ・マギアシェル】に注ぎ込む。

 そして大きな衝撃を感じるとともに、眩い光に包まれた。

 障壁は、見事に敵の攻撃を無効化していた。

 ヘッドセットからは、痛いほどの沈黙が流れていた。

 味方から見ればきっと、皆の盾となって敵の攻撃を一身に浴びて爆発したように見えているのだろう。

 

 『なかなかやるじゃない?』


 回線に割って入ってきたノイズ混じりの声が言った。

 敵の声か!

 思わず上を睨むと報告通りの十五騎が滞空している。


 『こっちも仲間を守るために必死だからね』

 『その力、どれほどのものか試させてもららうわよ』


 どの敵が発した声かは分からないが十五騎のうち、五騎が一斉に魔導銃を構えるのが見えた。

 来るか……。

 だが黙って殺られるのも癪だ。

 構えてからの装填時間を逃がす手はない。


 『【破砕勦滅ヴァルバライザー】!』


 空中に赤色の巨大な魔法陣が浮かび上がり、高威力の攻撃魔法を放つ。

 辺りは【散弾砲バックショット・キャノン】の攻撃を無効化したとき以上の轟音と光に包まれた。

 これが僕の初出撃で、これからテルム共和国との激戦が始まることになるとは、このときはまだ知らなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天翔るヴァルキュリアス〜仕方なく女装してるんですけどバレてませんよね?〜 ふぃるめる @aterie3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ