打ち勝つ勇気

シヨゥ

第1話

「馬鹿野郎、とは思うけどさ」

 火葬場から立ち上る煙を見上げ紫煙を吐く。

「あいつの勇気ある行動を否定する気にはならないさ」

「勇気ある行動?」

「そう。自殺だったわけだろ。あいつ」

「ああ」

「自分で命を絶つ恐怖に打ち勝った。最後に勇気で恐怖に打ち勝ったんだ。最後の勝利を笑うことは俺にはできないなって思うんだよな」

「勝利って逃げじゃないか」

「逃げちゃいけないことなんてないさ」

 そう言って煙草を消す。

「逃げることで救われることもあるさ。耐え難きゃ逃げていい。それは仕事も、暮らしも、人生も何もかも」

「死んで救われるとは思えないけど」

「心が救われる。魂が救われる。もう人生が続かないことで悩むことがなくなるだろう? それは救いさ」

「でも生きていたらもっと楽しいこともあったかもしれないだろう? それに救われたいかもしれないのに」

「いつ訪れるか分からない救いを求めて走るのは辛いことだ」

 そう言ってまた煙草に火をつけた。

「その楽しさ知ることで欲が出る。それを渇望する。そうしてそのためにしんどい人生を生きることになる。それは本当に救いなのか。俺にはわからないね。だから、こうやって分からないことを分からないと論ずるべきじゃない。今やることとしたら」

 そう言って煙草で火葬場の煙突を指し、

「お前の表彰式は馬鹿みたいに盛大だぞって言ってやることだろう」

 と言う。

「表彰式って」

「だってこれはあいつが勝利したことを祝う式典なんだからさ」

 真顔でそう言うこいつの真意は読めない。ただその遠くを見るような目を見たことがなかった。

「馬鹿野郎が」

 ただその呟きだけが彼の気持ちを表しているような気がした。

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打ち勝つ勇気 シヨゥ @Shiyoxu

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