第27話 劣等生は面倒なことに巻き込まれる①

 双葉が戻ってきた時には既に降魔はVIPルームにいなかった。

 双葉は総司達に聞いてみる。


「ねぇ、降魔は?」

「あら、会いたかったの? でも降魔君は何処かに行ったわよ?」

「むぅ……折角優勝したから褒めてほしかったのに……。と言うか降魔の番はまだでしょ?」

「え? そうなの?」

「うん。だって降魔は身体強化魔術部門だもん。次は総合部門だったはずよ」


 少し頬を膨らませていた双葉だったが、降魔のいない理由に首を傾げていた。

 そんな双葉を総司と小百合は降魔の代わりに褒めることにした。


「まぁ、降魔君なら大丈夫でしょう? だってしっかりしてそうだもの。なら私たちが降魔君の代わりに褒めてあげるわよ! おめでとう双葉ちゃん!」

「おめでとう双葉。これで降魔君との約束も叶うな。…………叶っては欲しくなかったが……」


 そんなことを言う総司だが、顔は自然と綻んでいた。

 双葉は2人に笑顔で言う。


「うん、そうだよね。降魔なら大丈夫だよね。——ありがとうパパ、ママ!」


 そう言って笑顔を見せる双葉だったが、どうしても嫌な予感が拭えなかった。


 



~~~~~






 双葉が降魔のことを心配していた頃、降魔は他のものよりも早く選手控室に1人いた。

 降魔は支給品の魔導バングルを手首に装着し、目を瞑って精神集中をしている。

 

 魔術でも精神力は重要な要素の1つだ。

 落ち着いて集中すればするほど魔術を成功させる確率は上がる。

 実際にプロの召喚術士は毎日欠かさず瞑想をすると言うくらいだ。

 そのため焦ればそれほど失敗する確率が上がるのだ。


 そのため降魔は先程の予想打にしない出来事によって乱れに乱れていた精神を落ち着かせていた。

 本来降魔が志願していた部門は身体強化魔術部門のはずだった。

 しかし降魔が偶々お手洗いのついでに身体強化魔術部門が何時からか聞いた時に、受付の人に名前を言う。

 すると降魔は総合部門にエントリーしていると受付の人に言われた。

 その時は流石の降魔も目を見開いて驚いていた。

 だが直ぐに誰の仕業なのかに気付く。


(荒木昴の仕業か……。おとなしいと思っていたらこんな事をしていたのか……)


 相当降魔に否定されたのがプライドに傷ついたのだろう。

 普段は降魔に接触できなかったから家の権力を使ってこんな事を画策していたのだ。 


(まぁ庶民1人くらいのエントリーなんて自由に変えれるってことか。ほんとに面倒なことをしてくれる……)


 それで次が総合部門だったため、こうして早く控室に着いたというわけだ。

 降魔は先程の出来事を思い出してため息をつく。


 そんな所に他の選手もチラホラと入ってくる。

 皆んな騒がしく友達と話しているが、降魔にそんなことを気にする余裕はなく、目を向けることも注意することもなかった。


(今回は俺の将来のために負けてはいられない。召喚魔術は使えないから、それ以外でカバーするしかない。まぁ本音を言えばめちゃくちゃ厳しいが、双葉も頑張っていたし、俺も頑張るっきゃないか)


 そんな事を考えていた降魔の下に1人の男がやってきた。

 降魔を総合部門に無理やり入れた張本人である昴だ。


「どうだい、降魔君? 僕が君のためにわざわざ総合部門にしてあげたんだ。感謝しなよ」


 全く理解できないことばかり吐く昴に降魔は呆れる。


「はぁ……それで何のようだ? お前は俺に近づいちゃいけないんじゃなかったのか?」


 降魔が前回双葉が昴に告げたことを復唱すると、昴はため息を付いて首を横に振った。


「僕は君と同じ控室なだけで、近づいたとは言わないんだよ。それに話しかけるななんて言われていないからね」

「それで? もう1度聞くが俺に何のようだ?」

「……はぁ……せっかちだな、庶民は…………まぁいいさ、言ってあげるよ。君には双葉さんと一緒にいる権利をあげよう」


 降魔はそれを聞いた瞬間に、『何言ってんだコイツ』と思ってしまった。


(俺が双葉と過ごすのに何故こんな全くの無関係な奴に決められないといけないんだよ……面倒くさいな……。それにまた双葉のこと下の名前で呼んでるし……)


「どうせ俺に何かしろと言うんだろ……」

「その通りさ。君には僕と戦って貰う。そして勝ったほうが双葉さんの隣りにいることができる。前回言ったことと同じだよ」

「あの不平等な条件か? 無理だな。余りにも俺の失うものが多すぎる」

「へー断るんだ……庶民のくせに。まぁ……断ったら君の大事なお家が無くなるだけだけどね」

「———……何?」


 降魔は突然出てきた家のことに驚く。

 家とは寮のことではなく、降魔が亡き家族と過ごしていた思い出の家のことで、降魔の大切な物の1つだ。

 降魔はそれが引き合いに出されると断るという選択肢はなくなってしまった。


「…………分かった、受けよう」

「賢明な判断だ。それじゃあ決勝で会おう! 勿論それまでに負けても双葉さんには近づいてはダメだよ!」


 昴は意地の悪い笑みを浮かべてそれだけ言うと、顔を歪めている降魔のいた控室から出ていった。

 降魔は『痛い所を突かれたな……』とため息を吐き、ポケットから1つのペンダントを取り出す。

 それは降魔の妹である綾香が、初めて貰った給料で買ってくれた、家と同等の大切な物である。

 それを壊れないようにそっと握り、胸元に持っていく。


「綾香……兄ちゃん、頑張って家を守ってみせるからな……」


 降魔のいつになく震えた声は誰にも聞かれることなく消えていった。

 

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