第14話 劣等生と優等生の会話(改)

 2人は地面に座りながら会話をしていた。

 と言うより嘆いていると言ったほうが正しいかもしれない。


「これからどうするか……」

「これから帰ってもね……きっと面倒なことになりそうよね……。貴方の教室に行った時も大変な目にあったわ」

「大体何で俺のクラスに来たんだよ……」


 降魔はそう言うとジト目で双葉を見る。

 その瞳からは余計なことをしてくれたなと言う気持ちが宿っていた。

 居た堪れなくなった双葉は降魔からふいっと目を逸らす。


「えっと……その……だって貴方の連絡先も何も知らないんだもの……。けど当分もう行かないことにする……」


 どうやら双葉は質問攻めにあったのがよっぽど疲れたらしい。

 本気でクラスに行ったことを後悔しているようだ。


「ああ、そうしてくれ……」


 降魔はまるで3徹したときのような返事をする。

 そんな降魔は頭を抱えており、その表情には諦観がありありと浮かんでいた。

 もう既にあれほどの騒ぎを起こしてしまったのだ。

 更に今は2人で授業を抜け出している。

 この状況を客観的に見ると完全に何かあると取られてしまうだろう。

 もうどうしようもない状態まで追い詰められてしまった。

 ようは外堀を知らないうちに埋められていたと言うわけだ。

 なので降魔はこれからのことを考えるのは諦めて、魔術を聞くことにした。

 

 その後降魔と双葉は魔術について色々と話をしていた。

 双葉の話す魔術はどれも興味深い物ばかりで降魔は目を輝かせて聞いており、時折メモまでしている。

 一方で双葉は降魔を見てほんの少し顔を赤くしていた。


(な、なんか子供みたいで少し可愛いわね……)


 今まで何をしても、それこそ炎児と戦っていた時ですら常に無表情だった降魔が、今は子供のように目を輝かせているのだ。

 その姿に双葉が少し母性を感じた瞬間だった。

 しかしそんなことなど全く気づいていない降魔は、双葉から聞いた魔術に感嘆していた。


「まさか俺の知らない魔術があれ程あったとは……。全部ではないとは思っていたが……先人は凄いな……」

「当然よ。何せ昔はこんなに平和ではなかったのだから」


 双葉がため息を吐いて答えると降魔はそうだな、と頷く。

 昔は今のように強力な戦力もなく、ゲートもろくに攻略できなかった。

 そのため魔術を早急に完成させないといけなかったのだろう。

 その先人達の知恵の髄が詰まったものが魔導バングルと魔術と言うわけだ。


「しかしどれも口頭だけでは全くどう言う原理か分からんな。特に空間魔術」

「ああ、あれね……あれは私でもまだ使うことはできないわ。これでも5年ほどは特訓しているのだけれどね。掴みは行けてもその先がいけないのよ」


 空間魔法とは、双葉が言うには人類が作った魔術の中で特に難しい物らしい。

 召喚魔術の元となった魔術であると同時に、召喚魔術はこの魔術の超劣化版となっているらしいのだが、そこに関しては降魔も話を聞いていて感じていた。

 実際に召喚魔術は違う空間から召喚獣を召喚しているのだから、空間魔術が元となったのはまず間違い無いだろう。

 しかし召喚魔術が超劣化版と言われたのには少し降魔はむすっとした表情になる。

 自分は超劣化版すらまともに発動させれないのだからそんな簡単だと言うなと言いたいのだろう。

 しかし双葉はそんな降魔の表情にまたキュンとしていた。


(整った顔であんな表情されたら危ないわ……。それにいつも無表情だからギャップで余計に……)


 それは双葉にも言えることなのだが、完全に棚に上げている。

 そんなことを考えていた双葉に降魔が声をかける。


「空間魔術はどこかで習うことはできないのか? できれば是非とも習いたいんだが……」


 降魔は双葉を期待に満ちた目で見ながら聞く。

 もし習えるのなら絶対にやっておきたいと思っていた。


 今の降魔は知っての通り召喚魔術だけ使えない。

 だが、空間魔術を知ることによって自身が召喚できない理由がわかるかもしれないとなるとどうしても気になってしまう。

 しかし双葉の答えは芳しくなかった。


「それがね……私の家の者は誰も使えないのよ」

「ん? なら龍川は一体誰から学んでいたんだ?」


 降魔が当然の疑問を口にする。


「私に教えてくれていたのは——《空虚》なの。だからほとんど家にいないのよね……」

「何? 空虚だと? 日本に3人しかいないSSS級召喚術士が何故龍川みたいな未成年を? と言うか家にいないってどういうことだ?」


 降魔は驚きと共に様々な疑問が生まれてくるが、1番に聞きたいのはそれだ。

 いくら双葉が才能があると言っても、きっと忙しいだろう日本最強の1人がわざわざ双葉を鍛えるためだけに来るだろうか?

 そしてわざわざ教えるためだけに家にいるか?

 降魔はここまで考えて、あり得ないと結論づける。

 しかし降魔は次の言葉に更に驚くこととなる。


「誰にも知られていないのだけど……空虚と私は親戚なの」

「は!? 何だと!?」


 降魔はここ何年かで1番大きな声を出した。

 しかしそれも仕方のないことだろう。

 自分の目の前にいる相手が世界でもめちゃくちゃ有名な人の親戚だと知ったら誰だってこんな反応になるはずだ。

 降魔は目で詳しく話せと促す。

 すると双葉は、『言うわよ』と少し口をすぼませて言いながら続きを話し始めた。


「空虚は———」




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