第12話 優等生の過去と、追い詰められた劣等生

 とある離島の森の中で1人の女子生徒が男子生徒に詰め寄っていた。

 側から見れば完全に逢瀬に見えるが実際はそんな甘酸っぱいものではない。

 女子生徒改め龍川双葉が、男子生徒改め八条降魔にジリジリと近づいて行き口を開く。


「ねぇ……さっきのことと言い……一体貴方何者?」

「え、えっとだな……」


(最悪な展開だ……。はぁ……どうしてこうなったんだ……)


 降魔は綺麗な緋色の眼から視線を逸らしながら空を見上げた。

 

 何故こんなことになっているかは、今から少し前に戻る。

 







☆☆☆







 双葉は降魔の隣に座り、降魔の顔を覗き込む。

 男に今まで興味を持ったことのない双葉から見ても整った顔をしており、綺麗な黒髪は顔によく合っている。

 双葉自身沢山の顔の整った男性を見てきたが、降魔は間違いなく上位に入るであろう。

 本人は全く意識していなさそうだが。


「ムカつくほど綺麗な髪ね……」


 双葉は何もしていなさそうなのにサラサラしている髪を少し触る。

 しかしすぐに慌てた様にパッと離す。


「な、何で……私はこんなことを……」


 双葉は自身の手を呆然と見る。

 双葉は自分のしたことに驚いていた。

 それはことだ。

 

 双葉は幼い頃から数多の人間に会ってきた。

 そして自身に取り入ろうとするものも中には沢山いたし、双葉と結婚したいと言うものも沢山いた。

 そうすれば名家の龍川家に婿として嫁ぐことができるからだ。

 そのため様々な男が双葉に近づいてきた。

 はるかに年上の男がお見合いに来たこともあった。

 何も分からないような赤子を連れてくるような所もあった。

 性格の悪い自己中な男が来たこともあった。

 様々な男が来た。

 時には性格もよく顔もいい男がくることもあったが双葉は全てを断る。

 何故なら全ての男には共通したことがある。



 ———みんな私の家と体だけでちゃんと私の事を見ていない———



 僅か8歳で双葉はそれに気付いてしまった。

 それから双葉は男に嫌悪感を抱くようになってしまう。

 それからと言うもの極力男子と関わるのを避けていた。

 まぁ炎児とは喧嘩をしたりはしていたが。


 そんな双葉が降魔に無意識に触れることができたのだ。


 双葉は自分の手から降魔へと再び目を向ける。

 未だ眠っている降魔を見ていても何故か嫌悪感を抱かない。

 

(何故かしら……? 彼が今まで出会ったことのない男だったから? それとも———……? 分からないわ……。最近わからないことが多すぎて落ち着かないわ)


 双葉はその全ての元凶である降魔に段々と腹が立ってきた。

 早く聞きだそうと思い降魔を起こすために手を伸ばした瞬間。


「ん……だれだ……?」

「———ッッ!?」


 降魔が目を覚まし、双葉はその場を一気に3mほど離れる。

 降魔は上半身をゆっくり起こし伸びをする。


「んん~~~はぁ~~。……それで何でここに居るんだ、龍川?」


 降魔は双葉を見ながらそう問う。

 表面的にはめちゃくちゃ冷静に問うているが、心の中では大慌てである。


(何故こいつがここにいるんだ……!? 俺、確かにコイツのこと撒いたよな? 何かの魔術を施されていたのか……!?)


 降魔は急いでマナ感知で自身の体を調べる。

 すると服の一部にマナがついていた。

 

(これか……! いつの間に……)


「一体どう言うことか説明してもらえないか?」


 降魔は双葉をジトっとした目で睨む。

 すると双葉は目を逸らしながら答える。


「そ、その……貴方を追跡魔術で追ったと言うか……なんと言うか——「何!? 追跡魔術だと!?」———へっ?」


 突然テンションの上がった降魔に素っ頓狂な声を上げる双葉。

 しかしそんなことお構いなしに降魔は質問していく。


「どう言うことだ? 追跡魔術は【喪失魔術ロスト・マジック】のはずだが!? 一体どうやってその魔術式を手に入れたんだ!? 学園にあるどの本にも載っていなかったのに!」

「ち、ちょっと落ち着きなさい! 分かったから! 教えてあげるから離れなさい!」


 顔を赤くした双葉がそう叫ぶ。

 いつの間にか降魔は双葉に思いっきり顔を近づけており、お互いがお互いの瞳を見つめる状態となっていた。

 それに気付いた降魔は『ごめん』と軽く謝り離れる。

 降魔は特になんとも思っていないようだが、双葉は全然そんなことなかった。


(な、なんであんなに顔を近づける必要があるのよ……。めちゃくちゃ恥ずかしかったじゃない……)


 双葉は真っ赤になった顔に向けて手で仰ぐ。

 そして何とか落ち着いたところで詳しく降魔に教えた。


「なるほどな……さすが名家というわけか……なくなったのではなく意図的に隠しているのが【喪失魔術ロスト・マジック】と呼ばれているものの正体だったわけだ」

「ええ、そうね。どれも広がりすぎたら危険だとか、面倒なことが起こるとかいうものばかりよ。一体どれくらいあるのかは私も知らないけれど」


(まぁそれはしょうがないだろう。コイツもいくら才能があると言ってもまだ15歳。俺よりも年下のコイツがそう何個も教えてもらえるわけもないしな)


 降魔がそんな事を考えていると、双葉が此方をじっと見ていることに気づいた。

 何事かわからない降魔は首を傾げながら聞く。


「どうしたんだ? そんなに俺を見て」

「いえね、私はこんなに重要な事を教えたのに何か対価は無いのかなと思っているだけよ」

「それは歳上に奢れって言っているようなもんだぞ」

「なら貴方はこんなに重要な内容をタダで聞こうとしていたの?」


(くそッ……完全に嵌められた……! コイツわざと追跡魔術の事を話したな……!)


 降魔はそう思っているが全くの偶然である。

 しかしそれを知らない降魔は双葉を睨む。

 一方で双葉は何が何だかよく分かっていないがいい方向に進んだのでドヤる。

 子供のマウントの取り合いみたいである。


「………………何が聞きたいんだ?」


 観念した降魔は双葉にそう聞く。

 すると双葉は少し考えるような動きをするが、すぐに思いついたのが、


「随分前からずっと思っていたのだけれど、貴方……一体何者? 勿論答えてくれるわよね? 私も大事な事を言ったのだから」

「俺は普通の———」

「嘘ね」

「……チッ」

「舌打ちするな」

 

 双葉は降魔の瞳を覗き込みながら言う。


(学生時代から年上が年下に言いようにやられているっていうのも俺たちぐらいだろうな)


 降魔は目を逸らしながらぼんやりとそんな事を考えるが、先程とは反対に双葉がジトっとした目で降魔を睨む。


「……早く言って」

「はぁ………………………なら少し聞いてくれるか? 俺の——人生で1番大好きで大嫌いな過去を」


 降魔はポツポツと自身の過去のことを話し始めた。


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 あれ? もっと降魔の過去は後にする予定だったんだけどな?

 なんか次になっちゃった。

 読者の皆様には予め次話が少しシリアスシーンになると言っておきます。


読者の皆様へ

 ここまで読んでくださりありがとうございます!!


 面白い! まぁまぁかな? 続きが読みたい! などと思っていただければ、☆☆☆→★★★にしていただけるとありがたいです!

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 ではではまた次話で。

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