第11話 覗き見る優等生

 降魔が【身体強化】を使ってランニングを始めようとしていた頃。

 

 双葉は追跡魔術で降魔を探していた。


「どうやってこんなに遠くに行ったのよ……。もう20分も歩いているんですけど」


 双葉はブツブツ文句を言いながら降魔の元へ向かっていく。

 今双葉は追跡魔術で他の魔術が使えない状態。

 なので歩いているのだが、降魔のいる森の聖域までは後10kmほど。

 普通の人間ならば10kmを歩きと言うのは少々時間がかかり過ぎる。

 それは双葉も例外ではない。

 幾ら召喚術士とは言え、元のスペックは人間の限界を越えることはできないのだ。

 

 結局1時間かけて何とか森の入り口にたどり着いた双葉。


「はぁ……これから登るのね……歩いた後だと億劫になるわ……」


 ならやめればいいじゃないかと思ってしまうが、今の双葉には禁句だ。

 もし双葉の耳に入ったら何をされるかわからない。

 

 双葉がゆっくりと森の中に足を踏み入れようとした瞬間。


 ドカンッ!


 森の奥から急に何かがぶつかる音が聞こえた。

 双葉は急いで追跡魔術で位置を確認する。


(音のした場所は私から見て真っ直ぐの場所だった……と言うことは発生源は八条降魔!? どうやってあれほどの音を出したって言うのよ!)


 双葉は急いで追跡魔術を解除する。


「《我が身を強化せよ———》【身体強化】」


 そしてすぐ様【身体強化】を発動させて森の中を駆け抜ける。

 途中で熊や狼が逃げているのを見かけたが、無視して降魔の元に突き進む。

 すると森の中のはずなのに開けている場所が薄らと見えてきた。

 そしてそこから大量のマナが発生している。


(な、何なのよこのマナは……! 自然発生したには多すぎる……! 絶対に八条降魔ね!)


 双葉はどんどん近づいていく。

 そしてやっと降魔の姿が確認できるところまできた。

 そこで双葉は降魔に声を掛けようとして目の前の光景を見て言葉を失う。


「どうだっ!」

『……………………』


 双葉の目には、降魔が超速でガタイのいい全体的に朧げな感じの大男に攻撃している姿が映っていた。

 降魔の動きは、双葉から見ても異次元と言わざるを得ない領域だった。

 しかしそれよりも更に大男の方が洗練された動きをしている。


「な、何なのよほんとに……」


 双葉は呆然としながら呟く。

 確かに降魔の動きならば双葉でも対応できるだろう。

 しかしそれは双葉が本気で【身体強化】をした時だ。

 自分は世界で最も適合率の高い人間の1人。

 対する降魔は歴代入学者で最も適合率の低い人間。

 どう考えてもおかしい。


(どう言うこと……? 八条降魔は本当に適合率が10%なの? 10%ならこれほどのマナを体に取り込んだら死んでしまうはず……。それにあの戦士は何?)


 双葉は降魔と戦っている大男を観察する。

 見るからに歴戦の猛者の風貌を持っており、1つ1つの動きのキレが凄い。

 そして不気味なのだ。


(あの人は絶対に人間じゃない……では何? ゴーレムなどのモンスターでも無さそうだし、ドッペルゲンガーなどでもない…………うん? そう言えばあの人の体の色は何処かで見たことがあるような———……あっ!)


 双葉はここで昔見た1つの魔術を思い出す。

 

(確かにあの魔術なら今のこの状態が説明つくわ。でもあれは普通の魔導バングルには付いていない。だから必ず何処かに魔術式が描かれているはず……)


 双葉は【幻影魔術】だと気付き周りに魔術式がないか確認する。

 この魔術は大抵何かの紙に描かれているのにマナを通して使う魔道具によって発動させる。

 ならば必ず何処かに魔術式が描かれた紙があるはずと思い、双葉は地面を中心に探していく。

 すると地面に手書きとは思えないほど綺麗に描かれた魔術式を発見した。


(まさか自分で描いたって言うの……!? あんな難解な魔術式を!?)


 双葉はそのあり得ない事実に口を大きく開けて驚く。

 きっと降魔がこれを2分ほどで描いたと言ったら更に驚くだろう。


「あ、あり得ないわ……こ、こんなのプロでも……」


 狼狽えている双葉を無視して降魔と幻影の戦いは佳境を迎える。

 上空にいる降魔が物凄い速度で落下していた。

 それを迎え撃とうとした幻影が突如見えない壁にぶつかる。


「なっ——!? 一体何が———」

「どうだ! 俺の結界魔術と幻影魔術は!」

「———は?」


 降魔が幻影に打撃を喰らわせると幻影が『パァン!』と言う音を立てて破裂してしまった。

 

 降魔はすぐに飛翔魔術を使って落下を回避して静かに着地する。

 その間双葉は放心状態だった。


 次に双葉が意識を取り戻したのは、降魔が眠っている時だった。


「……え? 一体何が……わ、私、夢でも見ているのかしら……?」


 そう思ってしまうのもしょうがないだろう。

 落ちこぼれだと言われていた降魔が召喚魔術以外の様々な魔術を使って、双葉でも召喚獣が居なければ倒すことが難しそうな幻影に勝利して見せたのだから。


 双葉はふらっと降魔に近づいていく。


「な、何なのよあの戦闘は……」


 目の前にはあどけない寝顔を晒した降魔がいる。

 そんな降魔を見ながら言葉を漏らした双葉の頭の中は、『分からない』で埋め尽くされていた。


 ———降魔が説明ラッシュを要求されるまで後2時間半。



---------------------------

 とうとう降魔の強さがバレてきましたね。

 次回は双葉と降魔の話し合いです。

 一体どんな事態になるのやら……。


読者の皆様へ

 ここまで読んでくださりありがとうございます!!


 面白い! まぁまぁかな? 続きが読みたい! などと思っていただければ、☆☆☆→★★★にしていただけるとありがたいです!

 また、フォロー、応援コメントなどを頂けると作者の励みになります。

 ではではまた次話で。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る