第3話 劣等生のもう1つの理由
降魔はゆっくりと朝倉の前まで行き、立ち止まる。
先程の結希斗が派手に盛り上げたせいで降魔と言う誰もが避ける生徒でさえ周りが注目している。
しかし降魔はそんなこと全く気にすることもなく、既に何十回と立ち幾度となくこの場で失敗を繰り返したことを思い出す。
(もう4年か……初めの頃はそれはもう酷かったなぁ……。マナ操作どころかマナを魔導バングルを使っても集めることができなかった。それだけならよかったのだがな……)
降魔は入学したての頃の召喚魔術の授業のことを思い出して少し穏やかな、何かを懐かしむような顔をしたかと思うと突然顔を思いっきり顰める。
降魔にとっては同級生達との思い出は最悪なものしかない。
挙げると沢山あり過ぎるのでまた今度にしておこう。
降魔は準備ができていることを教師の朝倉に伝える。
「先生、準備はできています」
「……この授業だけは準備がいいな」
「俺にとってこれ以外は既に必要の無いものなので。ですが先生には感謝しています」
「……そうか……」
朝倉が常に召喚魔術の授業以外サボっている降魔に小言を言うが、あっさりと降魔に返される。
しかしそれに関して朝倉は言い返さない。
何故なら全て事実だからだ。
全て事実だから教師達は何も言わなくなっていった。
今でもこうして小言や注意をするのは朝倉と降魔の担任くらいだろう。
故に降魔は朝倉には感謝していた。
こんな不真面目とも取れる生徒で、尚且つ学園史上最も才能のない劣等生の自分のことを邪険にせず真剣に向き合ってくれることに。
担任も基本はそうしてくれるのだが、何処か降魔を劣等生と捉え特別扱いをする節がある。
降魔はそういうのが苦手なのだ。
しかし朝倉は降魔を他の生徒と同じように扱う。
降魔は入学から1年目の時は本気で退学を考えていた。
しかしそれを止めたのが朝倉だった。
朝倉は降魔に『劣等生だから、才能がないからと言う理由はどうでもいい! 今時どうかと思うが根性論だ! 才能で差があるのなら努力でなんとかしろ!! 俺も手伝ってやるから!!』と言い、今でも必死に降魔ために色々としてくれており、そんな朝倉のことを降魔は唯一頼れる大人だと思っている。
(ほんと朝倉先生様々だよな。まぁだからって授業に出る事はないけどな。―――それじゃあ始めるか!)
降魔は意識を集中させマナを魔導バングルを通して操作しながら、朝倉に目で合図をする。
朝倉は幾度となく見た合図にすぐ気付き、開始の合図をした。
「よし、それでは1年Z組八条降魔、始めてくれ」
「《我、契約を願う者。我が召喚に応え給え———》【
降魔は丁寧に、なおかつ慎重にマナを召喚魔術式へと流していく。
魔術式にマナを注ぐが、中々光らない。
「ぐぅぅぅぅ!!」
降魔は必死にマナを注いでいき、5分ほど注ぎ続けるとやっと術式が光出した。
「おっ!?」
「むっ!?」
降魔と朝倉が驚きの声を発する。
今まで降魔は術式を光らせることすらできなかったからだ。
降魔は初めて光らせることができたことに驚きの声を上げたが、朝倉は更にもう一つの理由で驚いていた。
(バカな……!? 降魔の奴は確かにマナをしっかりと注いでいた……。それも先程の鏡の奴よりも1度に多く注いでいたにも関わらず5分もかかっただと!? おかしい……10%ではそこまで出来ないはずだ……)
そう、降魔は5分間ずっとマナを流し続けていたのだ。
一般的な召喚魔術だと契約前だと言え、1分もかからない。
実際に上級召喚獣を召喚した結希斗は30秒程で光出していた。
それを考えると降魔のマナの注入時間は異常だ。
朝倉は固唾を飲みながら紅魔を見る。
しかしその時降魔には予期せぬ事態が起こっていた。
(まずい……マナが制御出来ない———! くそッ、折角初めて光ったって言うのに……)
降魔が魔術式にマナを注いだ量が物凄く多かったため、降魔自身がマナを制御出来なくなっていた。
降魔はなんとか魔導バングルの機能も使いながらマナを制御していくが、魔術式からは時折雷の様な火花が発生し、魔術式の周りにマナが渦巻き出した。
降魔は何とか発動させようと維持に努めるが———
(く———ッ、ダメだ———)
とうとう魔術式からは光は消え失せ、辺りには静寂が広がった。
先程までざわざわしていた生徒たちもシーンと静まり返る。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
膨大なマナを操作したことによる疲労でふらつく降魔。
「だ、大丈夫か!? 今から保健室の教師を呼んでくるから少し待っていてくれ!」
朝倉がすぐに駆け寄り近くのベンチに座らせ、保健室の教師を呼ぶために第1練習場から飛び出して行った。
それを確認した生徒達は———
「ギャハハハハハ!! 何だよあいつ! 何年も留年してんのに召喚すら出来ないのかよ!」
「ああ、噂通りの奴だな! こんなにも無能な奴がこの学園にいるなんてな!」
「ねぇ、あの劣等生情けなくない?」
「うん、何であんなのが学園にいるのかわからないわ」
降魔を兎に角嘲笑い、侮蔑の目を向け笑い出した。
それはどんどん伝染していき殆どの、それこそ学園でも成績下位の生徒達ですら降魔を笑い出す。
しかし降魔はそんなことどうでも良かった。
(はぁ……またこれか……どの学年になっても人間ってのは変わらないんだな。どいつもこいつも屑ばかりだ。まぁ全て事実だし今更言い返す意味もないが。それよりも———)
降魔は先程のことを思い出して少し頬が緩む。
(遂にやったぞ……ッ! 初めてマナを最後まで注げて光らせることができたぞッ! あと少しだ……あと少しで何か掴めそうなんだ……きっかけさえあれば)
降魔はベンチに座りながら体に残ったマナを魔導バングルを通して放出していく。
すると突然背後から誰かが降魔の頭を叩いた。
「ギャハハハ、おい! お前何で留年なんかしてんのかと思ったら召喚獣を召喚出来ないからなのか!」
「ガハハハ、ダッセェええ! 年上だからってビビる必要なかったな!」
そう言って再び降魔の頭を叩く。
更には降魔が外していた学園の魔導バングルを目の前で踏み潰した。
「あーあ、お前魔導バングル壊したな! これは弁償だな!」
「どうせ払えないだろうけどな!」
「「ギャハハハハハ!!」」
2人の男子生徒はそう言って降魔を馬鹿にするだけしてどこかに行った。
周りは先程のやり取りを見て冷笑している。
しかし降魔は特に気にせず魔導バングルを手に取り、慣れた手つきでいつ取り出したのか知らないが、どこからともなく現れた袋に入れ出した。
それを見て更に周りの生徒達は無様だと笑う。
(はぁ、本当に低俗な奴等だな。これじゃあ今後の日本が危ぶまれるな)
降魔はため息だけついて生徒達の嘲笑を受けながら、朝倉が出て行った出口へと向かって歩き出した。
~~~~~
時は少し戻り、降魔が召喚魔術を発動させる直前。
双葉は降魔を誰よりも注視していた。
理由は簡単。降魔のマナ操作が自身と同等以上だと思ったからだ。
(あれほど綺麗なマナ操作なのにどうして留年なんてしているのかしら? まぁこれで大体が分かるはずよね)
双葉は目にマナを術式を通して流し、身体強化の一環の眼力強化を発動する。
これは所謂部分強化と言われるもので、高等技術だ。
因みに降魔が発動していたのは単純にマナを目に集めているだけなので、擬似強化とでもいうものである。
双葉は降魔のマナ操作をみて、やはり私よりも上手い、と感じてしまい余計何故留年しているのかが分からなくなってしまった。
しかし突如そのマナ操作に綻びが入る。
(なっ!? どう言うこと!? マナ操作は完璧だったのに何故マナが暴れるの!?)
自分のことではない筈なのに、自分のことの様に驚く双葉。
そして耐えようとした降魔だったが、結局召喚魔術を失敗させてしまった。
その姿を見て双葉は違和感しかなかった。
(彼のマナ操作に問題はなかった……でも何故か発動しない……いや何かが発動を阻害している? うーん、流石の私でもこの現象は分からないわ)
双葉は自身がいくら考えても答えが出ない事を悟り思考を中断させると、周りの声が耳に入ってきた。
「ギャハハハハハ!! 何だよあいつ! 何年も留年してんのに召喚すら出来ないのかよ!」
「ああ、噂通りの奴だな! こんなにも無能な奴がこの学園にいるなんてな!」
「ねぇ、あの劣等生情けなくない?」
「うん、何であんなのが学園にいるのかわからないわ」
これを聞いた双葉は呆れと怒りの織り混じったため息を吐く。
(先程のがあれほど笑うことかしら? マナ操作なんて貴方達とは比べ物にならないほど、それこそ私よりも素晴らしいと言うのに。私までイライラするわ)
何故これ程までに怒りを抱えているかと言うと、産まれてから常に同世代では———それこそ年上の人にも負けたことがなかった双葉が、初めて自分よりも上だと認めた相手がここまで侮辱されているのは、自分も侮辱されている様で気に入らなかった。
しかし双葉は降魔を見て更に怒りを覚える。
それは降魔が何をされても何も言い返さないからだ。
頭を叩かれても魔導バングルを壊されても言い返さず目も合わせない。
双葉にはそれがとても情けなく、臆病な弱者に見えた。
そして自身に負けた相手が自分と話すときの態度と似ていて苛ついた。
(気に入らない……。何故言い返さないの? 何故自分が侮辱されているのに黙っているの? 私に負けた奴らも私には何も言ってこないし。どんな理不尽な事を言っても…………本当に分からないわ)
双葉は無言で出口に向かう降魔を見ながら、自身も再び契約をするために朝倉の前へと歩き出した。
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ではではまた次話で。
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