神秘の湖

 この広い世界の何処どこかに、その湖はあった。

 人を寄せ付けない場所に静かに存在し、美しくんでいる。

 一見すると、秘境にある観光スポットのような場所だが、奇妙なことが2つ。

 1つは、この湖のほとりには人の衣服が散乱している、ということ。

 2つ目は、この湖に魚が1種類しか生息してない、ということである。

 この2つの謎を究明するために、特別調査チームが派遣された。

 

「ふー、ようやくついたー」

「ですね。まったく、最新鋭の水中ドローンだか何だかしれないですが、重いんですよ、これ」

「文句を言えるあたり、まだまだ元気だな」

「隊長。それはつまり、もう始めるということですか?」

「いや、メカニックである君も、生物学者の彼も準備がいるだろう。それに、もう直ぐ日没だ。捜査は、明日だ」

 隊長の言葉に、せっせとテントを設営する隊員2人。

 1人は、メカニックの若い女性だ。

 そして、童顔だが三十路を超えている生物学者の男性と初老の隊長だった。

 つつがなく野営の準備が整い、夕食も手早く済ませる。

 明日の調査に向けて、準備を進めていると、生物学者が声を上げた。

「ふたりとも、少しいいですか?」

「ん? どうした?」

 生物学者のもとへ、2人が駆けつけると、足元に白い小さな魚がいた。

「……これが、この湖にいる魚? 取ったんですか?」

「いえ、打ち上げられてたよ。一応、ふたりにも確認してもらった方がいいかと思いまして」

「ふむ……」

 隊長が魚の近くで膝をつく。

 すると。

「ぐっ!?」

 魚が急に飛び跳ね、隊長の膝へかみついた。

「だ、大丈夫ですか!? 今、取りますので!」

 生物学者が、慌ててピンセットで魚を引きはがそうとした時だった。

 白い魚の色が、真っ赤に染まった。

 そして。

「――――――――――――――――――――――――――――っ!?」

 隊長が声にならない絶叫する。

「隊長!?」

 生物学者がパニック状態になりかけた時だった。

「こっちです!」

 メカニックが、生物学者の腕をつかみ、ほとりから離れていく。

「ダメです! 隊長が!」

「あれを見て、まだ助かると!?」

 生物学者が改めて隊長の体を見ると、思わず絶句する。

 先程まで1匹しかいなかった湖の魚。

 その魚が、隊長の体のいたるところに付き、体を赤く染めていた。

 そして、隊長の体は、ミイラのように干からびていた。

「……血を吸っている!?」

「恐らくは。今はとにかく、湖から離れますよ!」


 メカニックと生物学者は、命からがら生き延びた。

 神秘の湖の正体。

 それは未だ、ようとして知れず。

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