耳が聞こえない世界
龍川嵐
私としての理想の世界
いつもの今朝は、鳥の鳴き声や車のクッション音、近所の話し声、小学生の騒ぎ声など様々な音が左右上下に飛んでいく。
毎日必ず両腕を青い空に向けて背伸びをして『ああー朝だねー』と心の中で叫ぶ。
私は生まれつきで耳が聞こえない。
耳が聞こえないと、生活では不便だろうと両親が心配で医師と相談した結果は、医師の紹介で補聴器を装着する。補聴器は小さな音を大きくするための道具だ。
だが、補聴器を装着したので、普通の人と同じようになれる訳はない。
話す内容も理解できない。え?どんな風に聞こえる?
んー、私は「あえおおあえおあ」みたいに聞こえる。まるで呪文のように聞こえて、心地が悪い(笑)口話だけ話を聞いても内容がわからないので、私は私に話す時に必ず筆談するようにしほしいとお願いする。
話をする時、いちいち筆談お願いします筆談お願いしますと何度も繰り返す。ふと気づいたら、「筆談をお願いします」は、話を入れる前の最初のキーワードになっていた。
今だけなく、これからも続けていくだろう。実は、小学生まで耳が聞こえない人のための学校に通っていた。なので手話を覚えることができた。
手話とは、耳が聞こえない人とのコミュニケーションツールだ。
日本語と英語と同じくらい立派な言語だよ。えっへんと実際には鼻を伸ばしていないが、頭の中で鼻を伸ばすイメージを描いて胸を張る。でも日本語と英語のように多数派ではなく、方言やアイヌ語のように少数派なので、手話を知っている人と手話を使える人は明らかに少ない。
私の周りでは、口話だけしか話されていない。もはや孤立になっているよ(TдT)
気軽に話せる相手がいない。
私は家族がいるけど、手話を使えないので、あんまり話さない。
私は他の生徒と同じように普通に過ごしている。生活窮屈でもない。生活としては幸せだが、自分自身は満足しない。「だってさ、言いたくても言えないことが多くて、ストレスが溜めちゃうわ」とバタバタと暴れたい。暴れたいが、暴れない。子供みたいな反応だなと思われてほしくない、みられてほしくないので、いつものように従順な子になりきって過ごしている。
きちんとした音は聞こえないが、なんとなくわかる。
毎朝、ドアを開けた後すぐに目を閉じて静かに耳を澄ます。街中から飛び出している様々な音を拾えるようにしている。何の音のかわからないが、たまたま聞き拾えた音を想像する。『あ、この音は鳥の鳴き声かな?』『あ、これは車のクッション音かな?』頭の中で色々なイメージを浮かびながら音を聞く。言葉としては聞こえないが、意味のない音を聞くのが好き。この時間が好きで、雨の日でも欠かさずに耳を澄ます。
ある日、いつものように玄関ドアを開けると、フードを深く被っている人がいた。
玄関ドアの前にいることが知らなくて、胸から心臓でも飛びそうになっていた。どうしてここにいたのか聞きたいと思い、カバンの中からノートを取ろうとしたら、私の腕を掴まれた。ひゃっと声を漏らした。
どうしよう。。。知らない人に掴まれた。。。
どっかに連れられていくじゃないか?怖くて腕をブンブンと動かそうとしたが、一つもビクッと動かなかった。
どうしようと考えると、思わずに涙が出始めた。涙を流す姿を見られてほしくなくて、掴まれていない腕で目を隠した。声を漏らさないように必死に我慢した。
目を隠した腕の下にスッと白いハンカチが出てきた。
え?と思って顔をあげると、「このハンカチを使っても良いよ」と手話を使ってくれた。
あ、あ、とあまりびっくりしすぎて、すぐに言葉が出なかった。とりあえずありがとうと伝えて、すぐにもらったハンカチで濡れた頬を丁寧に拭いた。フーッと乱れた呼吸を取り戻した。「手話を使えてたね。どこで教えてもらった?」と質問した。謎のフードさんが「ああ、僕も耳が聞こえないよ」と答えた。
「そうなの?私と同じだね!」と次々の話題が続いた。
こんなに話を盛り上げるのは、久しぶりだ。やっぱり「手話の方が気を使わずに気軽に話せるだもんね。何分くらい経ったかわからないが、多分10分くらい経ったと思う。私が聞こうとしたら、私の顔の前に謎のフードさんの平手を見せられた。
「そろそろ最後になりますので、仕事として果たしてもらいます。さて、僕から質問しますので、答えてください。あなたにとってこのような世界になってほしいですか?」と突然に盛り上げた話を上げてすぐに質問された。あまり急なので、深く考えず反射に「音のない世界になったらみんなが手話をつかってくれるかな。なんてな。あははは」と笑いながら答えた。
深く被っているフードで隠しきれない口がニヤッと口角を吊り上げた。
「承知いたしました。あなたの望み通りに叶えさせてあげます。またいつか会える日に会いましょう」
バッと手を私の顔に出して、私はウワッ!と反射に目を瞑った。
目を閉じたが、私の顔を触れたような感覚がしない。恐れ恐れながら目を開けると、謎のフード男が消えた。
「謎のフード男は誰なのかな?わからないけれど、私と同じくろう者だったね。久々に手話だけ話を盛り上げることができて幸せ」
スマホを確認すると、「やべっ」と漏らした。急がないとバスに乗り遅れてしまう。
カバンにスマホを突っ込んで、バス停留所に向かってダッシュした。
自慢ではないが、クラスの中で一番足が速い。自慢である足で時間に間に合うように走った。
でも、いつもと何か違う。いつものように意味のわからない音が聞こえない。
「やっぱ、おかしい」
バス停留所にバスが来る予定から2分前にギリギリ到着した。
はあはあと息切れがして、苦しい。苦しくて、手が膝につけて乱れた呼吸を正そうとした。
隣に私と同じクラスにいる男子生徒がいる。
この人の名前は、宗谷。友達がたくさんいて、いつも話しかけられる。しかも自分から話しかけにいくことができる。コミュニケーション力が高いので、多くの生徒から話しやすい、相談しやすいとかなど彼の良いところをポンポンと出てきている。
私から見ると、好かれている人間だねと言葉が出ていた。その言葉の裏は、宗谷と違う人間なので、この世界では生きづらいという意味を込めている。
『え?そんなことを言っても良いの?』
『大丈夫大丈夫、それは心の中で話しているので、外部の人は知らないと思う』
『まあ、私と同じような人間ではないと理解できないだろう』
『そう、最初から期待を持たない方が最後に不幸にならない。だからいつも期待を持たないようにしている』
宗谷が深く考え込む私の顔の前に手で振った。手で振られていることをハッとようやく気づいて、宗谷の顔を見た。
「日高さん?大丈夫?」
え?筆談?
おかしくない?いつもなら口だけはっきりと動かして話しているのに、どうして今日は筆談?
「なんで筆談している?」
と声を出そうとしたが、出せなかった。
え?え?なんで?いつもなら声を出せていたのに、どうして今は声を出すことができない?
「混乱しているのは僕もわかる。とりあえず落ち着いて」
と宗谷が筆談してくれた。
「なんか突然音が聞こえなくなったそうだ。家でもプチパニックな状態になって大変だった」
シャーペンとノートを持ったまま腕を組んで、ふーと軽いため息を吐いた。
『なんで急に音がなくなってたかな?さっきまでは普通に音が聞こえていたのに?』
私の顎を手を当てて、朝に起きてからバス停留所に到着するまで何をしたか遡ってみた。
いつも通りに朝に起きて、朝食を食べて、歯磨きをして、制服を着て
その後は鞄を持って玄関から出た。玄関前で変な人がいた。
え?変な人?そんな人に出会ったっけ?記憶が曖昧なので、はっきりと思い出すことができない。
「どうしよう・・・どうしてこんなことになってしまった・・・」
ああ・・・と絶望したような表情になった日高。
宗谷がこんな日高を見ると、プッと笑い始めた。
「あははは、なんで落ち込でいるの?」
と手話を使ってくれた。
「え?」と口を開いたまま驚いた。勝手にフリーズされて、数秒後にようやくフリーズを解消した。驚きを隠せないせいで手が震えていた。それでも必死に耐えて一つ一つ丁寧に手話を表現した。
「え?え?え?手話使っている?」
「うん。使っているよ。びっくりした?」
「そうだ!びっくりしたよ!え?友達がたくさんいて手話を覚える時間がないだろ?」
「ああ、まあ、友達と一緒にいる時間はもちろんだけれど、勉強する時間はちゃんと取っておるよ」
「・・・手話を覚えても意味がないよね。一生懸命に覚えても実際に使える機会が少ない。だから無理に覚えなくてもいいよ」
「なんで?覚えるのはダメの?嬉しくないの?」
ブンブンと顔を左右に振った。
「ううん。嬉しくなくはない、すごく嬉しいよ。でも、手話を覚える時間があれば、他に好きなことや趣味をした方が良いと思う」
本当は嬉しいけど、宗谷の時間を奪ってほしくない。
「その方がストレス発散できると思う。私のために手話を無理に覚えなくてもいいよ」
無理矢理に口角を吊り上げて、笑顔を見せてあげた。
「えへへ、手話を覚えてくれてありがとうね」
感謝を伝えた後、私の肩を掴まれた。
「なんで日高さんが決めるの?それは勝手な思い込みだ。いやいやと思いながら勉強しているわけはない!ただ日高さんのこと好きなので、日高さんと話したいので、手話を必死に覚えてた!」
音がないので、振動さは伝わってこない。
でも、なんか伝えたい情熱さがよく伝わってきた。心がふつふつと沸騰しそうになるくらい熱い。
普通なら恥ずかしくて相手の目を逸らすことが多いが、宗谷は違っていた。
私の瞳から逸らさず、まっすぐに見つめていた。宗谷の瞳を見ると、嘘でもなく、本気の目だった。
あんまり見つめられすぎて、ドキドキした。
その気持ちを表に出さないように必死に我慢して質問した。
「なんで私のこと好きなの?」
「好きになった理由?言うのが恥ずかしいけど、わかった言うよ。いつも周りの人に迷惑をかけないように行動しているところ。例えば、筆談するのがめんどくさい人に筆談させないで、口話はわからないけど、必死に相手の口を読み取ろうとしている。他は、耳が聞こえないけど、意味のわからない音を楽しんで聴いているところ。耳が聞こえないので、耳が聞こえない世界に逃げるのではなく、聞こえる人の世界にいても違和感を感じさせないように努力している。いつもは大変だと思うが、頑張っている日高さんを見て、本当に素敵だなと思った。反対に僕は何の努力はしていない。何も頑張っていない。ただ相手に合わせるばかりで、面倒なことを避けるようにしている。楽なことばかり求めている僕は日高さんと比べると恥ずかしくて情けない・・・。僕、日高さんのこと好き。日高さんのこともっと知りたいし、辛いなと思ったら僕ができることがあればサポートしていきたい!付き合ってください!」
ボロッと目から涙が落ちた。
どうせ私のことを理解できないだろうと思っていたが、私の辛さと頑張りを理解してもらえる人がいた。
生まれて初めて、私の頑張りを気づいてもらえて嬉しい。
その頑張りは無駄ではなかった。本当に努力はいつか必ず報われるね。
ボロボロと涙を流しながら、込み上がった感情を言葉にして伝えた。
「ありがとう。気づいてもらえて本当に嬉しい。こんな私で良いの?付き合うことで本当の私を知るとがっかりして、私から離れていくことはない?」
「ああ、もちろんだ!僕は一度決めたことは決して変わらない。あ、本当の自分を知ってて、嫌いにならないでください!僕から離れないでください!」
「うんーもちろん離れないよ。宗谷さんのことまだわからないので、付き合う上で宗谷のことを知りたい」
1年間を経ったが、やはり音は戻らなかった。
でも、音が戻らなかったおかげで国民たちが手話を覚えるようになった。最初は簡単な手話だけしかできなかったが、1日に毎日毎日手話を使っていたので、手話はメキメキと上達して、日本語を話すのと同じくらい流暢なレベルになれた。
これだ。私が見たかった世界だ。
1年前に変な人に出会ったような気がするけど、やはり覚えていない。まるで最初から記憶を消してもらおうと思いながら私と話していただろう。良いのか悪いのかわからないけど、変な人のおかげで私としての理想な世界になれたと思う。
大きく手を振る宗谷に「おーい、そろそろ行くぞ」と手話で呼ばれた。
「うん!」と大きく頷いて宗谷のところに駆け走った。
変な人は名前も知らないし、正体も知らない。誰のかわからないけど、感謝を伝えたい。
「宗谷さん、私のために手話を覚えてくれてありがとう」
「え?何を言ってるの、好きだから手話を覚えたよ!」
好きと言われて、ちょっと照れる。
でも、まっすぐなところが好き!
宗谷に対して感謝を伝えているが、もちろん言葉の裏に『私の望みを叶えてくれてありがとう』という意味も含めているよ。
耳が聞こえない世界 龍川嵐 @takaccti
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
日記/龍川嵐
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 11話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます