リバースフロントライン

あさひ

 歩き出した ただそれだけ 最後を知らず歩くのだ

 瞼にかかる日差し

男は眩しさのあまり目を擦りながら起きる。

「ここは……」

 熱がこもりながらも

心地いい岩盤浴のような感触が

背中を占めていた。

 そこはトラックの荷台だった

しかし運転手はいない。

「何もないな……」

 辺りを見回すが

木々が途中に生い茂るが

それ以外が砂漠しか映らなかった。

「ルートゼロ」

 そう表記された看板が目の前で

存在を誇張する。

「そんな道があったか? というか私は……」

 思い出そうとすると頭が割れる

そして何故か発想が浮かんだ。

【進め 道の先にあるものへと】

 考えというより言葉が直接響いてくる感覚

死ぬほど苦しい絶望を思い出しそうな

心からの恐怖だ。

「進んじゃいけないわけではない?」

 浮かんだのは進むことを捨てるしかなかった自分

しかし声が言うのは進めという文言のみ。

「いいのか? 思うままに進んでも? 本当に?」

 ワクワクした咎められないという全てに

進むことで誰かが傷つくことが嫌だった。

 しかし進んでいいのだ

誰にも指図されずに果ての未来まで進んでいいのである。

「先に何があるんだろうなぁ」

 噛み締めるように期待が膨らむ

まずは準備だと自信を見返した。

「靴はしっかりとした作業用に

ジーンズとジャージパーカーだな」

 身軽ながらもラフで何より動きやすいのが

嬉しい。

 軽く足踏みで強度を確かめ

歩こうとした。

「そういえば……」

 トラックは置いてけぼりでいいのだろうかと

不意に気になった。

「さすがに一人は寂しいのか?」

 言葉に反応するように日差しがキラッと

こちらに笑いかけてくる。

「お前に名前を付けようかな」

 うーんと唸りながら考え込み

笑って呟いた。

「ニューがいいな」

 新しいという単語であり

自身の心持ちに似ている。

「よろしくなニュー」

 また日差しが笑うように

こちらに煌めいた。

 運転席に乗り込み

手慣れた作業でエンジンを掛ける。

 けたたましい音ではなく

上品な駆動音が静かに響いた。

「なかなかの性能だな」

 自然と緩む表情が鏡に映るのを

横目に見る。

「こんな感情ひさびさだな」

 新たな本を読むような

買いたてのゲームをするような始まりの喜び。

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リバースフロントライン あさひ @osakabehime

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