第一部完結
王都レィリアの表通りからのぞめる街並みは清潔そのもので、道路は石畳みで舗装され、道脇では新緑樹がちらほら街路樹を形成している。
グランホーの終地がクソ田舎なのはわかっていたが、なかなかにギャップに驚くものがあった。
王都のそれは高度な文明力を感じさせるものだ。
屋台が立ち並ぶ市場もちらほら見れた。
グランホーの終地よりもずっと活気にあふれている。
いまは夜だが、ずいぶん都市全体が明るいのも特徴的だ。
「アーキントン殿とアルウ殿にはこちらに泊っていただこうか」
「ここは?」
「『黄金のひづめ邸』だよ。王都でも旅の商人や、高位冒険者らが止まる高級宿屋として有名だ。一部変なのもいるかもしれないが、トラブルはおこさないでくれると助かる」
中隊に先に本部に戻るよう伝えたウィンダールは、俺たちをたいそう立派な宿へと案内した。1日だけこの宿屋に泊まっておくようにとのこと。
予定よりやや道中に遅れがあったため、今日は暗くなりすぎてしまったらしい。
「英雄を迎えるのは儀式的な意味合いもあるのだ。だから、明日の朝、改めて王城へ参上するとしよう」
「わかった。それでいいだろう」
ウィンダールが明日の朝、迎えを寄越すとのことだったので、今夜はゆっくりすることにした。なお宿泊費はウィンダールのポケットマネーで払ってくれた。
「アルウ、しっかり離れず、ついてこい」
「うん」
言ってはみたものの、アルウは高級感あふれる内装に目を奪われてふらふら歩いている。壁に偉そうな男性の人物画や、御伽の一ページを切り取ったような神話画、雄大な異国の地を描いた風景画のかかる高い壁に、温かな炎のともるシャンデリア、壁紙も天井もなにもかも質がよい。ロビーに置かれた壺もなんか高そう。
比べるのは悪いが、グドたちボランニの安宿がクソに見えるほど素晴らしい。
「ん、なんだぁ、このガキはぁ?」
言わんこっちゃない。
振り返れば階段を登ってる途中で、アルウが宿泊客にぶつかったらしい。
それもよくもまあガラの悪いのに絡まれてることだ。
「てめえ、誰にぶつかってやがる」
「はわわ……」
「なんとか言えよ、クソガキ。俺はAランク冒険者パーティ『フェンリルの鬣』のガガーランドさま──」
アルウへ伸びる腕を掴み、手首を強力に握った。
「いたたたッ!? ななあ、なんだ、てめえ!?」
「保護者だ」
アルウに絡む男をぶん殴って壁に叩きつける。
白目を剥いて気絶したので、階段を転がして落としておく。
「ごめん、アルバス……問題起こさないようにって言われてたのに……」
「ゴミをひとつ片付けただけだ。問題でもないだろう」
俺はアルウを連れて部屋へと入った。
流石は一流の宿だ。客には変なのが混じっているが、部屋はそこそこ広く、ベッドはふかふかで、魔道具を使った風呂もある。
「ほう、なるほど、こんな便利なものが」
俺は風呂場で珍妙なその魔道具を観察した。
非常に興味深い。これは俺の生活に必要不可欠なものだ。
この蛇口のごとき魔道具でお湯を張れると言うのか。
「アルウ。貴様、この温かいお湯につかれ」
「先にお風呂をはいっていいの」
「怪しげな魔道具から溢れでたお湯だぞ? もしかしたら有毒かもしれない。お前はカナリアというわけだ。もしお湯になんらかの危険物質が含まれていて、それが人体に悪影響を及ぼす場合、呑気にうかうか浸かるのは愚行。ゆえに俺は奴隷エルフを利用するのさ。お前は炊き立てのお風呂でじっくりと風呂の安全を確かめろ。わかったか」
「あったかお風呂こわい」
「よろしい」
今日も十分にアルウへ奴隷エルフと言う自分の身分をわからせた。
これによりアルウは主人の命令に従順な奴隷として調教されているとも知らないだろう。ふははは、愚かな娘め。俺の知略のひとつもお前には理解できまいて。
ということで、アルウがお風呂に入っている間、フガルを磨いておこうと思う。
さっきから部屋の外に気配があるのだ。
俺はいつだってこの魔法剣を振る準備ができている。
翌朝。
「アーキントン殿、昨夜、Aランク冒険者パーティ『フェンリルの鬣』のガガーランドなる荒くれ者が死体で発見されたそうだが、なにか心当たりはあるかね?」
「まったくないな」
「そうか。ならよい」
朝早くから、黄金のひづめ邸にウィンダールが来た。
開口一番、おかしな質問をされたが、なんのことだが、さっぱりなのでとぼけておく。ちょっとからんで来て、剣を抜かれたから、軽く揉んでやっただけだ。
「別に気にしなくていいのだよ。あの男はランク昇格で賄賂をつかった疑惑があったり、裏取引に積極的に関与したり、かなりろくでもない奴だったのでな」
「だから、俺は知らないって」
「ああ、そうだった、なんの関係もないのだったな」
「んなこといいから、はやく王城へ連れていってくれよ」
周囲の目線が集まっている。
「ウィンダールだ……」
「北風の剣者がわざわざ迎えに来たのか?」
「だれだあいつ?」
「もしかしてあれが噂になってる英雄の器?
「どう見たって殺人鬼の間違いだろ」
「確実に60人は殺めてるな」
「100は堅いと思うが」
「ふむ。確かに、すこし騒がしくなってきたな。そうそうにゆくとしよう」
ウィンダールは言って俺たちを馬車のなかへ。
王家の紋章が掘られた厳かな馬車に乗り込む。
「アルウ、足元に気を付けろ」
「うん」
「なにを見てるぶっ殺すぞ」
馬車の外、じろじろ見て来る野次馬たちを最後に威嚇して扉を閉じる。
がらんごろん、っと馬車はゆっくり進みだす。
王城への召喚か。
「昨夜本部に戻って確認したら、ほかの英雄の器9名もすでに到着していたよ。君たちが最後である」
「ほかのやつらの情報をくれ」
「情報と言われてもな。アーキントン殿はどんなことが聞きたいのだ?」
「そうだな。まずは男かどうか。9名いるんだろ」
「8名は男子だ。皆、若く、10代である。どんな才能を見せてくれるのか楽しみであるな」
「8人か。ならそいつらは殺そう。アルウともうひとり残ってれば十分だろう」
「いや、なにを言って……だめに決まってるだろう、アーキントン殿。考え直してくれ」
アルウに近づく悪い蟲は先に斬っておかないといけない。
だのに斬るなと言う。
やれやれ、こうなればひとりずつアルウに近づこうなんて思えないよう念入りに威嚇してまわらねばなるまいな。
第一部 完結
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こんにちは
ファンタスティックです
これにて『俺だけが魔法使い族の異世界』は一旦完結とさせていただきます。
ドラゴンノベルス小説コンテスト用に10万文字で切り上げるペースで書いていたのですが、思ったよりアルバスとアルウの物語が広がりを見せてしまったのでこのような形となりました。綺麗に終われなくてすみません。
アルバスとアルウの物語はまだ続きます。非力でほかの英雄の器に見劣りするアルウをアルバスが指導し最強へ導き、冒険に出て、おおいなる使命に向き合うことになるのです。
第二部はどこかで書く機会があるかな……ないかな、まだなんとも言えません。
これにてあとがきの締めくくりとさせていただきます。ここまで読んでくださった読者の皆様のおかげでアルバスとアルウの物語を書き続けることができました。
星をくれたり、コメントを残してくれたり、応援してくださったすべての読者の皆さま、本当にありがとうございました。
では、またいつかこの物語の続きで。
あるいは別の物語でお会いしましょう。
失礼いたします。
ファンタスティック小説家
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