挿話 夏の魔女が死んだ




 「実はね、わたし───“魔女”なんだよ?」


 初めてそれを聞いた時の彼女のイタズラっぽい笑顔が、今も脳裏に鮮明に焼き付いている。






 「アオイくんは、“魔女”って知ってる?」


 ある時、ふと彼女は何でもないことのように自然な態度で、アオイにそう訊ねた。


 「え……魔女? 杖で魔法を使ったり、箒に乗って空を飛ぶみたいな?」

 「あはは、そうだね。普通の感覚だったら、確かにそんなイメージだよね。」

 「まあ他にだったら、女の子が変身したり、逆に人間とは全然違うバケモノだったりもあるか。」

 「あー、それもあるね。世の中いろんな魔女だらけだ!」


 アオイが彼女の言わんとすることを理解しようと必死になっていると、彼女は可笑しそうにカラカラと笑い声を上げる。


 「“魔女”のイメージも多種多様なんだねぇ。」

 「それで、ひなたが言ってるのは魔女のことなんだい?」

 「どれもこれも無いよ。───“魔女”のこと、アオイくんはどれだけ知っているのかなって。」


 目を見開くアオイの顔を見ると、彼女は意味ありげにたっぷりと間を置いてから満足そうに頷いて、続ける。


 「実はね、わたし───“魔女”なんだよ?」




 いろんな思いが去来していった。

 “魔女”って何だろう、とか。

 彼女は本当に“魔女”なのだろうか、とか。

 なぜ、それを教えてくれたのだろう、とか。



 知りたいと思った。彼女のことを、もっとたくさん。





 夏の終わり、やわらかな陽ざしと涼やかな風が通り過ぎる午後。あの日の小さな告白が、今もアオイの心の真ん中に深く刻み込まれている。



 それから一年経って、あの明るく優しく朗らかな魔女が死んだ、その後も。


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