伝説の錬金術師は転生する~剣も魔法も使える錬金術師、転生して世界の常識を覆す~

零話 プロローグ

 「あと、もう少し、、、」


 俺こと、ギリア・オストは呟く。

 今この瞬間、俺の手によりあの伝説上の合成獣、【キメラ】が完成しそうなのだ。

 俺はありとあらゆる伝説上の話に出てくる実験を全てやり尽くした。

 この実験を抜けば、すべて成功だ。


 さらに、この実験が成功ならば完全制覇。

 全ての実験をやり遂げたことになる。

 例題を出すとすれば……

 まず、錬金術師の実験として最も知られている物、錬金術師の初歩中の初歩、卑金属から貴金属を作り出すことだ。

 それを成功させたのは俺が十二歳の頃。

 つまり、初めて成功させた実験だ。


 次に、完全完璧な、パーフェクト肥料を作り、約三時間でリンゴの木を生やし、リンゴの実をつけさせるという実験を成功させた。

 そして、約三年でその実験の底の底、深淵と呼ばれる根元までの研究を行うことを成功させたり。


 更には、魔法でも無理とまで言われた、人造人間……【ホムンクルス】の作製に成功したりと、いろいろな偉業を成し遂げた、


 最初は細胞がなんだとか遺伝子がなんだとか、色々分からない事もあったが、今になっては簡単なことだ。


 「あとは、ここをこうして、こうして、こうで、、、出来た!」


 そして今、完成したのである。


 【キメラ・№1】


 徐々に、キメラの目が開かれる。

 目を開けた【キメラ】はこちらを見て、「キュー、キュー」と可愛らしく鳴く。


 やっと完成した幸福感の余韻に浸っていたところで突然、玄関の戸が叩かれる。


 「はい、はい」


 扉を開けると、そこにはガタイの良い男が二人並んで立っていた。


 「少し前に【キメラ】の作成を頼んだ者ですが、」


 そう、この【キメラ】を作っていたのは、この男たちに依頼を受けていたからだ。


 「それならこっちだ」


 そう言って、ついさっき完成した【キメラ】を男たちに見せる。


 「おおこれは……ありがとうございます。」


 そして、この男達による依頼のおかげで伝説上の実験を全て完全制覇できた事には感謝しなければならないのだが……最高傑作とこんなにも早くお別れするとは思っておらず、少しさびしさを感じた。

 男達は俺にそんな余裕を与えることもなく、新たな依頼を寄こしてくる。


 「それと、もう一つ依頼したいことがあるのですが……」

 「何だ?」


 男達は改めて、丁寧に見えなくもない行儀の悪い頼み方で錬金術師に頼む事とはとは思えない事を頼んできた。


 「──転生、魔法?」


 そう、何故か魔法の依頼をして来たのだ。


 確かに俺は魔法も使えなくはないが、一応、名目上は錬金術師だ。

 そういう事は魔法使いやら、最近有名になり始めた賢者様にでも頼んでほしいのだが……。


 「……悪いが、それは無理だ」


 大体の術式は頭の中に出ているが、流石に魔法使いでもない俺がそんな研究をしたところでそこまでの成果は見込めない。

 ……が、少し試した方が良さそうだな。

 俺が断った瞬間、片方の男の懐から、銀色に輝く物体が顔を出す。

 そう、ナイフだ。


 元から断れば殺すつもりだったのだろう。


 俺は咄嗟に少し離れた場所に魔力により魔法陣を書き込み、親指の爪で中指の腹を切り、漏れる血を魔法陣の方向へと投げる。

 その魔法陣は、転生魔法の魔法陣だ。

 俺には兄がいる。

 そしてその兄には子供が居たはずだ。

 俺から見れば、甥だろうか。

 転生対象は、その甥っ子の子供、つまり、兄の孫にあたる人物に転生する。


 兄の子供は確か、十四だったはずだ。

 つまりは、五から十年程度の時間が空くわけだが……転生中に俺の意識はないはずだ、特に退屈はしないだろう。


 そして、魔法陣に投げた、俺の血が、魔法陣の上に到達すると同時、

 蒸発するかのように、俺の血が消えてゆく、


 魔法発動の条件が満たされたのだろう。

 これで成功してくれれば良いが……。


 すると腹部に、鋭くも鈍い衝撃と共にナイフが突き刺さる。


 床にボタボタと血が落ちる。


 そして、ナイフが抜かれると同時に俺は地面に倒れこむ。

 眼の前がどんどんとぼやけていく。


 薄れ行く意識の中、何故か頭の中はご飯の事で一杯だった。

 確か今日は、断食、五日目だったな。


 ──浮上するような感覚の中、ふと目が覚める。

 見渡せばそこは見知らぬ場所だった。

 だが、嗅ぎ覚えのあるような、どこか落ち着く臭いに俺は一つ気付いた事があった。


 「……成功……か?」


 そう、転生魔法が成功したということだ。


 俺はそれを認識すると、その家のリビングに向かう。

 すると、そこにいたのは予想外の人物だった。

 リビングには、大きめなテーブルに朝食が用意され、そこに、一人ずつ男性と女性が座っていたのだ。

 男性の方は、言わずもがな兄の息子、プロイン。


 確かに、兄の息子の、プロインは居たのだが……。

 ……その奥にいる女性の方が予想外だった……。


 その、奥にいる女性というのが──


 「……セミオじゃないか。」


 ──俺の作った【ホムンクルス】、セミオだったからだ。

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