内界世界大戦記
狂い咲く桜嬢
第1話 戦士よ 雄叫びを上げよ
統一暦九八〇年。世界は戦の炎に包まれようとしていた。
グーテルム大陸西部に存在する国家であるシュトルム第三帝国が突如として隣国である
アデル共和国へと宣戦布告をしたためだ。これによりアデル共和国と同盟関係であったウラル連邦、サンバルト合衆国がシュトルム第三帝国へと宣戦布告。シュトルム第三帝国へと軍靴を鳴らし押し寄せた。
これに対しシュトルム第三帝国は同じ帝国主義を掲げる国家を次々同盟へと引き入れ帝政同盟を結成。瞬く間にグーテルム大陸全土で戦争が開始された。
シュトルム第三帝国は魔導士を大量導入した戦術を取り次々敵国を撃滅していった。平原で、荒野で、海岸で、沼地で。兵士達は数多の戦場を駆け抜け精鋭となっていった。その中にはある兵器が関わっていた。
『鉄騎』。
シュトルム第三帝国が生み出した新型戦車である。従来の木製の突撃戦車に魔導士が生み出した魔導筒を載せ、奴隷巨人に引かせる事で機動力を手に入れたその兵器は各国の要塞群や砦を破壊していった。
そんな勿、シュトルム第三帝国はある国家へと兵を進めていた。
その国の名前は、ヴァルムント王国。
グーテルム大陸北部に位置する決して溶けない永久凍土に覆われた小国である。
ヴァルムント王国国境線に位置するヴァハルス砦は慌ただしく兵士達が走り、周辺に住む女子供は避難を開始していた。
数日前シュトルム第三帝国より宣戦布告を受け、国境線に近いこの砦には大量の兵士達が緊急配備されているからだ。
戦火を逃れるために家財道具を背負い家を捨てる人々を、アリサカは横目で見ていた。
「戦争か...... 。大親父殿が参加したのが最後って言うが」
ヴァルムント王国は領土内に埋まる大量の鉱物資源を狙われ幾度戦争を行ってきた。その度に他国を追い返し、現在では北方の覇者とも呼ばれている。
「おいアリサカ!聞いているのか!」
アリサカの上官が叫ぶ。彼は面倒くさそうにそちらを向く。
「聞いております、中尉殿」
「全く...... 。お前はいつもそうだ!もっと気を引き締めろ、敵が来るのだ!」
そう、敵が来るのだ。シュトルム第三帝国の鉄騎が、彼らの奴隷巨人が牽く車力の音が、それに続く兵士たちの軍靴が、この自然に囲まれたヴァルムント王国で響き渡ろうとしている。
「大隊!傾注!」
アリサカが話を聞いていないと思った中尉は叫ぶ。アリサカも今度はピシリと背筋を伸ばし大隊長であるガルム大隊長を見る。
「大隊諸君、戦争だ!クソッたれの戦争だ!我々に課せられた命令はただ一つ。いけ好かないシュトルムのジャガイモ頭を思い切り北方海域へと蹴飛ばす事だ!奴らに我らが祖国の凍った海の恐怖を教えこんでやれ!我ら北方の覇者の力を思い知らせるのだ!
「「「はっ!
兵士達が敬礼をする。それにガルム大隊長は応える様に敬礼を返す。その後に中尉が彼を
引き継ぎ声を張り上げる。
「我々一〇三大隊はヴァハルス砦の東南部で敵を迎え撃つ!各自装備を確認の上集合する事。以上、解散!」
中尉の号令と共に兵士達は駆け足で自分の装備を取りに走る。それをアリサカはゆったりとした足取りで追う。
「戦争だ。どうやっても避けられない戦争だ...... 。たぎってくるぜ」
支給された小銃を肩にかけ、背嚢を背負う。火炎壺のフタが開いていない事を確認し、一族の形見でもある湾刀を腰に佩く。
「俺は生き残る...... 。何があっても」
彼はそう呟き、仲間の集まる集結値へと向かった。
「衛生兵っ!こっちだ!」
「魔導士!こっちに沼地を作れ!鉄騎の車輪を嵌めてやれ!」
「怯むなっ!密集隊形を維持しろ!」
数刻後、アリサカの所属する一〇三大隊はシュトルム第三帝国の主力とぶつかり合う事になった。
山岳地帯であるヴァハルス砦を攻略するためにシュトルム第三帝国主力軍は大量の鉄騎を投入してきた。その数はなんと五大隊ほど。それに対して王国軍はアリサカの所属する騎兵大隊と追随する歩兵中隊が数隊のみだ。
「クソッ!このままだと全滅するぞ!大隊長、いかがしますか!」
鉄騎より放たれる砲撃音に負けぬ様に中尉が叫ぶ。ガルム大隊長はそれに対し声を返す。
「恐竜騎兵部隊、突撃準備!歩兵中隊は我らに続け!」
ガルム大隊長はそう叫ぶと手綱を強く握る。彼の部下もそれに続く。
恐竜騎兵。それこそヴァルムント王国の祖国防衛を支えてきた存在である。
国家の北部に広がる永久凍土。人類が決して踏み入る事が出来ない絶対境域とされるそこには、原生生物と呼ばれる人類が産まれる前より存在した古強者が存在する。恐竜騎馬もその一種である。
原生生物のポテンシャルに気がついたヴァルムント王国では長年の研究の元、飼いならす事に成功。馬よりも速度が出て、寒さをしのぐための堅牢な鱗と毛皮に覆われたそれらをいつしか王国は騎兵の足として利用していた。そして、この戦争でも恐竜騎馬は運用されていた。
「突撃用意!楽師、演奏用意!」
中尉が声を張り上げる。アリサカも己の乗る恐竜騎馬の手綱を握る。その間にもシュトルム第三帝国の鉄騎からは砲撃や機関銃の一斉射撃が彼らを襲う。
「突撃!」
ガルム大隊長の声と共に従軍楽師が一斉に演奏を始める。楽曲は祖国を謡う国家、それを楽師達は戦場にかき鳴らす。
「突撃だ!お前ら行くぞ!」
アリサカが手綱を思い切り振り下ろし突き進む。その姿を見て友軍は唖然とする。アリサカと言えば軍の恥さらし、怠け者で無能だと誰もが思っていたからだ。
「総員抜刀!俺に続け!」
アリサカが腰より湾刀を引き抜く。ギラリと光るその刀身に魅せられ、他の兵士も次々に突撃を開始する。
「耳元で銃声が聞こえる...... 。これこそ大親父殿達が翔けた戦場か。」
アリサカは呟く。彼にはこの戦場がかつて祖先たち戦士たちが走り抜けた戦場の様に見えた。その時代はまだ魔導士の存在が軽んじられており、誇り高き戦士たちの決闘によって勝負が決した時代だ。その時代は過ぎ去った現代でも、彼らの心意気はアリサカが継いでいた。
「見ているか帝国!見ているか世界!俺こそが誇り高き戦士だ!」
小型の大砲が載った鉄騎にまで近づき、慌てる帝国兵の頭を一刀で跳ね飛ばす。その首を持ちアリサカは叫ぶ。
「我、誇り高き戦士である!我に挑むのであれば、この血を持って戦おう!我の屍を越え我らが祖国を侵すのならば、貴様らに災いをくれてやる!
帝国兵の首を持ち、恐竜騎馬を駆る。
この日、この戦場にいた兵士達は確かに戦士を見た。
アリサカのその姿は、かつてこの地にいたとされる誇り高き戦士を彷彿とさせた。
「あの兵士を殺せ!」
帝国軍の誰かが叫ぶ。
一斉に砲塔が、銃口が、剣が、アリサカに向けられる。それを見てアリサカが鮫の様に笑う。
「来いっ!俺を殺してみろ!」
湾刀をしまい、小銃を構えアリサカは恐竜騎馬を駆る。彼の放つ銃弾は見事に鉄騎の砲兵を撃ち抜き、帝国軍の放つ銃弾を紙一重で避ける。それに魅せられる様に王国軍はアリサカに続き突撃を慣行する。
「火炎壺、投げ!」
アリサカに追いついた中尉が兵士に叫ぶ。恐竜騎馬を駆る兵士達は各々鉄騎の車輪や鉄騎を牽く奴隷巨人へと火炎壺を投げる。松脂や樹脂で作られた油は帝国軍の兵士に纏わりつき燃え上がり、悲鳴がこだまする。
敵と味方が入り混じる混戦の中アリサカは湾刀を振るい、小銃を用いて敵を殺す。彼の顔は既に敵か自分かも分からない血で塗れ、口は引き裂ける程に笑みを浮かべている。
「あの騎手を狙え!あいつだ!」
「鬼だ!王国の鬼が来るぞ!?」
「助けてくれ!?誰かっ...... !?」
帝国軍はアリサカのその悪鬼の様な姿におびえ口々に叫ぶ。アリサカはその声を聞き、さらに笑みを浮かべる。
「この地こそ我らが故郷!我らが祖国!貴様ら蛮族が踏み入れては行けぬ聖域である!立
ち去れ、下賤な帝国軍よ!」
戦場の熱に浮かされ、アリサカは叫ぶ。湾刀は既に帝国軍の血油で汚れ、小銃の弾は尽き残すは着剣した銃剣のみ。そんな中でも彼は叫び続ける。
しかし、彼の独壇場は一発の砲撃で終わりを告げる。
「ッ!?」
鉄騎の砲弾が足元スレスレで爆発する。その破片が恐竜騎馬を直撃し足を折る。
身体が宙へと浮く。横倒しになるように恐竜騎馬は倒れ、アリサカは地面へと叩きつけられる。
「ッ~~!?...... まだまだ!」
ふらつく頭を振るい、アリサカは立ち上がり止めを刺そうと近づいていた帝国軍の兵士へと銃剣を突き立てる。そのままその身体を筋力のみで持ち上げ串刺しにする。
「来いっ、帝国軍!俺はここだ!俺を殺してみろ!」
死体を帝国軍の方へと放り投げ、湾刀を構える。右手には湾刀、左手には小銃を持ちアリサカは仁王立ちをする。その姿に帝国兵は怯え、後ろに後退る。砲兵はその姿に恐怖を覚え砲弾を撃つのを忘れ、奴隷巨人たちがたたらを踏む。
「歩兵中隊、この俺に続け!
「「「
アリサカが叫び、歩兵がそれに倣う。彼らもアリサカの姿に見惚れ、勇姿を見たためかたぎっており、叫び声をあげアリサカに続く。
それが引き金になった。
「てっ、撤退だ!撤退しろ!」
「急げ急げ!撤退だ!」
「おい、誰がそんな命令を出した!踏みとどまれ!」
帝国軍の将校が叫び、それに兵士達が続き総崩れを起こす。彼らの眼には恐怖が映り、我先に逃げ出す。それに同調される様に奴隷巨人たちも走り出し、不幸な者はその巨大な足に踏み潰される。
そうして帝国主力軍は脱兎のごとく逃げ出した。
「我ら戦士の勝利である!ヴァル・ヴァルムント!誇り高き戦士よ!」
アリサカが湾刀を掲げる。
それに同調するように兵士達が小銃や直剣を天に掲げ叫ぶ。
彼らは勝利したのだ。
統一暦九八七年、ヴァルムント王国はシュトルム第三帝国を撃退した。しかし、その後も戦争は続き最終的に千○○二年の終戦まで両国は闘い続けた。
王国陸軍第一〇三恐竜騎馬大隊に所属していたアリサカ魔導軍曹は、その後各地の激戦地を駆け抜けたとされているが、戦争末期のヴァルカリア平原での戦いで消息がつかめなくなった。
彼は果たして、その平原で死んだのか。
それを知る者はいないが、彼と共に戦ってきた兵士達は皆口々に語る。
その戦場には、確かに戦士がいたと。
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