第2話「32歳、急展開の出会い。」

トコトコとスーパーへの道を歩く。道歩く人たちは、皆オシャレをしていて、私なんかが場違いだと思わされるほどだった。

もうちょっとまともな格好してくるんだった……。下を向き道を歩いていく。今日はスーパーを三軒回らないといけない。

タイムセールは見逃せないからね、とタイムセールに一人燃えていると。


「あれっ? 璃子~!」


「ん? 美奈!」


「元気~? でもないな……まぁだ修二のやつと付き合ってんの??」


そう言って腰に手を当てふんと鼻息を鳴らしたのは笹川美奈。私の小学校の頃からの友人だ。良い友人であり、私のことをいつも心配してくれる。

世話焼きで、私のことが大好きで、私のことを一番に考えてくれる良き友人だ。ここ数年会えてなかったけど、美奈はいつもと変わらない笑顔で私の頭を撫でた。

その手が暖かくて頭を少しずらして手を頬の位置まで持っていき、頬ずりしてしまう。美奈は「くすぐったいなぁ。」と言いながらも私の腫れた頬を撫でた。


「女の子に手上げるなんてね……。紹介したアタシが馬鹿だったよ。璃子イイ人見つけなよ? それか紹介してあげよっか?」


「嬉しいけど……。私なんかに釣り合う人いるのかな。」


「あ、また始まった! 璃子の卑下! あんたは可愛いんだし貰い手居るって! 家事も出来るんだし、仕事の稼ぎも良くって。アタシがお嫁に貰ってあげようか?」


「アハハ……またそれ? 確かに美奈のお嫁さんはありかもね。」


「よし! 入籍するか!」


そう言って美奈は踵を返すので慌てて止める。

「なんで止めるのよ~!」とぶー垂れる美奈を見てクスクス笑いながら、ふと視線を上げる。

すると一人の男の子がこちらをジーとみていた。高校生くらいか。名門栗花落学園の制服を着ていて、ジャケットが紺色なので高校生か中学生だ。

名門栗花落学園。私たちの棲む地域で一番大きい学園だ。受験が必要だが幼稚園から大学院まで完備されており、エスカレーター式。将来も保証されるような学園。

私と美奈は受験をしていないので東雲高校だったが。

男の子は私をジーッと見つめるとしばらくしてこっちへやってきた。


「姉さん、何ダル絡みしてんの。」


そう言って美奈の首根っこを掴んだ。遠くからだとよくわからなかったがこの子大きい……!

威圧感に負けて、「お、おうふ……。」と声を漏らすとじろりと見られた。

こ、怖い……。少し後ずさるとパッと美奈を掴んでいた手を離した。


「ちょっと七緒! おねぇちゃんに対する扱いをもっとまともにねぇ!」


「……お姉さん、名前なんて言うの?」


「……へ?」


「お姉さんの名前が知りたい。」


そう言うと七緒と呼ばれた男の子は私の手を掴んだ。大きな手が私の手を包む。


「桃瀬璃子です……けど。」


「璃子さん……俺と結婚してください。一目ぼれしました。」


「は、はい?」


「だめだめー!! 璃子はアタシと結婚するの! 七緒にはあげない!」


そう言って七緒君にラ◯ダーキックをくらわせる美奈。それをひょいと躱す七緒君。大乱闘が起こってしまった。


「ふ、二人とも落ち着いて……街中だよ?」


二人は大乱闘を辞め、私に向き直る。そしてずいっと美奈が顔面を近づけてきた。


「アタシと七緒どっちを選ぶの?」


「美奈かな……。」


「だよね! 七緒、諦めなさい。」


するとしょも……っと犬のようになる七緒君。ちょっと可愛いかも。

おほほほほ! と高笑いをする美奈。はっと我に返り、コホンと咳払いをすると手を動かして七緒君の前に差し出した。


「紹介するね、弟の七緒。両親が再婚して連れ子だから血は繋がってないけどアタシの大事な弟だよ。」


「どうも……笹川七緒です。璃子さん好きです、付き合ってくださ……。」


ごちん! と言う音と共に七緒君は消沈した。


「いってぇな馬鹿姉貴!! 馬鹿力!」


「馬鹿とは失礼ね! 教えてあげるわ! 璃子はね、彼氏いるのよ!」


がぁぁぁんと音が付きそうなほど真っ白になる七緒君。それが少し愛らしくてくす、と笑った。

七緒君は私に向かって手を伸ばして、頬に触れた。ずきりと頭が痛む。

殴られる……! そう思った私はとっさに七緒君を突き飛ばしていた。


「あっ……ごめんなさ……。」


「あー……七緒、璃子ね、男の人駄目なんだよ……。ちょっと詳しいことは言えな。」


「言えよ! 何されたんすか、もしかして暴力ですか。だからこんなに頬が腫れてるんですか!」


そう捲し立てて私の方を見ながら美奈に縋りついた。なんだか申し訳なくなって、「七緒君ごめんね。」と謝った。


「私今の彼氏に暴力とか……浮気とかされてて。だから男の人はちょっと……。」


自分の手首をぎゅっと掴み、俯く。沈黙が流れた。嫌われたかな? と思っていると。


「そうだったんですね……璃子さん、そんな男とは別れましょう。俺が貴方のこと幸せにして助け出して見せます。大学では法学部を専攻するつもりなので。貴方のことを絶対に救って見せます。」


そうやってにこやかに笑う七緒君。

とくん――。心臓が高鳴る。あぁ、駄目だ。私――期待してしまっている。

今の現状から助け出してほしいと――。

とくとくとなる心臓を抑えながら七緒君を見つめ返した。

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