第181話 母の追求

「セシルは自分には兄弟はいないと思っているのよ。以前何度かセシルにフィリップの写真を見せたことがあったけど…モヤがかかったように見えるそうで、認識出来ないそうなの」


「そ、そうだったの……?」


母はショックの為か顔が青ざめている。

でもその気持は良く分かる。何しろ、私自身がその事実を知った時…中々受け入れ難かったのだから。


「それでは写真を見せても…無駄ということなのね?」


母は額に手を当てるとため息を付いた。


「ええ……そうなの…」


「それではこのままセシルが記憶を取り戻すのを待つつもりなの?いつ戻るかも分からないのに?それとも…本当にこのままセシルと再婚するのかしら?」


「え?お母様…一体、何を言ってるの?」


すると母が続ける。


「エルザ、私が何故アンバー家に貴女がとどまっているのを反対しているか分かる?」


「い、いえ……分からないわ」


「なら言うわ。それはね、エルザ。今の貴女の立場が中途半端だからよ」


「中途半端……?」


「ええ、そうよ。フィリップと結婚して1年ちょっとで貴女は未亡人になってしまったわ。貴女はまだまだ若いのよ?まだ赤子のルークだっているのに……。やはり誰か頼れる男性が必要でしょう?だけど、アンバー家から籍を抜かなければ再婚だって出来ないじゃないの」


「そんな……私はフィリップを亡くしてまだ半年も経っていないのよ?それなのに再婚なんて考えられるはずがないじゃない」


「それならいつだったら再婚を考えられるの?半年?1年?」


母はしつこく食い下がってくる。


「そ、そんなのは……まだ分からないわ……」


思わず俯くと、母の声色が変わった。


「エルザ……私は貴女が心配なのよ。いえ、私だけじゃないわ。お父様だって心配いしているのよ?ずっとこのまま女手一つでルークを育てるなんて無理でしょう?」


「お母様……」


「もし、セシルが貴女のことを自分の妻だと信じてやまないなら……いっそこのままセシルと再婚してしまったらどうかしら?アンバーご夫妻も本当はそのことを望んでいるのよ?」


「え……?」


私はその話に耳を疑った。


「お母様……。何?今の話は……。本当なの…?」


「ええ、勿論よ……そうでなければセシルを貴女のいる離れで暮らす許可をアンバー夫妻が許可する筈無いでしょう?」


「そ、そんな……だけど、私は……」



「それとも…貴方はセシルのことが嫌いなの?だからそんなにセシルのことを拒絶するの?」


別に私はセシルのことが嫌いというわけではない。ただセシルが私のことを本心でどう思っているか分からないし、セシルをフィリップの代用品にはしたくなかった。


「……」


思わず言葉につまり、押し黙ったその時……。



ガタンッ!!


廊下で何か音が聞こえてきた――。

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