第180話 セシルの秘密

「お母様、それでお話って何かしら?」


「ええ、分かっているでしょうけど……エルザはいつまでここにいるつもりなの?それともセシルと再婚するのかしら?」


「え?!さ、再婚っ?!」


母のあまりの突然の発言に驚いた。


「ええ、そうよ。だから家に戻ってこないのかと思ったのよ」


「お母様……再婚なんて考えていないわ。だってまだフィリップが亡くなって半年もたっていないのよ?」


「なら半年経てば再婚するのかしら?」


「どうしてそんな考えに至るの?」


「…世間ではそう言われているからよ」


母が顔をしかめながら私を見た。


「え……?」


「エルザ。貴女はあまりこの屋敷から外に出ていないので分からないでしょうけど、世間ではもうセシルと再婚したと思われているわ。お父様だって取引先の相手から娘さんの再婚、おめでとうございますと言われているのよ?」


「お父様が……?」


まさかそんな噂が流れていたなんて……。


「その話は多分、アンバー家にも伝わっているはずだけど……」


母が首を傾げる。


「いいえ、私は何も知らされていないわ。それに、アンバー家の両親とは別の屋敷で暮らしているから。セシルだってあんな身体だから外に出て仕事をしていないし」


「ということは、アンバー夫妻が貴女に今の話を伏せている可能性があるわね」


「…そうね。でも…それは当然の話かも……」


私の言葉に母は語気を強めた。


「エルザ、貴女はそれでもいいの?貴女がセシルと再婚した噂をアンバー夫妻は知っているのに、その事実を伏せているのよ?」


「良いわけでは無いけれど……セシルは元々私と夫婦だと思い込んでいるのよ?それを私がセシルと再婚したなんて話が耳に入れば混乱すると思ったからじゃないの?だから私には伏せていたと思うの」


「エルザ……。ところでセシルは記憶が戻りそうな気配はあるの?」


「…無いわ。無理に思い出そうとすると頭痛を起こすのよ」


「それなら、フィリップが存在していた証をみせればいいじゃないの。フィリップのことを思い出せれば、すぐに全ての記憶を取り戻せると思わない?そうだわ。写真よ。フィリップの写真を見せればいいじゃないの」


「写真…それを見せても駄目なのよ」


「どういうことなの?」


母が身を乗り出してきた。


「セシルにフィリップの写真を見せてもモヤがかかって見えないのよ……」


「え……?」


母の顔に戸惑いの色が浮かんだ。


「そ、それは一体……?」


「ええ……」


私はポツリポツリと母に説明を始めた――。




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