第171話 彼の温もりを求めて

 カウチソファに身を沈めた私は、どうやらそのまま眠ってしまったようだった。



「…様。エルザ様」


すぐ近くで声が聞こえ、慌てて目を開けるとメイドのクララが立っていた。


「あ、クララ‥‥」


目をゴシゴシこすりながらクララを見ると、突然頭を下げて謝って来た。


「申し訳ございません、エルザ様」


「え?何のことかしら?」


「いえ‥‥エルザ様の許可も得ず、勝手にお部屋に入ってきたことについてです。実は昼食のご用意が出来ましたものですから」


「え?」


慌ててテーブルを見ると、そこには既に料理が並べられている。


「まぁ、ごめんなさい。少しも気づかなかったわ」


「良くお休みになられていましたから」


「そうね。この部屋は私の大好きな部屋で‥‥とても落ち着く場所だからかもしれないわね」


「そうおっしゃって頂けるなんて光栄です」


クララが嬉しそうに笑みを浮かべる。


「それでは折角のお料理だから温かいうちに頂こうかしら?」


「ええ、是非そうなさって下さい。それでは私は一度下がらせて頂きますので」


「ありがとう、クララ」


「はい、それでは失礼致します」


クララは頭を下げると、部屋を後にした。


「ルークの様子はどうかしら?」


一度食事前にルークの様子を見に行くと、よく眠っている様子だった。


「フフフ…可愛い寝顔ね。それじゃ食事にしましょう」


私は料理の置かれたテーブルへ向かった―。



**


「まぁ、美味しそう‥‥」


用意されていたハムやチーズ、卵がサンドされたホットサンドに具沢山のスープだった。


「私が好きな料理を用意してくれていたのね」


離れの使用人の人達の心遣いが嬉しかった。


この分なら思っていた以上に快適な暮らしが出来るかもしれない‥‥。

そう思いながら私は料理を口にした――。




「ふぅ…美味しかったわ」


気付けば用意されていた料理は全て完食していた。

食べ終えた皿をワゴンの上に乗せてしまえば、特にすることは何も無くなっていた。


ルークはぐっすり眠っているし、当分起きそうには見えない。


「これからどうしようかしら……」


ポツリと呟いた時、私はあることを思いついた。


「そうだわ……。フィリップの部屋へ行ってみようかしら?」


フィリップが病気ですっかり起き上がることが出来なくなった頃には、もう彼は自分の部屋へ行くことが無くなっていた。

常に私とこの部屋で一緒に過ごしていたのだ。


そして彼が亡くなってからは、まるで逃げるような形で私はこの離れを去ってしまった。


「フィリップの部屋へ行ってみましょう」


私は眠っているルークを起こさないようにそっと抱き上げた。


「ルーク、ママと一緒にパパが使っていたお部屋に行ってみましょう?」


彼を亡くした直後だったら、辛過ぎて部屋に行くことなど考えられらなかっただろう。

でも今なら、行ける気がする。


それどころか、フィリップの温もりを感じたかった。



そして私はルークを胸に抱き、フィリップの部屋を目指した――。





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