第170話 懐かしい部屋

「「お帰りなさいませ、エルザ様」」


離れの屋敷に到着し、ルークを抱いて辻馬車から出迎えてくれたのは執事のチャールズさんとメイドのクララだった。


「ありがとうございます。まさかそんな言葉で出迎えられるとは思ってもいませんでした」


礼を述べると、チャールズさんは首を振った。


「いいえ、当然でございます。まだエルザ様はこのお屋敷の方ですから」


「チャールズさん……」


「申し訳ございません。人手が足りず、エルザ様のお出迎えが最低人数になってしまいまいした」


「いいえ、とんでもありません。むしろお忙しい時間にお出迎えをして頂き、心苦しい限りです」


申し訳無さげに頭を下げてくるチャールズさんに首を振る私。


「ではお荷物をお持ち致しましょう。クララ」


チャールズさんはクララに声を掛けた。


「はい」


「2人でエルザ様のお荷物を運ぼう」


「分かりました」


チャールズさんとクララは2人で手分けして私の荷物を持つと、チャールズさんが声を掛けてきた。


「では参りましょうか?エルザ様」


「はい」


そして私は2人に連れられて、数カ月ぶりに離れの『ラベンダーの部屋』へと戻ることになった――。




****



「それでは私はお茶の準備をしてまいりますので、一旦失礼させて頂きますね」


クララは部屋の入り口の前にやってくるとチャールズさんに荷物を託すと、去って行った。


「エルザ様、どうぞお入り下さい」


チャールズさんが扉を開けてくれると、目の前には懐かしい『ラベンダーの部屋』が目に飛び込んできた。


「まあ……」


部屋の中に足を踏み入れ、中をぐるりと見渡した。


「懐かしいわ……」


そこは何一つ、変わりない部屋だった。

壁紙も、カーテンも、家具も何もかも……。


「部屋の内装が何も変わっていないのですね」


チャールズさんに質問した。


「はい、そうです。セシル様に申し使っていましたから」


「え?セシルから?」


それは意外な話だった。

てっきりフィリップからの遺言だと思っていたのに……。


「はい、そうです。ですが、セシル様が仰っておりましたが、どうやらフィリップ様から遺言状を預かっているご様子でした」


「遺言状……?」


「はい、そうです」


何故セシルに……?私には遺言状は無いのだろうか?


「でも、今のセシルには遺言状の話をしても無理でしょうね……」


「そうですね……ですがセシル様も屋敷に戻られましたので、今に記憶が戻るのでは無いでしょうか?」


「ええ、そうですね。それならいいのですけど……」


「それではエルザ様。本日の昼食はどうされますか?よろしければこちらのお部屋に御用意致しましょうか?」


「ルークもいるので、出来ればこちらのお部屋に用意して頂けますか?」


「はい、かしこまりました。それでは一度下がらせて頂きますね。失礼致します」


チャールズさんは頭を下げると部屋を出て行った。



パタン……


扉が閉ざされると、ようやく一息着くことが出来た。



「私…いつまでセシルの妻のフリをすることなるのかしら……?」


部屋に置かれたソファに身を沈めると、ついため息が口から漏れてしまった――。






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