第135話 セシルからの手紙

 セシルに手紙を渡してから1週間が経過した頃――。



部屋でルークを胸に抱いてあやしていると、扉のノック音と共に母が声を掛けてきた。


『エルザ、少しいいかしら?』


「ええ、どうぞ」


返事をするとすぐに扉が開かれ、母が室内に入って来た。


「エルザの荷物がアンバー家から届いたから運んできたわ」


母の背後には2人の男性使用人たちが台車に荷物を乗せて立っている。


「ありがとう、それでは部屋の中に置いていってっくれる?」


「はい」

「分かりました」


彼等は手早く荷物を降ろしていくと、「失礼いたしました」と言って部屋から去って行った。


「思ったより、早く荷物が届いたわね」


母が足元に置かれた荷物を見つめた。


「ええ……そうね‥‥」


届けられた荷物を見なつめながら返事をするも、私の心は内心寂しい気持ちでいっぱいだった。

もうあの部屋に戻ることは無いのだと思うと、むなしさを感じずにはいられなかった。


「……」


黙って部屋に置かれた荷物を見つめていると母が声を掛けてきた。


「少し座って話をしない?セシルのことで話があるのよ」


「え…?分かったわ」


母に促され、それぞれ向かい合わせでソファに座ると早速母が話し始めた。


「実はセシルが3日前に以前から話が出ていた女性とお見合いをしたそうよ。相手は18歳の男爵家のご令嬢だと伺ったわ。先ほど、荷物を運んできたアンバー家の使いおの人が教えてくれたの。セシルから伝えて欲しいと頼まれていたそうよ」


「男爵家……。そう、やっぱり貴族のご令嬢とお見合いしたのね。一体どんな方なのかしら。きっと素敵な女性なのでしょうね」


ルークをあやしながら頷いた。


「そうね……でも、やはり貴族は貴族同士で婚姻するのが一番なのよ」


母は何か含みを持たせたかのようないい方をする。


「お母様……」


「でも、これでアンバー家も安心したでしょう?セシルが身を固める決意をしてくれたのだから」


「ええ。私もそう思うわ」


「エルザ、荷物整理手伝いましょうか?」


不意に母が尋ねて来た。


「いいえ、大丈夫。1人で出来るわ」


「そう?なら私は、もう行くわね」


「ええ」


パタン……



扉が閉ざされると、部屋の中はシンと静まり返った。

腕の中のルークはいつの間にかスヤスヤと眠りに就いている。


「フフフ…眠ってしまったのね」



ルークをベビーベッドに寝かせると、私は早速荷解きを始めた。


箱の中からは私のドレスやアクセサリーの類が出て来た。


「私が使っていたもの……全部離れの使用人の人達、覚えてくれていたのね」


皆……元気にしているだろうか?


「セシルが結婚して、生活が落ち着いたら一度離れでお世話になった皆さんに会えたらいいのだけど‥‥」



続けて荷解きをしていると、今度は本が出て来た。

そう言えば、フィリップと結婚したばかりの頃は、寂しさのあまり本を買い集めて読書三昧の日々を過ごしていたことをふと思い出した。


「どれも今となっては懐かしい記憶ね…あら?」


積み重ねられた本と本の間に1通の手紙が紛れ込んでいることに気付いた。


「手紙…?誰のかしら?」


封筒を手に取ると、セシルの名前が記されていた。


「セシルからの手紙…かしら?でも…宛名が無いわ…」


一瞬、この手紙を開封しても良いか迷ったけれども私の本の中に挟まっていたのだから多分私宛で間違いないのだろう。


「何が書かれているのかしら……?」


封筒を開封すると、中から2つ折りの便箋が出て来た。


「……」


便箋を取り出して、広げると早速私は手紙を読み始めた――。


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