第129話 セシルと母
「やっぱり俺がエルザに送った手紙…渡して頂けていなかったんですね」
セシルが母を問い詰めた。
「だ、だってエルザは出産して弱っている身体なのよ?それなのにあんな内容の手紙を見せるわけにはいかないでしょう?」
「その言い方…まさか手紙を渡さないどころか、勝手に開封して読んでいたのですか?」
「そうよ。アンバー家がどんな要求を押し付けてくるか、こちらは確認する資格があるわ。ルークは私たちの孫でもあるのよ?」
「手紙を隠すだけでは飽き足らず、門前払い、挙句に今度は開き直るおつもりですか?」
母とセシルは私をそっちのけで言い合いをしている。
「ねぇ待って。2人とも。私には何のことかさっぱり分からないわ。説明してよ」
我慢できずに2人の間に割って入った。そして母を振り返ると尋ねた。
「お母様…セシルの話していることは本当なの?」
「…そうよ…」
母は振り絞るように声を出した。
「どうしてそんなことを…?」
「あ、あのね。これには訳が…」
けれど私は母の言葉を止めた。
「お母様」
「何かしら?」
「先に…セシルの話から聞くわ。その後でお母様からのお話を聞かせて」
「エルザ…!」
母が傷付いた表情を見せる。
「ごめんなさい。今の私は…エルザ・アンバーなの。ブライトン家では無いのよ」
「わ、分かったわ…。リビングにいるわ。その代わり、部屋の扉は開けておいてもらうわよ?」
母は私にではなく、何故かセシルに声を掛けた。
「ええ。分かりました」
セシルが頷くと、母は部屋を出て行った。
「2カ月ぶりかな…元気だったか?少しは体調が回復したみたいだけど」
母が出ていくとすぐにセシルが笑みを浮かべて尋ねて来た。
「ええ。精神的に元気かと聞かれれば…困るけれど、体調的には元気になれたわ」
「そうか…良かった。その…座って話してもいいか?」
私もセシルも立ったままだったことに今更ながら気付いた。
「ええ、勿論よ。どうぞかけて?」
部屋の中央に置かれたソファセットをセシルに勧めた。
「ありがとう」
テーブルを挟んだ向かい側に私も座ると改めてセシルをじっと見つめた。
「何だ?どうかしたのか?」
私の視線に気づいたのか、セシルが尋ねて来た。
「いえ、ここ2カ月会わなかっただけなのに…随分顔つきが変わったなと思ってね」
「そうか?自分じゃ良く分からないけど」
「変わったわよ。何て言うか…大人びた顔になったわ」
セシルは以前よりも精悍な顔つきになっていた。
「何言ってるんだよ。人のこと幾つだと思ってるんだよ?エルザと同じ21歳だろう?」
「そうかもしれないけど…」
恐らくこの2カ月の間、セシルは次期当主として大変な責務を担ってきたのかもしれない。
「ところで、エルザ」
「何?」
「どうしてあの日、何も言わずに実家に帰ってしまったんだ?」
「え?だ、だってあの日セシルが控室を出た後、父と母が迎えに来た時、言ったのよ?お義父様とお義母様には私が実家に戻ることを伝えてあるって」
しかし、セシルは首を振った。
「それは違う。エルザ、両親はそんな話聞かされていないと言っていた。気付いたらブライトン夫妻は会食の席からいなくなっていたんだ。それでそのことをエルザに伝えに行こうとしたら…すでに君とルークの姿も消えていた…」
そ、そんな…。
「教えてくれ、エルザ。一体どういうことなのか…?」
セシルはじっと私を見つめ、尋ねて来た――。
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