第124話 姉との会話
「フフフ…飲んだら気持ちよくなって眠ってしまったわね」
私の代わりにオムツを変えてくれた姉が眠っているルークを幸せそうに見ている。
「ええ…そうね…」
まだ身体が思うように動かせない私はソファベッドに横たわりながらポツリと呟いた。
「…ひょっとしてフィリップが埋葬されるお墓に行きたいの?」
姉は私の心を見透かしたかのように尋ねて来た。
「ええ。良く分かったわね?」
「それ位すぐに分かるわ。でも…そんな身体では無理よ。ちゃんと身体が回復したらお墓にお参りに行けばいいわ。ルークと一緒に行けばいいじゃない」
「…そうね…」
「それにしても…世間では酷いことを言うのね。何も葬儀の席であんなことを言うなんて」
姉は悔しそうにドレスを握りしめた。
「お姉さま…」
「本当に葬儀の席じゃなければ怒鳴りつけていたわ。面と向かってエルザに酷いことを言おうものなら引っぱたいてやろうと思っていたくらいだもの」
「お姉さまったら…」
太陽のように明るい姉は少々勝気なところもあった。
「でも…貴女が最後にフィリップにお別れする場面を見た時…皆口を閉ざしてたわ。申し訳なさそうな顔をしていた人たちもいたし…泣いている人たちもいたわ。…本当に貴女とフィリップは愛し合っているのだと感じたわ。…やっぱり私の出る幕は無かったみたいね」
そして姉は寂しそうに笑った。
「え?」
何だろう?今の最後の言葉は…。
「お姉さま、今の話って…」
けれど、姉は私の言葉を遮るように話を変えてきた。
「エルザ。貴女はこれからどうするの?アンバー家に残る?それとも実家に戻るの?」
「そ、それは…」
私は言葉に詰まった。
「フィリップの伝言では、実家に戻っていいと言われているけど…最終的には貴女が自分の意思で決めればいいと思うの。お父様もお母様も…フィリップのご両親もそう話しておられたわ」
「え?そうだったの?」
「ええ、貴女が気を失っていた時に…その話が出たのよ。でもセシルだけは黙っていたけれども」
「セシル…」
セシルにはアンバー家に残って貰いたいと懇願されていたことが脳裏をよぎる。
「フィリップのご両親は言っていたわ。ルークは大切な跡取りではあるけれど、エルザの子供でもあるから貴女に託すと言っていたわ。まだ貴女は若いのだから、いつまでもアンバー家に縛り付けるのは気の毒だと話されていたの。…お2人とも何だか変わられたわ。以前はもっと強引な人たちだったのに…」
姉の言葉の端々に、どこかお義父様とお義母様を苦手に思っていたことが感じられた。
「私は…しばらくはアンバー家に残りたいわ…。フィリップの温もりが感じられるあの離れで。あの離れの屋敷にはね、私の為にフィリップが用意してくれたラベンダー模様の部屋があるのよ?わざわざ部屋を改築してくれたの」
すると姉が私の言葉に目を見張った。
「まぁ?あの離れにそんな部屋を?やっぱり…それだけフィリップは貴女のことを愛していたのね?」
「ええ…とても…愛してくれて…いたわ…」
そして再び私の目に涙が浮かぶ。
「エルザ…泣きたいなら思いきりないていいのよ?」
そう言う姉の目にも涙が浮かんでいた。
「お、お姉様…」
「エルザ」
そして私と姉は抱きしめあうと、2人でフィリップを偲んで涙した―。
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