第112話 輸血の効果

 フィリップがベッドに寝かされたまま私の自室に運ばれてきたのは午後3時を過ぎた頃だった。


コンコン



フィリップを待ちながら縫い物をしていると部屋の扉がノックされた。


「ひょっとしてフィリプが戻ってきたのかしら?」


大きなお腹を下から支えて、立ち上がると扉に向った。


ガチャ…


ノブを回して扉を開けると、そこには先生と2人の看護婦さん。阻止ベッドに寝かされているフィリップの姿があった。


「輸血が終わったのですね?」


「はい、お部屋にご案内して宜しいでしょうか?」


私が尋ねると先生が返事をした。


「はい、お願いします」


頷くと、看護婦さんたちがフィリップが横たわるベッドを押して部屋の中に入ってきた。


「フィリップ…」


声を掛けて覗き込むと、顔の血色がいつもよりも良い彼の眠った姿がそこにある。


「あの、先生…フィリップは…」


「はい。今は薬で眠っておられますが、時期に目を覚まされると思います。副作用も無く、うまくいきましたよ」


先生は笑みを浮かべた。


「そうですか…。ありがとうございます」


安堵のため息を付いてお礼を述べると、フィリップのベッドを運び終えた看護婦さん達が戻ってきた。


「では、我々はこれで失礼します」

「「失礼致します」」


「どうもありがとうございました」


先生に引き続き、看護婦さん達が挨拶をしてきたので私もお礼を述べ…先生たちは部屋から出て行った。



バタン…



扉が閉ざされ、部屋には私と眠っているフィリップの2人だけになった。


「フィリップ…」


名前を呼び、そっと眠っている彼の側に近づく。


「…」


フィリップは静かに眠っている。

頬はすっかりこけてしまってはいるものの普段よりは血色が良い。


「良かった…輸血の効果があったのね…」



 もっとフィリップの側に居たい…。


そこで、部屋に置いてある背もたれ付きの椅子をフィリップの枕元に移動すると、腰掛けた。


フィリップ…。


眠っている彼の姿を見ていると、何故か眠くなってきた。


「ふわぁ…」


口元を押さえて欠伸をすると、私はそっと目を閉じた。


フィリップが目を覚ますまで…少しだけ寝よう…。




****



 私は夢を見ていた。


美しい花畑の中を私は小さな子供の右手を引いて歩いている。そして子供の左手を繋いで歩いているのはフィリップだ。


私達親子3人は笑顔で花畑を歩いている。


そんな素敵な夢だった―。




誰かが髪に触れている気配で目が覚めた。


「う…ん…」


ゆっくり目を開けると、そこにはベッドから起き上がって私の髪にそっと触れているフィリップの姿が飛び込んできた。


「え…?フィリップ…?」


「あ、ごめん…エルザ。起こしちゃったかな?椅子の上で眠っているから心配になって…」


「フィリップ…貴方、1人で起き上がれたの…?」


今までは誰かの支えなしに起き上がれなかったフィリップが身体を起こしている。


「うん。そうだよ。きっとこれも輸血のお陰だよ。あまり頻繁に輸血することは出来ないけれども…お陰で少しは体力が戻ったよ」


「良かった…フィリップ…」


泣きたくなる気持ちをぐっと押さえて私はフィリップの手を取った。


「うん、心配掛けたね…」


フィリップは笑みを浮かべて私の手を握りしめてきた。


実にフィリップが床に伏して半月目のことだった。





輸血後の経過が良かったためその後もフィリップは1週間置きに輸血を行った。



そして…輸血を初めて3週間目…ついに運命の日がやってきた―。

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