第109話 悲しみの言伝
「この手紙…お姉様からだわ…」
一体この手紙に何が書かれているのだろう…?
逸る気持ちを抑えつつ、文机に向かうと引き出しからペーパーナイフを取り出し、手紙を開封した。
封筒の中には白い便箋が二つ折りになって入っている。
私は震える手で手紙を広げた―。
****
―親愛なるエルザへ―
エルザ、赤ちゃんが出来たそうね?
フィリップからの手紙で教えてもらったの。おめでとう。
3月に出産予定と聞いているわ。もうすぐ赤ちゃんの誕生ね?
フィリップから病気のこと聞いたわ。
もう、長くは持たないかもと手紙に書かれていたけど彼の具合はどう?
実はフィリップから頼まれていたことがあるの。
もし、自分が死んだら貴女は子供を連れて実家に戻っていいと伝えて欲しいって。
自分からはとても言えないので、私からエルザに伝えて欲しいと頼まれたの。
多分、貴女はフィリップが亡くなった後もアンバー家に残ろうと考えているかも知れないけれど、まだ20歳なのだから自分に縛られずに自由に生きて欲しいと言っていたわ。
一応、フィリップの言葉は伝えたけど私は貴女には自分の好きなように生きて欲しいと思っているの。
たとえ、フィリップやアンバー家の人々、それにお父様やお母様に何を言われようと自分の思うように行動して欲しいと願っているわ。
最も親不孝をしてしまった私にはそんなこと言う資格が少しもないのは分かっているけれども。
エルザ。
こんなこと今の貴女に言うのはとても酷な事かもしれないけれど、私のお願いを聞いてくれる?
万一フィリップにもしものことが遭った場合はこの住所に手紙で連絡を貰える?
私もご挨拶をしたいから。
私の今の状況は、その時に色々話すわ。
それでは又ね。
今度エルザに再会するときは貴女の子供に会えることを祈っています。
ローザ
****
「お姉さま…」
姉の手紙には、はっきりと書かれてはいなかったけれども私に伝えたかった言葉は全て理解した。
もしものことが遭った場合…。
これはフィリップが死んでしまったときのことを言っている。
そして今度私に再会するとき、私の子供に会えることを…。
きっとこれはフィリップの命が尽きる時には、私の子供が産まれていることを祈っている…。
きっと、そういう意味なのだろう。
「う…うっ…」
ついに堪えきれず、私に両方の目から涙が溢れ出した。
フィリップは…死期が近いことが分かっていたから姉に手紙を書いたのだ。自分からは私に伝えられない伝言を姉に頼み…そして姉が私に手紙を送ってきた。
フィリップ…貴女は私のことを思って、自分が亡くなったは私にここを出ることを望んでいるだろうけれど、それでも…例え貴方が死んでしまった後でも、私はここを離れたくない。
何故なら私はこの部屋が大好きだから。愛する貴方が私の為に用意してくれた部屋なのだから、出来ればずっとここに置いてもらいたい。貴方の温もりが感じられるこの部屋で…子供を育てていきたい。
「フィリップ…。お願い…私をここに…置かせて。…どうか…貴方がいなくなった後もずっと……」
私は嗚咽しながら、フィリップの眠る部屋で泣き続けた。
その姿を…見られていたことにも気づかずに―。
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