第108話 届いた手紙
「フィ、フィリップ…貴方、もしかして…起きていたの…?」
何と眠っていると思っていたフィリップが目を開けていたのだ。
「うん…さっき目が覚めたところ…だよ…」
フィリップは視線を私に向けると、弱々しく返事をした。
「もしかして…今の話…聞いていたの?」
フィリップは少しだけ頷くと、目を閉じた。
「ごめん…。本当は…盗み聞きするつもりは…全く無かったんだけど…シャロン先生との会話が…聞こえてきて…」
「フィリップ…そんな風に謝らないで。悪いのは私よ。お腹の赤ちゃんに酷い事を言ってしまったわ。私と貴方の大切な命も同然なのに…」
涙が出そうになるのを必死に抑えながら私は彼の右手を握りしめた。
するとフィリップは口元に笑みを浮かべた。
「大丈夫…だよ…。エルザ。何度も言ってるよね…?子供が生まれるまでは…絶対に僕は死なないって…」
「ええ、そうよ。フィリップ。貴方は死なないわ。…死ぬはずなん…って…」
泣きたい気持ちを必死に堪え、私は無理に笑った。そうしなければ今にも涙が零れ落ちそうだったから。
「エルザ…実はね…今、輸血を受けようかと考えているんだ…」
「輸血…?」
「うん…医療が発展して…新しい治療法が出来たらしいんだ…。最近血が足りなくなってきているから…。在宅でも輸血をしてもらえるように先生に頼んだんだよ…」
「フィリップ…輸血をすれば…生きながらえることが出来るかもしれないのね?」
「そうだよ…。実は明日から先生が来て、輸血をすることが決定してるんだよ…なかなか…言い出せなくてごめん…」
「いいのよ、そんなことで謝らなくても。だってフィリップはずっと体調が悪くて、私と会話することもままならなかったじゃない」
「確かに…そうだったね…。でも、これで分かったよね?僕が子供が生まれるまでは絶対に死なないって言った理由が…」
「ええ。そうね。なら大丈夫よね?」
ほんとうは輸血で命を長らえさせることなど出来るのだろうかと半信半疑であったけれど、フィリップを安心させるために自分の不安を口にすることは出来なかった。
「エルザ…」
「何?フィリップ」
「ごめん…疲れたから…少しまた眠らせてもらうね…」
「ええ。どうぞ?私はずっとここにいるから…」
「うん。お休み…」
そして再び、フィリップは眠りについてしまい…部屋の中は再び静寂で満たされる。
「編み物の続きでもしようかしら…」
テーブルの上には編みかけのケープが乗っている。
私はケープを手に取ると、続きを編み始めた―。
編み物を初めて1時間程が経過した頃…。
コンコン
扉がノックされると同時に声が聞こえてきた。
「チャールズです。エルザ様、少々宜しいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
声を掛けるとすぐに扉が開かれた。
「エルザ様、フィリップ様のお加減はいかがですか?」
チャールズさんは私の姿を見るとすぐにフィリップの体調について尋ねてきた。
「ええ、今は落ち着いているから大丈夫よ」
「左様でございますか…実はエルザ様宛にお手紙が届いておりましたのお持ちし致しました」
「私に…手紙?」
「どうぞ」
チャールズさんから手紙を受け取った。
「ありがとうございます」
「差出人の方のお名前は載っていないのですが、宛名はエルザ様になっておりました。それでは失礼致します」
そしてチャールズさんは会釈をすると、去って行った。
パタン…
扉を閉めるとすぐに封筒の文字を改めた。
「差出人の名前が書いてないと言っていたけど…」
封筒を返し、その文字を目にした私は息を呑んだ。
『親愛なるエルザへ』
封筒に書かれていた文字は…姉の文字だった―。
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