第78話 少しでも長く
「こうしてエルザの部屋で一緒に食事をするのは初めてだね?」
「ええ、そうね」
私は笑みを浮かべながら返事をする。
ゆらゆらとオレンジ色に揺れるキャンドルの下で2人向かい合わせの夕食。
キャンドルの灯りのお陰でフィリップの顔色は良さそうに見えた。
「私の体調が悪いからと言って呼び寄せられた時…お義父様とお義母様…何か言って無かった?」
…きっと、さぞかし苛立ちを募らせたに違いない。
「うん…エルザがバラアレルギーの発作を起こしたという話を聞かされた時は本当に驚いたよ」
「体調の悪い貴方を呼び寄せるには他に良い方法が思いつかなかったの。ごめんなさい…心配掛けさせてしまって」
「でもその御蔭で離れに戻ってくることが出来たよ。…本当に具合が悪くて辛かったから助かったよ。ありがとう」
「そんな、お礼なんて良いのよ。でも嘘をついて心配させてしまってごめんなさい」
「いいよ。別に謝らなくても。だけど、父も母もエルザのことを心配していたよ。信じられなかったよ。2人の方から早くエルザの元に戻ってあげたほうがいいって僕に言ってきたんだからね」
「え…?そうだったの?何だか意外だわ…。私はお義父様にもお義母様にも恨まれていると思っていたから…」
するとフィリップが突然謝ってきた。
「ごめん。君は何も悪くないのに…。僕とローズが立てた計画のせいで…エルザと
ブライトン家を恨ませる要因を作ってしまって…」
「いいのよ。何も事情を知らなければ…恨まれても当然だもの」
「僕は両親が君をよく思っていないのは良く分かっていたから…君に嫌がらせをすることを警戒して本館にも行かせなかったし、勝手に離れには来ないように2人に釘を刺していたんだ」
フィリップは私の目をじっと見つめている。
「それなのに僕が仕事で本館に来ている時を狙って母が勝手に君に会いに来てしまって、色々不快な目に遭ったんじゃないかな…?しかも僕がこの部屋を用意したのに、エルザが僕に無理を言って部屋を変えて貰ったって言ったんだよね?家具だって実家に頼んで準備したって…。全ては僕がやったことだったのに。僕が両親から責められないようにする為に嘘をついたんだろう?」
「え、ええ…。でもフィリップはお義父様とお義母様が不在の時を狙って私の為に部屋を用意することを初めから計画していたのでしょう?勝手に部屋を改築したことを後で責められる事が分かっていながら…」
「…うん。そうだよ」
少しの間の後、フィリップは頷いた。
「私の為に部屋を用意してくれたのに、そのことでフィリップが責められたくなかったの。ただでさえ貴方は体調が良くないのに、これ以上心の負担を掛けさせたくは無かったのよ。だから…嘘をついてしまったの…ごめんなさい」
するとフィリップは首を振った。
「違うよ、むしろ謝らなければいけないのは僕の方よ。両親から君を守ろうと思ったのに…逆に僕が守って貰った…それに、今まで散々君に酷い態度を取ってしまったことだって…」
項垂れるフィリップ。そんな彼に私は声を掛けた。
「そのことはもういいの。だって、私…今は心から貴方に愛されているってことが分かるから、今までのことは気にしないで?」
「僕は君に申し訳なくて…」
「その気持だけでもう十分よ」
「だけど…」
尚も言いよどむフィリップ。
「それなら…約束してくれる?」
「約束?」
「ええ、少しでも…長生きして…私の側に…いてくれるって…」
最後の言葉は涙声になってしまった。
「うん…。分かったよ。治療を続けて少しでも長生き出来るように頑張るよ。僕も…愛する君のそばにいたいから…」
「フィリップ…。ありがとう…」
私の目から一筋の涙が溢れる。それを見たフィリップが立ち上がり、私の側に来ると抱きしめてきた。
「エルザ…愛してるよ」
「私も…貴方を愛してる」
フィリップの顔が近づいてきたので、目を閉じるとすぐに唇が重なってきた。
私達は食事も途中だったのに…飽きること無くキスを交わした。
そしてこの夜…。
私とフィリップは再び夜をともにした―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます