第43話 フィリップの不在

 馬車で片道2時間かけてアンバー家へ到着した。


扉を開けて屋敷に入ると慌てた様子でチャールズさんがエントランスへとやってきた。


「あ、エルザ様…お帰りになったのですね?てっきり本日も御実家に泊まられるのかとばかり思っておりました」


「え…?」


もしかして…本当は帰って来ないほうが良かったのだろうか?


「もしかして…もう2、3日滞在していた方が良かったですか?」


何とか平静を装う為に髪をなでつけながらチャールズさんを見た。


「い、いえ。決してその様な意味で申し上げたのではございません。申し訳ございません。今のは私の言い方がいけませんでした」


慌てたように頭を下げてくるチャールズさん。ついうっかり、私は余計な事を口にしてしまった。


「ごめんなさい。そんなつもりで言ったのではないんです。今のは…私の言い方が悪かったですね」


「いいえ、私の方こそ勘違いさせてしまう言い方をしてしまい、大変失礼致しました。お疲れではありませんか?お部屋で夕食までお休みになられてはいかがですか?」


「ええ。そうね…。でもその前にフィリップに会いたいのだけど…今は仕事中よね?書斎に行けば会えますか?」


すると途端にチャールズさんの顔が曇った。


「あの…フィリップ様はただいま…御不在なのです」


「まぁ、そうなの?それでは本館にいるのですか?」


「いえ、本館にも…いらっしゃいません」


「え…?そうなの…?それでは一体何処へ?」


「そ、それは…申し訳ございません。私も…どちらへ行かれたかは存じ上げないのです…」


チャールズさんは伏し目がちに返事をした。その反応で私は分かってしまった。本当はフィリップの居場所を知っているのに…恐らく口止めされているのだろうと。けれど、親切にしてくれるチャールズさんを問い詰めて困らせたくはなかった。


「そう、でも夕食時には戻ってきますよね?」


いくら何でも夕食の時間には会えるだろう。しかし、意外な言葉がチャールズさんから出た。


「申し訳ございません。それも私には答えかねるのです…」


チャールズさんの顔は苦しげだった。


え…?ど、どうして…?まさか、フィリップは今夜は離れに戻って来ないという事なのだろうか?


心臓がドクンドクンと早鐘を打ち始めた。


何故…?何故ここまでして私は蚊帳の外に置かれてしまうのだろう?私は一体何の為にここにいるのだろう…?


ズキン


頭が突然痛くなってきた。子供の頃から偏頭痛持ちだった私は過度のストレスがかかると頭痛を起こしていた。その兆候が現れてしまった。


「う…」


思わず額を押さえると、チャールズさんが慌てた様子で声を掛けてきた。


「エルザ様?どうされたのですか?顔色が悪いようですが?」


「い、いえ…大丈夫です。それでは私、部屋に戻りますね」


頭が割れそうに痛い…。ベッドに横になって休んでいよう。


「お部屋までご一緒致します」


「いいえ、大丈夫です。1人で戻れますから」


「さようでございますか…?」


尚も心配そうな顔で私を見つめるチャールズさんに言った。


「夕食まで休むことにしますね」


それだけ告げると、チャールズさんは頭を下げた。


「承知致しました」


私も会釈を返すと、ズキズキと痛む頭を抑えながら1人自室へ足を向けた―。










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