第23話 傷つく言葉と…

 エントランス近くで執事のチャールズさんに会った。


「エルザ様っ!まさか…今からお出かけされるのですかっ?!」


チャールズさんはティーセットが乗せられた銀のトレーを手にしている。


「ええ。少し町に行こうかと思って。あ、チャールズさん。今朝はありがとうございました」


頭を下げてお礼を述べた。


「え?今朝…ですか?」


「はい。チャールズさんが私に薬を飲ませてくれて、ベッドまで運んでくれたのですよね?」


「え…?あ、はい。その通りです。なのに、もうお出かけされるのですか?」


「ええ…。忙しくしている皆さんの前でこんな話してもよいか迷うところですけど…実は手持無沙汰なので、ちょっと町に買い物に行こうかと思って」


「さようでございましたか。ですが病み上がりの身体で大丈夫なのですか?」


「ええ。おかげさまでお薬が効いたようだわ。それで…」


そこまで言いかけた時―。



「そんな所で何をしているんだ?」


不意に廊下に声が響き渡った。その声に緊張が走る。


「あ、フィリップ様…」


チャールズさんが頭を下げる。


「いつまでもお茶が届かないから様子を見に来てみれば…」


そしてフィリップは私をチラリと見るとチャールズさんに視線を移した。


「こんなところで油を売っていたとは思わなかったよ」


フィリップは私が出かける格好をしている姿を見ているにも関わらず、何も尋ねてこない。それどころか私の存在などどうでも良いという感じで受け取れる。


ズキッ


まただ。フィリップを見ると胃の痛みが増してくる。だけどこのままではいけない。だって私たちは形はどうであれ、今はまだ夫婦なのだから。そして私は…家の為にも離婚する事は出来ない。何よりもフィリップの事が好きだから。


そこで私は彼に声をかけることにした。


「フィリップ。私…出かけてきたいのだけど、いいかしら?」


「その恰好を見れば分かるよ。けれど、いいのかい?具合が悪かったんじゃないの?」


え?もしかすると私を心配してくれているのだろうか?


「ええ、それならもう大丈夫。チャールズさんが薬を飲ませてくれたから。ありがとう、心配してくれて」


「…」


その言葉にフィリップはチャールズさんを見た。すると何故かチャールズさんはバツが悪そうに少しだけ視線をそらせた。


「まぁ、別にもう具合が悪いなら構わないけどね。途中で倒れられたりしたら迷惑だから確認しただけだよ。それに君はあまりここにいないほうがいいからね。出掛けたいなら自由に出ればいい」


「え?」


その言葉に凍り付く。

それって…まさか、私にこの屋敷にいてもらいたくないと言う事なのだろか?


「フィ、フィリップ…」


私は自分の顔から血の気が引くのが分かった。フィリップは無表情で私を一度だけ見ると、チャールズさんに言った。


「ほら、早く来てくれ」


「は、はい!」


フィリップは急ぎ足でその場を去ってしまい、チャールズさんは慌てたように彼の後を追っていく。


「…」


1人、その場に残された私はあまりのショックで暫くの間動けなかった。


ボーン

ボーン

ボーン


廊下の柱時計が午後3時を告げる鐘を鳴らし、そこで私は我に返った。


「い、いけない…遅くなるわ。早く出掛けないと」


再び、エントランスに向かおうとした時、誰かがこちらに向かって駆けてきた―。



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