第21話 心配かけない為に
君の愛なんかいらない…。
それは私に対するはっきりとした拒絶の言葉だった。あまりにも辛い言葉に涙が出そうになったけれども、そこで私は誰かの視線を感じてハッとなった。
見上げてみれば、そこには非常に困惑したロビンが私を見つめている姿があった。
彼は私と目が合うと、ばつが悪そうに視線を逸らせてしまった。
そうだ…もし、ここで泣こうものなら…ロビンに嫌な思いをさせてしまうかもしれない。そこで私は心の中で必死になって自分の人生の中で楽しかった出来事を思い出しながら、言った。
「そうよね。ごめんなさい、フィリップ。貴方を困らせるような事をしてしまったわね。もう二度と今の様な事はしないから…許して貰えるかしら?」
出来るだけ、自然に…不自然にならないような笑みを浮かべる。
「…」
フィリップは一瞬困惑したかのような表情を浮かべたけれども、すぐにいつも通りの冷めた表情になり、ポツリと言った。
「そうして貰えると助かる」
「ええ」
精一杯の笑みを作り続けながら、返事をするも…身体の震えは止らなかった。
スプーンを持つ手が自分でも無様な位震えている。
これでは、絶対にフィリップに私の動揺を気付かれてしまうし…ロビンにも心配をかけてしまう。
だとしたら、私が取るべき行動は一つだけだ…。
私は静かにスプーンを置くと言った。
「ごめんなさい、少し…お腹の調子が悪いみたい。私、先に部屋に戻らせて貰うわね?」
結局、私は一口も食べる事が出来なかった。…と言うか、離婚届を手渡された時から食欲なんか皆無だった。
「…そうかい、分ったよ」
フィリップは一度だけ私を見ると、すぐに視線をそらせて再び食事を口に運び始めた。
「途中で退席してごめんなさい」
フィリップに頭を下げるとキリキリと痛む胃を我慢しながら立ち上がり、私はダイニングルームを後にした―。
****
「はぁ…はぁ…」
必死で自室まで歩き…ようやく部屋に辿り着いた。
「ふぅ…」
長ソファに腰かけ、痛みが和らぐのをじっと待ち続けている内に…いつしか私は眠りについていた―。
「ん…」
どのくらい経過しただろうか…。不意に私は目が覚めた。
「あら…?私…いつの間にか眠っていたのかしら…?」
そして気が付いた。自分が長ソファではなく、ベッドに横たわっていたと言う事に。
「え?どうしてベッドの上に…?」
ゆっくり起き上がると、胃の痛みも治まっていた。
「良かった…痛みが和らいで…あら?」
ベッドサイドテーブルには水差し薬袋が置かれていた。
「薬…?ひょっとして胃薬でも飲んだのかしら?」
けれど、自分で薬を飲んだ記憶も無ければ、ベッドで寝た記憶すら無い。
もしかすると、誰かが私をベッドまで運んでくれて薬を飲ませてくれたのかもしれない…。
そんな事を考えていると部屋の扉が静かに開かれ、メイドのクララが部屋に入って来た。そして私が起き上がっている姿を見ると驚きの表情を浮かべ、すぐに謝って来た。
「申し訳ございません!エルザ様!」
「え?何を謝るの?」
「エルザ様のお部屋にノックもせずに入ってしまったからです」
「あら?そんな事は気にしなくてもいいのよ。それよりも…誰が私に薬を飲ませてくれて、ベッドまで運んでくれたのかしら?」
「え?あ…それは執事のチャールズ様です」
「そうだったの…。それは迷惑をかけてしまったわね…。でもお陰様でお腹の痛みは治ったわ」
後で会った時にお礼を言っておかないと…。
フィリップには冷たくされているけれども、ここで働いている使用人の人達は皆とても親切だ。
だからこそ…。
「私は、幸せ者だわ。だってここで働いている人達は皆とても親切だから。本当に有難う」
そうして、私はクララに笑顔を見せた。
皆に心配かけないように―。
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