言いだしっぺがだいたい損をくらう

最初にギャンブルコースに飛び込んだのは先輩であった。もはや借金にもまれすぎて逆に怖いもの無しになった先輩は慎重な賭けなどしない。大量に借金を増やして一か八かの逆転を狙いにいく算段だ。

「来い、来いっ!」

ホントのギャンブルをするかのようにルーレットを見つめる彼女。この時全員が先輩はギャンブルに絶対行かせてはいけないと総意を示したのは言うまでもない。

朽ち果てた先輩の屍を背に3人もまたギャンブルの遊戯を始める。盛大に負け散らかした反面教師を見習って全員が安定的に賭ける。できるだけ手傷を負わずにここから出れれば御の字と言ったところだ。

そうして3ラウンドあるギャンブルコースは最終局面を迎えた。先輩の借金はとうに100万を超えている。もう多分返す気はない。それでも借金をして最後の大目玉狙う。

「じゃあ回すぞ」

ここまで来たのだから3人も固唾を飲んで見守る。負けた時は何も言うまいと心に誓ったちょうどその時、先輩が小さく声を漏らした。

ルーレットの針を見ると指しているのは10。対して彼女が賭けたのは、、、、10だった。

「や、やったーーーー!」

彼女が借金した10万合わせてちょうど200万。一点狙いは倍率100倍なので、それを帳消しにする大勝利だった。

ゲーム序盤からずっと最下位のドンだった先輩が初めて暫定1位に躍り出る。しかも2位とはかなりの差があった。

これには思わず凄いと声が出てしまった。無事にギャンブルコースを抜け出した先輩の表情はまるで戦いの勝利に浸ったかのよう清々しい顔をしている。

「まぁ?君たちもせいぜい頑張ることだね」

上機嫌になりすぎて上から目線になっている。これはこれでなんだか嫌だな。だが先輩の態度は案外すぐにおさまることになった。

「やったあ」

星奈が嬉しそうに呟くルーレットを見ると、出目はさっきと同じ10。同じく一点狙いだった彼女の倍率ももちろん100倍。しかも賭けていたのは彼女の財産の半分50万。つまりはそういうこと。

これにてこのゲーム、誰が勝ったかなんて言うまでもない。

「ってことで。星奈の勝ちでいいですね先輩」

「…………。」

机に突っ伏して不貞腐れる先輩。なぜそういうところは僕らよりも子供なんだ。

「じゃあ、罰ゲーム決めるか」

至極当然の如く裕也が罰ゲームを決めようとするのに、伏せていた先輩が起き上がって抗議する。

「罰ゲームあるなんて聞いてないわ。星奈もそう思うよな、な?」

詰め寄り方が人に返答を求める態度ではないのは明らかだが、おっとりとした星奈にそんなものは効かない。

「そうですね。先輩もこの間なんでも相談してくださいって言ってましたもんね」

「え?あ、あー。なんかそんなこともあった気がしなくもないかなぁ」

どうやら2人で何やら相談する約束でもしていたみたいだ。なんの相談なんだろ。女子っていうのは仲が良くていいなぁ。

「ですから、先輩。私たちになにか相談事ないですか?例えばそうですね……恋愛についてとか」

おっとぉ?

なにか策があるって、そういうこと?

裕也と幸は酷く不穏な空気を感じざるをえなかった。

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