7章 26. 業火に燃える帝都
「………了解だ。ならそっちはそのまま救出を任せるぞ」
エミヨンとの戦闘中、南区以外の3つの地区で敵戦力を制圧したとの連絡が入った。
相手がキール達だったことには驚いたが、問題無く倒せたらしいのでそのまま獣人族の救出に入ってもらうことにする。
「さてと、それじゃこっちもぼちぼち勝負を決めないとだな」
「くそっ、どうなっている!?私の毒が全て無効化されるなんて有り得ない……!」
俺は他の俺との連絡を終えると、目の前で未だに無駄な攻撃を繰り返してくるエミヨンを見据えて薄く笑う。
魔人の魔力を得て最強の魔法使いとなった彼女は、もう自分に勝てる相手などいないなんて思ってたらしい。
だから突然眼前に現れた強者を前に現状を受け入れられずにいる。
力に溺れることほど虚しいものは無いな。
「こ、こうなったら貴様の魔力も奪い取るまで――」
「もうそんな隙は与えねぇよ。……加速!」
俺は速さに自信のある魔獣達と融合することで瞬間移動の如き速さを手に入れ、エミヨンとの距離を詰める。
彼女の魔力を吸い取る魔法だけは厄介だからな。
それを使われる前に仕留めるまでだ。
「おらぁ!」
一瞬でエミヨンを後ろへと回り込んだ俺は、彼女の腰を掴むとそのまま1回転して城壁へと叩きつける。
「がほっ……!」
ボールの様に軽々と放り投げられたエミヨンは、激しい衝突音と共にその勢いで壁を粉々にする。
これであいつも無力化出来ただろう。
エミヨンを倒した俺はゼクシリア達のいる方へ振り返ると、彼らも周りに集まっていた魔法使い共を制圧し終わるところであった。
「おい灯、それはさすがにやり過ぎだ」
「わ、悪い、まだ上手く加減が出来なくて……」
城壁を粉々にした俺は、ゼクシリアに問い詰めるような視線で睨まれてしまった。
家にでかい風穴を空けてしまって申し訳ない。
「今の大きい音は一体何ですか?」
「灯君がお城に穴を空けちゃったのよ」
「あらまぁ……」
メルフィナもあまりに大きい音がしたので気になったらしく、それにネルフィナが答えていた。
ほんとにごめんって。
「ったく、もう少し手加減というものをだな……、ん?おいちょっと待て、エミヨンの姿が無いぞ?」
ゼクシリアは俺を説教していたが、壁周辺の土煙が晴れてくるとそんなことを言い出す。
まさかあの攻撃に耐えれるはずもないと思うが。
「んな馬鹿なそこに転がって……いないな。ま、まさかあの攻撃を受けてまだ意識があったのかよ」
どうやらゼクシリアの言っていたことは本当であった。
土煙の晴れた壁の残骸を掻き分けたが、そこには人の姿などどこにも見当たらず、城の中には点々と血の跡が一本道を作っている。
恐らくこの先にエミヨンは逃げたのだろう。
「すまん、俺のミスだ!」
「いや、確認を怠った私の失態でもある。急いで探すぞ!」
「ああ!虫達出てきてくれ、昨敵を頼むぞ!」
「「「ブウゥーン!」」」
俺は慌ててモンスターボックスから虫系の魔獣を呼び出すと、エミヨンの捜索をお願いする。
敵の親玉を取り逃したのは失態以外の何でもない。
放り投げるのではなく抑え込むべきであったという後悔の念を押し込みつつ、俺も城中を駆け回る。
『灯、敵将を見つけたぞ!」
「イル!どっちだ?」
城内を駆けていると、俺の脳内にイルの声が響いてくる。
どうやら彼女が最初にエミヨンを見つけたらしく、俺はそんな彼女の指示に従い一直線に目的地へと向かう。
だが、そこで俺が見た光景は目を疑うものであった。
「ん?来たか……。くくく、くはははははは!見よ!この絶景を!」
「な、何だよこれ……」
エミヨンが居たのは要塞城の最上階にあるバルコニー。
その先に広がっていた光景は、紅蓮の業火に燃える帝都の姿であった。
「すまん灯、我が来た時にはすでに……」
イルはエミヨンを止めることが出来なかったと申し訳なさそうに謝罪してくる。
だが、悪いのは彼女では無い。
「お前、何故こんなことをしたんだ!」
「貴様のせいだ!貴様が現れたせいで私の皇帝としての人生はもう死んだも同然になった。……なら、もうこんな邦必要ないだろ?だから全て燃やして消してやるんだよ!」
そう語るエミヨンには、もう先程までの闘志は一切感じられない。
骸な瞳に映るのは、ゆらゆらと燃えたぎる炎の影だけであった。
「狂ってやがる……」
「そうしたのは貴様だ。この惨状は全て、貴様が生み出したものだよ。そして……、この城も今業火に沈む!」
「っ!させるかよ!」
エミヨンは左手に妙な魔法の塊、そして右手には小さな火種を天に掲げた。
恐らくあの左手の魔法が、燃料の役割を果たしているのだろう。
俺は慌ててエミヨンの元へ駆けるが、彼女との距離はまだかなりある。
「もう遅い。燃え尽きろ、我が帝国!」
エミヨンは右手と左手を合わせて、炎を噴き上がらせようと構える。自分も犠牲にして城を炎に包み込むつもりの様だが、そんなことは絶対にさせない。
「ちっ、仕方ねぇな。この技を使うか……!」
俺は足でエミヨンとの距離を埋めるのは止め、その代わりに力の限り両腕を振るう。
その瞬間、あと少しでエミヨンの手が重なり合うというタイミングで、彼女両腕は空中に舞った。
「……は?」
「ま、間に合ったか……」
「うぎゃぁぁぁぁああああ!う、腕が……、私の腕があぁぁぁぁあああ!」
炎に包まれると思っていたエミヨンは、目の前に落ちる自分の腕を見てそんな素っ頓狂な声をあげる。
そして遅れてやって来た激痛に悶え苦しむ様に、絶叫の声を喚き散らした。
「辻斬……、今お前の腕を斬った技の名だ」
クウのワープ、リツの時間操作、イビルを初めとする刃物の様な腕を持つ魔獣を掛け合わせた技が辻斬である。
速さと距離を無視し、優秀な斬れ味が魅力のこの技だが、あまりに優秀過ぎるが故に簡単に命を狩り取れてしまうので、使い所も難しくある。
その為緊急時以外は使わないように決めていたが、今がその時であったので仕方なく使わせてもらった。
幸い腕のみを上手く斬り落とせ、誤って首を跳ね飛ばすなんて事態にならずに済んだので一安心だ。
「な、何だこの惨状は……!?」
「ゼクシリア……」
腕を斬り飛ばしたせいで盛大に血を噴き出しているエミヨン腕を止血していると、ゼクシリアが俺達の元へとやって来た。
彼は最初に血の海となったバルコニーに目を奪われ、次に炎の海となった帝都が目に入り目を見開いている。
いやな海ばかりだ。
「帝都が燃えているだと……」
「く、くはは……、いい気味だなゼクシリア」
エミヨンは絶望の表情を浮かべるゼクシリアの顔を見て笑っていた。
だがその顔色は真っ青に染まり脂汗も額に滲んでおり、そんな姿を見ていると彼女を咎める気など湧いてこない。
「ゼクシリア、こいつ任せるぞ」
「あ、ああ、それは構わないが、何をする気だ?」
ゼクシリアは俺がエミヨンの止血を終え、バルコニーの縁に立つ姿を見てそんな疑問を浮かべる。
「決まってるだろ。あの炎を消すんだよ」
「お、おいよせ!危険だ!」
答えながら宙に身を放る俺を見て、ゼクシリアは必死に手を伸ばして止めようとしてくる。
だが その時にはもうすでに、俺は落下している最中であった。
「リツ!力を借りるぞ!」
『灯の命じるままに従います』
炎を止めるにもこれだけ火の手彼女広がっていたら時間は掛かってしまう。
ならばその時間を止めてしまえばいいのだと、俺はリツと融合し帝都全体の時を操る。
これでもう時間は気にすることなく火消しに集中出来るだろう。
「さぁ、この炎の海を掻き消すぞ!」
こうしてエミヨンを倒した俺は、燃え盛る帝都を救うべく炎の中へと身を投じるのだった。
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