7章 27. 魔法使いは口を塞がれたら何も出来ない
エミヨンとの戦闘を終えた俺は、帝都を燃やす炎を消すために炎の中へ飛び込む。
「これだけ広範囲の炎を消すならカイジンかシーラの力を借りたいところだが、今2人はここにいないか。守るって言ったんだから、最後まで全うしてやるさ!」
自分の吐いた言葉には責任を持たなければならない。俺は覚悟を決めると、目の前で燃えたぎる炎に意識を集中する。
「まずは頭数が必要だな。プルム!分裂体の数をもっと増やすぞ!」
『!(はーい!)』
俺は現在デフォルトで融合しているプルムにそう呼び掛けると、体を何重にも分裂させていく。その数はおよそ50体程だ。
これだけの数分裂するのは初めてなので少し不安であったが、少人数の時と大差は無かった。
「よし、次は炎を消す手段だな。海系の魔獣はほとんど獣人族を乗せた船を運んでもらってて、今はいないから風で攻めるか」
本当なら水をぶっかけてさっさと消火させたいのだが、今はそれが出来ないので風で代用する。
適量な風は炎の火力を上げるだけだが、今は時間を止めてるからその心配はいらないし、それに適量を上回る圧倒的な強風を浴びせればいいのだから問題は無い。
「さぁ皆、こんな炎とっとと消火しちまうぞ!」
『!(おー!)』
融合を完了させた俺はそう意気込むと、消火活動を開始する。
時間が時間が止まっている中で、黙々と炎の処理を進めていった。
――
帝都の炎を相手にしている頃、南区の港周辺を担当している俺、ガンマ、シーラは少々の苦戦を強いられていた。
「ちっ、人質かよ……!」
「厄介ですわね」
他の地区と同じくまずは獣人族達を蝕んでいた毒を浄化させた俺達であるが、彼らの数の多さが仇となり人質を取られてしまったのだ。
この南区を指揮している敵魔法使いは、エミヨンの側近貴族であるフリーであった。
「あっはっは!いい気味っすね魔人共、これじゃあ手も足も……、出ないでしょお!」
「ぐおっ!」
「きゃっ!」
人質を気にして攻められずにいるガンマとシーラ目掛け、フリーは魔法を乱射してくる。
魔人達にとってはその程度の魔法など痛くも痒くもないのだが、それでも勢いに押されて距離を詰められずにいるので煩わしさはあった。
恐らくフリーの狙いは人質を利用しての時間稼ぎだろう。
獣人族が役に立たなくなった今、王国が攻めてきたら俺達を囮にしてその隙に逃げようという魂胆が透けて見える。
「おいあんたも!早くその妙な格好をしまうっすよ!」
「分かったよ、そう興奮するなって……」
速さを活かした融合スタイルで俺も攻めていたが、フリーは用心して重量の結界を周囲に展開していたのだ。
それに容易く引っ掛かってしまい、俺の奇襲も失敗して今は融合の解除を強要されている。
「ほら、これで満足か?」
魔獣との融合を解除した俺は人間体へと戻る。
「ふっ、あんたは何かやばいオーラを感じるっすからね。悪いけど先に始末させてもらうっすよ!」
「くっ……!」
完全に無防備となり、その上で頭の後ろで手を組んで無抵抗を示した俺に対し、フリーはニヤリと悪どい笑みと共に魔法を放つ。
なかなかに容赦のない奴だ。
「プルム」
『!(任せて!)』
しかし、残念ながら俺は一見人間体に見えて、現状は素体でプルムと融合しているのだ。
だから体の一部をスライムに変化させて、攻撃をガードすることも可能である。
プルムは俺の声に反応すると、全身から水色のゼリーの様なものを噴き出しさせ、壁を形成してフリーの放った黒い槍の形をした魔法を防ぐ。
「なっ!まだそんな手を隠し持っていたっすか。でも、抵抗なんかして人質がどうなってもいいんすね!」
フリーは突然俺の体から噴き出したスライムに瞠目するも、すぐに気を取り直して人質に向けて手を振り上げる。
その手にはナイフが握られており、それで見せしめがてら人質を何人か犠牲にするつもりのようだ。
だが、それでは遅い。
「恨むんなら言うことを聞かなかったあいつを恨むんすね――ってあれ?ひ、人質はどこっすか!?」
フリーは足元に寝転がっている人質目掛けナイフを振り下ろそうとしたが、その時に足元に彼らが居ないことに気がついた。
「ようやく気づいたかばーか。お前がこっちに魔法を放った隙に人質は回収させてもらったぜ」
「ぬぐっ!で、でも一体どうやって……!?」
「クウー!(クウがやったんだよー)」
フリーはイラつきながらも疑問の声を口にする。
だが、それに答えたのは俺やガンマ達ではなく、助けた張本人であるクウだった。
俺は最初の突撃で人質を救出出来なかった時にこうなることを想定して、予めクウをモンスターボックスから呼び出していたのだ。
クウなら一瞬でもフリーの気を引き付けておけば、容易く人質を回収出来るからな。
「サンキュークウ、助かったぜ」
「さすがはクウだな!」
「クアッ!(ふふーん!)」
俺は肩に乗ってきたクウの頭を優しく撫でながらお礼を言う。
クウは幸せそうに俺の掌に頭を擦り付けてきていた。相変わらず可愛いやつだ。
ガンマもクウのワープ能力に、嬉しそうに笑い声をあげていた。
「ふふっ、残るは貴方だけですわね?」
「……!ま、まだだ!まだこっちにはあんたらから奪い取った魔力があるんすからね!これがあればまだ負けじゃないっすよ!」
シーラの静かな、しかし重苦しい声音にフリーは一瞬たじろぐも、すぐに自信を取り戻して魔力を集めだす。
やはりあいつもエミヨンから魔力を分け与えられていたらしい。
ならばここからは俺の出番だな。
「まずはお前達の動きを封じて、その隙にもう一度人質を確保するっす!グラビティロッ、んんん……!」
「いいや、お前はもう何もするな……。捕縛!」
フリーが魔法の詠唱を完了させようとする直前、俺はそう合言葉を言いながら片手を突き出す。
それと同時に噴射された光沢感のある白い糸は、奴の口に的確にヒットすると、べったりと張り付き塞いだ。
「んんんん!?んんんんんん!(何だこれ!?喋れないっす!)」
「魔法使いは口を塞がれたら何も出来ないからな。これ最近みつけた必勝法だぜ!」
「んんんんんん!(せこすぎるっす!)」
「あっはっはっはっは!まだまだいくぜぇ!」
呪文をを封じられてイラついているフリーに向かって、俺は更に攻撃を仕掛ける。
蚕やクモの糸などを合成して編み出した特性の捕縛糸を使って、フリーの体を易々と縛っていった。
最初はフリーの口を塞ぐために粘着性の高い糸を発射したが、この戦い方こそが捕縛本来のやり方である。
「貴方様、さすがにその戦い方はかっこ悪いですわよ……」
「人質を使うような相手には、これくらいの戦い方がちょうどいいんだよ!」
さすがに笑い方が汚かったのか、シーラは俺の戦い方を咎めてくる。
このやり方は俺も正直ずるいとは思うが、ルール無用の戦場でそんなことを言ってられる余裕はない。
どんな形でも勝てばいいんだ勝てば。
「大将の好きにすればいいさ……。俺は獣人族の救助に回るぜ」
「ではわたくしは海の方を見てきますわね」
「おう、任せたぜー」
フリーを捕縛し勝利を確信したのか、ガンマとシーラはそれぞれ次の行動に移っていく。
少々の苦戦はあったが、ともかくこれで南区も制圧完了だな。
後は他の地区から避難民が来るまでに、船を調達するだけだ。
「貴方様―!獣人族の方々が海からやって来ましたわよー!」
「おっ、もう到着したのか。了解―!」
睡眠系の能力でフリーを寝かせ、完全に無力化しているとシーラからそんな報告が入ってきた。
これから避難誘導に入るところだから、タイミングとしては完璧だな。
「さて、そんじゃ寝てる獣人族達もぼちぼち起こすとするか。いちいち運ぶのは面倒だからな」
獣人族を眠らせていたのは、戦闘中に無駄な混乱で手間を取りたくなかったから。
なので敵を倒し終えた今は、起きて自分の足で歩いてもらわなければならない。
恐らくここが1番時間のかかる作業だろうが、もうゴールも見えてきたので最後のひと踏ん張りだ。
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