7章 23. 毒はすでに攻略済み
帝国領空へと侵入した俺は、プルムと融合し体を5つに分裂させる。
その基本的な役目は遠距離での連絡用だが、それとは別に魔人達のサポートもこなす。
モンスターボックスは全員共有されているので、戦力としても十分な力を発揮できるだろう。
数日の休みで魔獣達も魔力をたっぷりと回復させてあるしな。
「それじゃあ各自、手際良く頼むぞ!」
「うん」
「はーい!」
「おうよ!」
「了解ですわ」
「承知したぜよ!」
俺の言葉に魔人達は各々自由に返事をすると、予定通りの方角へと分散していく。
そんな彼らを見送った後、残った俺とゼクシリア達も帝都へ向けて全速力で飛翔する。
「緊張してるのかゼクシリア?」
決戦をまえにして緊張しているのか、ゼクシリアは少し震えていた。
相手は1度負けたエミヨンなのだから無理もないが、あまり固くなりすぎても負ける要因になるから、いい感じに解しておかないと。
「……まぁな、もう負けるわけにはいかないのだから、緊張くらいするさ」
「安心しろよ、帝国は必ず取り戻すから」
「ああ、灯といると不思議と力が湧いてくる気がするよ」
「へへっ、そりゃ嬉しいな」
結局あまり上手いフォローは出来なかった気がするが、それでもゼクシリアの表情は少し明るくなった。
今はそれだけで十分だろう。俺が勝てさえすれば、何も心配はいらないのだから。
「さぁ、帝都が見えてきたぞ。皆心の準備は出来てるな?」
「は、はい……!」
「いつでもいいぞ。行ってくれ!」
気がつくともう帝都が目の前まで迫っていた。
メルフィナは少し声は震えているが書く後は出来ているという表情で、ゼクシリアももう不安は一切ないという面持ちをしている。
俺はそんな彼らを一瞥すると、真っ直ぐ帝都に聳え立つ要塞城を見据えた。
「あっ!な、何か飛んできたよ!?」
「攻撃……!?」
だが、帝都を目前にした俺達の存在に敵も気づいたのか、遠距離用の魔法で迎撃してきた。
迫り来る魔法の雨を前に、双子姉妹達は怯え気味な声を発する。
「もうバレたか、さすがに戦争を前にしてるだけあってエミヨン側も警戒はしてたみたいだな」
帝国は王国に向けて宣戦布告したとの情報が入っていたからな。
向こうもいつでも戦えるように備えていたのだろう。
「どうする灯?」
「俺が先行して防ぐ!ゼクシリア達はその間に城まで突っ込め!」
ゼクシリアの疑問に俺はそう答えると、運んでくれていたドラゴンの背から飛び降りる。
「クウ、イビル、ライチ融合だ!全部跳ね返すぞ!」
『クウ!(うん!)』
『ギギッ!(任せるでござるよ!)』
『ピィー!(了解しました!)』
落下することで全身に風を受けながら、俺はモンスターボックスにいるクウ達に呼び掛け3匹と同時融合する。
すると背中からはイビルの強靭な外殻が突き出し、更にクウとライチの柔らかい羽がシマ模様に生え揃う。
両手足も柔らかい毛が覆い、関節部や手先には鋭い爪や角が並ぶ。
これこそが、イビルの機動性、ライチの飛行速度、そしてクウのワープによる防御力を合わせ持つ最速の防衛形態だ。
「よし、準備おっけーだな。かかってこいや魔法使い共!」
融合を完了させた俺は瞬く間に飛翔し、ゼクシリア達の乗るドラゴンの先に躍り出ると、迫り来る魔法の雨を1つ残らずワープホールで受け止め撃ち返す。
魔法と魔法をぶつけ合わせることで魔力の節約をしつつ、効率的に処理しながら最短距離で要塞城を目指した。
「な、なんだあいつは!?」
「ま、魔法が1発も当たらないぞ!」
「ていうかなんだよあの姿!?化け物じゃねぇか!」
数百という魔法の弾を放ったにも関わらず、その全てが防がれその上俺の人間離れした姿を前に、魔法使い達は言い知れぬ恐怖を覚え怯えの表情を見せだす。
本能に従って逃走する者、恐怖に呑まれその場にへたり込む者、様々感情が渦を巻き迎撃してきた部隊は大混乱に陥っていた。
「もー終わりか?それじゃここ、通してもらうなー」
もはや収集もつかないほど取り乱す彼らの頭上を素通りし、俺達は要塞城城門前に降り立った。
飛んでればこんな城門軽々と越えれるのだが、それだとエミヨンに俺達が来たことを強く印象付られない。
だからあえてここで止まった。
「ゼクシリア、悪いけどこの城門壊すぞ」
「ああ、構わん。派手にやってくれ」
「おーけー、そんじゃいくぞー!」
念の為ゼクシリアから許可を得た俺は、更に数種類の魔獣と同時融合し右腕を突き出す。
「くらえ……、爆砕!」
マイラ、ユドラ、ドラゴン等の火炎系攻撃を得意とする魔獣のブレスに、空で仲間にしたスフィンコという気圧を操る魔獣の能力を掛け合わせた即席の爆撃砲だ。
俺は数日の訓練で、魔獣達の能力を掛け合わせた様々な技を編み出すことに成功したが、想定外に多くのものが出来てしまった。
だから戦闘時など咄嗟の判断が重要な時でもすぐに任意の技を使えるように、それぞれの技に簡易な合言葉を付けてそれに合った魔獣と融合する様に決めておいたのだ。
そして先程城門に放った爆砕もその技の1つである。
「はは……、派手にやれとは言ったが、これはちょっとやり過ぎかな……」
「わ、悪い、まだ威力の調節が上手くいかなくて……」
高火力の爆発砲を受けた城門は粉々になって吹き飛び、見事なまでの大穴が仕上がっていた。
この技は適当に使うと味方まで巻き込む危険性があるな。使う時は注意しとかないと。
「何事だ!この騒ぎわなんだ!?」
先程まで城門のあった所を呆然と眺めていると、その奥の城から慌ただしい喧騒と共に目的の人物、エミヨンが姿を現した。
「ま、まぁこうして獲物も誘い出せたんだし結果オーライってことで」
「まったく、この戦いが終わったら損害賠償を請求するからな」
「えー、まじかよ……」
俺はこの惨状をどうにか誤魔化そうとしたが、残念ながらゼクシリアは見逃してはくれなかった。
「そうなりたくなかったらあいつからたっぷりむしり取るんだな」
「ははっ、そうさせてもらうか」
ふざけたことを言い合えるくらいには、ゼクシリアもだいぶ落ち着いている。
少し気が抜けすぎな気もするが、これぐらいがちょうどいいのかもしれないしいいだろう。
「貴様ら……、やはりあの時竜が連れ去った後生き延びていたか」
「ああそうだ。きっちりリベンジさせてもらうぜ」
エミヨンは城門の惨状に瞠目しつつも、以前勝利した相手が再びやって来たことに気づくと余裕を取り戻す。
「王子達もせっかく助かった命だというのに、わざわざ死地にやって来るとは馬鹿な奴らだな」
「帝国は返してもらうぞ」
「返す?別に元からお前のものではないだろうが。そして今は私のものだ!サーペントファング!」
ゼクシリアの言葉にエミヨンは激高すると、両手を突き出しそこから半透明の紫色をしたヘビが出現する。
前回も見たことがあるヘビの形をした毒魔法だ。
「お前の毒はすでに攻略済みだ、2度は喰らわねぇ……。浄化!」
だが、1度受けたことで彼女の使う毒の成分はすでに判明している。
その特徴は全身に走る激痛と、神経を刺激することで身動きを取れなくすることの2種類で、それによって激痛に悶えながら無抵抗に死を待つのみの極悪な毒だ。
そんな強烈な攻撃に対抗するため、俺は迷いの森から生粋の治癒能力を持つ魔獣を選抜して解毒能力を手にした。
それが浄化である。
花、キノコ、草、虫の毒など、治癒に使える能力を寄せ集めてシンリーと共に検証し完成させた成分を、俺は竜のブレスの要領で周囲に散布させた。
これによってエミヨンの毒は全て無に帰したのだ。
「な……!?わ、私の毒が!」
エミヨンの発動した毒魔法は俺の浄化によって消滅し、その光景を目の当たりにしたエミヨンは目を見開き驚きの声を上げる。
「残念だったな、もうお前に勝ち目はないぜ」
俺はそんなエミヨンを相手に余裕の笑みを浮かべながら宣言する。
こうして、要塞城にてエミヨンとの決戦が開幕したのだった。
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