7章 22. 皆が安心して笑って暮らせる世界の為に
獣人族の長達と色々取り決めることもありつつ島で数日間が経過する。
この時間を俺は有効に活用し、仲間にした大量の魔獣達と融合を繰り返して新たな戦い方を頭に叩き込んでいた。
そんな日々を送っていると、ついに俺の元に偵察に出ていた虫達から連絡が入ってきたのだ。
「お疲れ皆、それで帝国は今どんな感じなんだ?」
『ビービー!(エミヨンと名乗る女がでっかいお城を占領してるよ)』
『ジジッ!(王国にも宣戦布告したらしいです!)』
『ブンブン!(港はもう魔法使いと獣人族でいっぱいだよ。なんか皆目が虚ろでかなりやつれて、操られてる感じがする)』
「ほぅ、やっぱそれなりに時間が経過してるからか結構動いてるみたいだな」
俺は虫達の報告を聞きながら、頭の中で敵の動きを分析する。
ある程度報告が集まってきたので、情報を整理してみた。
・帝国の貴族は全員エミヨンの傘下に加わって統一された
・エミヨンとその配下は要塞城を占領した
・王国に宣戦布告した
・港はエミヨンの配下に制圧されている。恐らく戦争を前にしての戦力整備だろう
・東西南北に実力者を配置して帝国全体の戦力を向上させてる
・獣人族は案の定エミヨンに洗脳され、帝都と東西南北に大人数配備されている
とまぁ虫達から得た情報を整理するとこんな感じである。
これでどこでどう戦えばいいのか作戦を立てられるので、虫達の働きには感謝しかない。
俺はこの情報を持って再び長達、魔人、ゼクシリア達を呼び出す。
「――と、虫達から得た情報はそんな感じだ。それでこれからどう動くかだが」
「灯、私は帝都へ行くぞ。エミヨンは私が倒さねばならない相手なのだから」
俺が司会を務めて今後の方針を検討していると、ゼクシリアがそう決意の瞳で見据えてきた。
確かにエミヨンは父親の仇だろうし、帝都を取り戻すのも彼ら帝家なのだから筋は通っている。
だが、それには申し訳ないが実力が伴っていないのだ。
「今のエミヨンは魔人の魔力を得たことで化け物みたいに強くなってる。ゼクシリアじゃ勝ち目は無いぞ」
「それでも奴の相手を誰かに任せることなど出来ない!これは帝国の王子としての私の使命なのだ!」
無理な戦いで死んでは元も子も無いので、俺はハッキリとゼクシリアには無理だと言う。
だがそれでも頑固な王子は、1歩として引く気は無かった。
「分かったよ……、それなら帝都には俺も着いていく。一緒に戦うんなら文句は無いだろ?」
「灯……、すまない恩に着る」
元凶であるエミヨンは絶対に倒さなければならない相手だから、元々帝都には俺か魔人の誰か1人を向かわせる予定だったのだ。
それならばゼクシリア達も一緒に連れて行って共に戦えばいいだけのことである。
それに王子が国を取り戻した方が、その後の運営もやりやすいだろうからな。
「はいはーい!それじゃあ私も一緒に帝都に向かうわ!」
「いや、それはダメだ。虫達の情報では帝都には獣人族はほとんど居ないみたいだったし、そこに戦力を集中させる意味は無い。だからシンリー達には各地方に分散してほしい」
「えー」
「仕方ないだろう。それが現状では一番の策ぜよ」
せっかくシンリーに名乗り出てもらったが、獣人族は地方にこそ多いのだから制圧力の高い魔人達には地方に行ってもらう必要がある。
カイジンそのことは理解しているようで俺の考えに同意してくれ、シンリーも渋々了承してくれた。
「でもそれだと、わたくし達1人余るのではないですか?」
「それなんだけど、南の港には2人向かわせようと思うんだ。エミヨンが王国に宣戦布告したってことは、もしかしたら王国が攻めてくる可能性もあるからな。だから最初の戦場になるであろう港は、戦力を多めに配備しておきたいんだ」
王国が攻めてきた場合は、両国の窓口でもある港が真っ先に狙われることになるだろう。
だからそっちには、出来るだけ多くの戦力を集めておきたい。
別に俺達は王国と戦う理由はないが、帝国は奴隷にしてる獣人族を大量に動員するつもりだろうからな。
そんな戦争でかれらの命を散らせるわけにはいかないし、防衛力を高める必要がある。
「なら港へは俺が向かうぜ。仲間を守るのは俺の役目だ」
「わたくしも港へ向かわせて頂きますわ。海はわたくしの専売特許ですから」
「了解だ。なら港は2人に任せるよ」
がんまガンマとシーラが挙手してきたので、港は2人に任せることにした。
「なら北はあしが行くぜよ。1番速さのあるあしなら北からでも港へ援護に向かうことも可能であるからな」
「確かにいざって時駆けつけてもらえると助かるな。分かった、北は任せるぜカイジン」
「承知!」
空を自由に飛び回れるカイジンなら、もし港や他の場所が危機に晒されてもすぐに駆けつけることが可能だ。
本当なら中央の帝都から各地へ援護に向かうのがベストかもしれないが、エミヨンは魔人数人分の魔力を吸っているから、もしかしたら負けるかもしれない。
それならとっとと北を落として港へ援護に向かってもらおう。
「じゃあ私は?」
「あんたと私はもう東と西しかないわよ」
「んじゃ、一応1回行ったことあるから土地勘もある西がドロシーで、東をシンリー任せたぞ」
ドロシーだけは何をするか分からないところがあるので正直不安だから、2回目となる西へ向かってもらう。
で、残ったシンリーは東だ。消去法で申し訳ないけど。
「はぁ……、私もダーリンと一緒にいたかったなぁ」
「ああ、それだけど連絡用も兼ねて各方面に俺の分裂体を同行させるつもりだよ」
「えっ!ほんと!?」
「ああ、緊急事態になった時遠距離同士で連絡を取り合う手段は必要だからな」
自分を電話代わりするのは少し気が引けるが、それでも現状これ以外に連絡を取る手段が無いので仕方ない。
それに分裂体でも俺は俺なんだから、戦力の増強にもなるしな。
「灯様、私達はどうすれば……」
「獣人族の皆は港に向かってくれ。戦闘は魔人と俺がやるけど、救出した獣人族を運び出すにも船が必要だからその制圧と誘導をしてほしいんだ」
「なるほど、その任しかと了解致しました!」
港は王国が攻めてくるからか、魔法使いや獣人族の数が最も多い。
だからそこにこちらの戦力も集中させる必要があるのだ。
それにジェンシャン魔獣人国の入口は竜の島にしかないからな。
そっちへ行くためにも海を渡る船が必要になる。
各地にいる獣人族の移動方法はまた別の手を考えてあるが、港は数が多過ぎるので船を確保、維持する為にも人手は多い方がいい。
「さて、分担はこんなもんだろ。それじゃあ皆行くぞ!」
「「「おおっ!!」」」
事前準備は全て完了。打ち合わせも終えた俺達は、いよいよ本格的に帝国へと乗り込む。
獣人族は選抜された500名の精鋭達が船に乗り込み、それを俺が仲間にした、海に生息していた魔獣達に引かせ高速で移動させる。
その間に俺、帝家、魔人達は竜の背に乗って、先発して帝国に乗り込む手筈だ。
獣人族達が到着する頃には帝国各地を全て制圧し、すぐに避難行動に移るのが理想。
ちなみに残った獣人族達は先にジェンシャン魔獣人国に行ってもらい、新たな世界の拠点造りに勤しんでもらっていたりする。
そうこうしているううちに、先発して出た俺達の視線の先に帝国の領土が見えてきた。
「いよいよだぞ皆、覚悟はいいな?」
「ああ、仲間達を取り戻す為に」
「何も問題ない、国を立て直す為に」
「そして皆が安心して笑って暮らせる世界の為に……、さぁ始めるぞ!これが最後の決戦だ!」
皆の覚悟を胸に刻み、俺達は帝国へと乗り込んでいく。
こうして、この世界に来てから過去最大規模の戦闘が幕を開けたのであった。
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