7章 7. 今日からお前はカイジンだ!

 空の魔人との激戦を制し、俺は彼を仲間に引き入れることに成功した。




「たった1日で魔人を仲間にするとは……」




「ゼクシリアのアイデアがあったからこそだよ。助かったぜ」




 ゼクシリアはほんの2日足らずで魔人を仲間にしたことに驚きの声を上げていた。


 だが空の魔人を呼び出せたのは、彼の竜巻を発生させようというアイデアがなければ不可能であったのだ。


 自分の手柄なんだということも忘れないでほしいな。




「それで灯、この後は何をするつもりなんだ?」




「とりあえずリツや空の魔人から色々と話を聞きたいけど、その前に1つやることがある。あいつの呼び名だな」




 これまで魔人を仲間にしてきたらそれぞれ呼び名を考えていたので、空の魔人も例外なくそうするつもりだ。


 相変わらず呼びにくい名前だし、それにあっちも殿なんて呼ぶんだからこっちだって好きにさせてもらうさ。




「おぉ殿!あしに名を与えてくれるのか!」




「まぁ皆そうしてるしな。えーと、空だからスカイ、それにぜよぜよ言ってるな……、よし決めた!今日からお前はカイジンだ!」




 スカイのカイと魔人のジンを合わせてカイジンにしたにしてみた。ぜよぜよ言ってて日本人っぽいのでちょうどいいだろう。




「カイジン……。うむ、承知したぜよ!あしの名は今日からカイジンじゃ!」




 空の魔人改めカイジンも、どうやら新しい名前を気に入ってくれたようだ。


 これで俺も名前を呼びやすくなるし助かる。




「では、あしからも殿にこの魔道具を献上するぜよ」




 そう言ってカイジンが懐から取り出したのは、長いベルトの着いたペットボトルの様な円筒型の金属の筒であった。




「ん?これは、魔道具か?」




「その通り、これは「マジックストレージ」という、魔力を蓄えることが出来る魔道具ぜよ」




「へぇ、魔力をね。名前にモンスターが付いてないみたいだけど、これも竜王の造った魔道具なのか?」




「そうです。名前が違うのは用途上モンスターボックスと被ってしまうから差別化する為にモンスター除いてはいますが、紛れもなく竜王の1品ですよ」




 俺の疑問には、いつの間にか隣にやって来ていたリツが答えてくれた。


 モンスターと名は付いていないが、これも竜王の魔道具の1つらしい。




「使用方法は簡単。モンスターボックスの中にいる魔獣から任意で魔力を徴収し、ここに蓄積するんじゃ。これによって使用者は自身の魔力を使うことなく、魔力を用いた技や魔法を扱うことが出来るようになるんぜよ」




「じゃあ融合無しに魔獣達の魔力を扱えるようになるってことか!?」




「う、うむ、そうじゃが随分と食いつくな……」




 保管や収容という意味ではモンスターボックスと用途は確かに似ているし、この魔道具はモンスターボックスを扱えることが前提である。


 だから道具名にモンスターが付いてない理由は納得だ。




 それよりも今は、カイジンの説明通りならこれを装備すれば融合せずとも俺は魔力を身に纏うことが可能となる。


 そうなればようやくこの世界の人間達と同じ立場になれるということだ。


 この世界に来てもう半年以上経った気がするが、ようやくスタートラインに立てた気がした。




「ご主人様はこの世界人間じゃないから魔力持ってない」




「な、なんと!それは真であるか!?」




「はぁ!?そ、それはどういうことだ!?」




「あー、それまだ言ってなかったっけ?俺元々この世界の人間じゃないんだよ」




 俺が異世界から来たことは、もうここにいる面々には周知の事実だと思っていたが、そう言えばゼクシリア達帝家の人達には言ってなかったような気もする。




「一体どういうことだ!?詳しく説明しろ!」




「灯様、別の世界から来たとはどういうことなのですか……?」




「分かった分かった、全部説明するから落ち着いてくれ。えーっと、何から話せばいいかな――」




 ゼクシリアだけでなくメルフィナまでもが動揺して詰め寄って来たのは驚いたが、ともかくそんな彼らを一旦鎮めて俺はこの世界に来た経緯などを、掻い摘んで1から説明する。




 全てを説明し終わった頃には、全員口を開けて間抜けな面を晒していて少し面白かった。




「ふむ、クウの空間魔法に巻き込まれてこの世界に来たというのか。にわかには信じられん話だ」




「でも、それで灯様が魔獣様方の力を借りている理由も納得しました」




「まぁ確かに、この世界において魔力の無い人間が生き抜くのは困難だろうからな。分かった、私は灯の話を信じよう」




「はい、私ももちろん信じますよ!」




 ゼクシリアとメルフィナ、そして他の帝家達も俺の話を信じて納得してくれた。


 証拠も何も無い話ではあったが、それだけ俺は彼らから信頼されているということだ。




「どこの世界の出身だろうと、あしはどこまでも殿にお供するだけぜよ」




「まぁその辺はもう好きにしてくれ。それより早速付けてみていいかな?」




「もちろんじゃ。手伝わせてもらうぜよ」




 俺はカイジンに手伝ってもらいながら、マジックストレージを装着した。


 ケツの上辺りに筒が来るように腰に巻き付けたので、後はモンスターボックス内にいる魔獣達から魔力を別けてもらえばいいわけだ。




「魔力の徴収はモンスターボックス内にいる魔獣達に対し、どの魔獣からどれだけ魔獣を徴収したいのか念じるのだ。そうすればマジックストレージに魔力が貯蓄されるしくみぜよ。もちろん、これも魔獣達との信頼は必要不可欠じゃがな」




「了解だ!それじゃあ取り敢えず、全員から1%ほど貰おうかな」




 カイジンに使用方法を教えて貰った俺は、早速モンスターボックスにいる魔獣達に呼び掛ける。


 すると全員から快く魔力を別けてもらえ、マジックストレージに魔力が貯蓄されたことを感じ取ることが出来た。




「上手くいったみたいだな。これで魔力を自由に使える筈ぜよ」




「どれどれ……、おっ!本当だ、ストレージを中心に魔力操作が出来る!」




 ストレージに貯まった魔力も、問題無く使用出来ることを確認した俺は思わず歓喜の声を上げた。


 だってこれなら練習次第では、魔法を使えるようになるのも夢ではないのだから。




「それにしても、戦ってみて分かったが殿は戦い方や魔道具の扱い方が達者じゃな。よく使いこなしとるぜよ」




「へへっ、まぁ俺にとってはクウ達や魔道具が命綱だったからな。必死に色々考え抜いた結果だよ」




 カイジンに魔道具の使い方などを褒められ、俺は少し照れつつも頷く。


 何度も危険な目にあったが、その度に俺は魔道具に助けられてきた。もう俺にとって魔道具は、なくてはならない存在なのだ。




「特に融合の切り替えの速さには驚かされた。竜王もああいった使い方はしてなかった気がするぜよ」




「えっ、そうなのか?」




 魔道具の開発者である竜王本人なら、俺の思いつかない様な魔道具の使い方もしていたのかと思ったが、そうでは無いらしい。




「竜王は貴方様のように様々な魔獣にも慕われていた訳ではありませんでしたから。ドラゴン種だけではやはり汎用性には欠けるのですわ」




「それに竜王は戦いの為にこれらの魔道具を造った訳ではありませんから。戦闘面なら恐らく灯の方が上ですよ」




 カイジンの発言に、シーラとリツも付け加えて説明してくれる。


 そう言えば竜王は新しい世界を創造する為に魔人や魔道具を生み出したという話だったから、戦いとはあまり縁が無かったのかもしれない。




「それより灯、魔道具を5つ手にしたあなたに最後の魔道具を託そうと思います。ついてきて下さい」




「あーそっか、そういやもう1つ魔道具があるんだったな。了解だ」




 以前竜の島を訪れた際にそんな話をしたことを思い出した俺は、リツの後に続いて洞窟の中へと進んでいく。

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