7章 8. 王たる資質のある者
魔道具を5つ装備した俺は、最後の魔道具を手にする為にリツの後に続いて洞窟の奥深くへと進んでいた。
今ここにいるのは俺とリツだけだ。何でもこの奥はとても神聖な場所らしく、俺だけで来て欲しいとのことだった。
そうして進んで行くと、いつしか周囲には多くの魔光石が見られる煌びやかな場所へとやって来ていた。
「ここは、かつて竜王が暮らし魔道具を造り魔人を生み出した場所です」
「ここがそうなのか……」
竜王が居たのはもう何百年も前の話なので、当時の道具などは見当たらない。
しかしそれでも、この空間が他の場所より異彩を放っているというのは俺でも感じ取れた。
それほどにこの場所は何か力を秘めている気がしたのだ。
「あそこに、かつての竜王の玉座がありました。魔道具はそこにあります」
リツはそう言いながら、俺にそこに向かうよう促してくる。
その場所は他よりも少し高い所にあり、岩で埋もれていたが確かに玉座を思わせる窪みのようなものが見て取れた。
俺はその指示に黙って従い、かつて竜王の玉座があったという場所へと登っていく。
「……これが、最後の魔道具なのか?」
岩の窪みに置いてあったのは、少し古びたリツの鱗に似た漆黒の冠であった。
冠ではあるがそれからは王の威厳のようなものは感じられず、むしろ禍々しさを漂わせている。
竜の王というのだから、これくらい不気味な方が合ってるのかもしれないが、正直呪われそうで少し怖い。
「それが竜王の残した最後の魔道具、モンスタークラウンです。さぁ、装着してみてください」
「ああ、分かってる……」
しり込みしている俺だったが、リツに背中を押される形で恐る恐る真っ黒な冠を手に取り頭へと運ぶ。
そしてようやく、俺は最後の魔道具であるモンスタークラウンを装着した。
「っ!ぐああぁぁぁぁぁあ!」
だが、その瞬間俺の全身を駆け巡ったのは激しい痛みであった。
血液のように全身をくまなく駆け巡るあまりの激痛に、俺は耐えきれずあわてて冠を脱ぎ捨てる。
静かな洞窟内には俺の苦痛にもがく声と、冠の転がる音だけが鳴り響いた。
「はぁ、はぁ……、な、な」なんだよ、今の痛みは……!」
「それは灯の身に付けている5つの魔道具がモンスタークラウンと共鳴した証です。モンスタークラウンは、全ての魔道具を繋ぐ架け橋なのですよ。」
「共鳴、架け橋……?」
体中が痛む中、紛らわす為にリツの言葉に意識を集中する。
しかし、それでも彼女の言っている意味が分からなかった。
魔道具同士を繋ぐ為の魔道具など、一体何の意味があるのだろうか。
「はい、5つの魔道具の能力を最大限に引き出すために造られたモンスタークラウンの装備条件は他の魔道具とは違い、魔獣に愛されていることともう1つ、王たる資質のある者なのです」
「王の資質……か。それじゃあ俺は、失格だったって訳か」
「いいえ、違いますよ。資格の無い者ならモンスタークラウンは反応すらしないはずですから。少なくとも体に痛みが走った灯には、王たる資質があるのだと冠に認められています」
「へぇ……」
全身に痛みが走ったのは、てっきり資格の無いものが装備した際の防御機能か何かかと俺は思った。
しかし、痛みだろうと反応があるのは俺に王の資格がある証拠らしい。
そういうことを言われると、一応俺も年頃の男子だしちょっと嬉しい気もするな。
まぁ痛いのは勘弁だが。
「どうします?今日はもうやめておきますか?」
「いや、ここまで来てちょっと痛いから一旦逃げるなんてかっこ悪いだろ。続けさせてもらうよ」
本当はちょっとどころの痛みでない。
だが、先程装備した時痛みの中に何か温かいものも一緒に感じ取れたのだ。
それはほんの一瞬ではあったが、でも確かに感じたその温かみの正体を俺は知りたい。だからもう少しだけ、続けてみようと思う。
「……よし!」
モンスタークラウンを手に取った俺は、意を決すると勢い良く頭に被る。
すると、やはり先程と同じく強烈な痛みが全身を駆け巡った。
「うがあぁぁぁぁぁぁあ!」
全身にを注射されている様な刺激に俺はまたも苦悶の声をあげる。
だが、やはりその痛みの奥底には温かみも感じ取れた。しかも今度は先程よりもより鮮明に熱く。
俺は、痛みから逃れる為ではなくただ純粋にその温もりの正体が知りたくて、もがきそれを求めた。
『……、り……』
「ぐうぅ……、な、何か、聞こえる……!」
必死に温もりを求めていると、その先からか細くはあるが確かに何か叫び声の様なものが聞こえてきた気がした。
まだ遠くてハッキリとは分からないが、でもとても聞き馴染みのあるそんな声が。
『……、り……が、れ……!』
「ぬうぅ……!も、もう少し!」
あとちょっとでその正体が分かりそうな、そんなもどかしさを感じ俺は必死にそれに手を伸ばす。
地面に這いつくばり無様に転げ回りながらも、それでも尚俺は声と温もりのする方へ求め続けた。
『あ、り……!が、ばれ……!』
「この声、まさか……!」
だんだんと鮮明になってくるその声と温もり。それに近づくにつれ、ようやく俺は正体が分かった。
それに気づいた俺は、全身を駆け巡っていた痛みなど気にもとめず、一心にその方向へ手を伸ばす。
そう、声の主であるクウや、温もりをくれていた他の魔獣達の元へ一心不乱に。
『灯―!頑張れー!』
「へへへっ、クウ達が待ってるんだ。魔道具何かに、負けてたまるかぁ!」
クウ達の応援を受け、俺は自分を縛っていた全てを振り解き全力で彼らへ手を伸ばす。
その瞬間、俺の視界は一瞬真っ白な閃光に包まれる。
眩しさに思わず目を瞑ってしまい、ゆっくりと瞼を開けるとそこは先程までと同じく、竜王の間が広がっているだけであった。
ただし、俺の頭には今や何の抵抗もなく静かに乗っかっているモンスタークラウンがある。
俺は冠の痛みを克服し、遂に全ての魔道具を装備することに成功したのだ。
「やはり灯なら装備出来ると思っていましたよ」
「ははっ、よく言うぜ」
冠を被った俺に、リツはご機嫌な声音で話しかけてくる。
結果は分かっていたかの様な物言いが気に入らなかったので、少しからかってみた。
「本当です、一瞬ではありますが灯は帝国との戦闘で、既に魔道具の真の力の一端を解放していたのですから。それも冠の力も使わずにですから、流石の私も驚きましたよ」
「帝国で?いつだよ?」
「私があなた達を助け出す前ですよ。覚えていませんか?」
「助けてもらう前……、あっ!そう言えばあの時もさっきみたいな温かさを感じた気がする!」
帝国での戦闘時、どういう訳か体の奥から熱と共に力が溢れてきた感覚があったのを覚えている。
あの時は無我夢中だったから忘れていたが、よく考えてみればあの時の感覚はさっきクウ達に応援されていた時とよく似ていた。
「灯は既にモンスタークラウンを装着する為の扉を開いていたのですよ」
「そうだったのか。でもまぁ今回も結局、俺の体質のお陰でどうにかなったんじゃないのか?」
「いいえ違います。確かに灯の体質の影響はありますが、それはただのきっかけにすぎません。灯がモンスタークラウンに選ばれたのは、灯とクウ、それに他の魔獣達の絆が生んだ必然なのですよ。決して体質だけで成し得られるものではありません」
「へぇー。それは、何か嬉しいな」
今回もてっきり俺の体質が役立ったのかと思ったが、リツ曰くそれは違うらしい。
これまでクウ達と共に旅をして育んできた絆が成し得た結果なら、素直に嬉しさが込み上げてくるものだ。
ともあれこうして俺は竜王の残した最後の魔道具を装備することに成功したのだった。
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