7章 3.空の旅
最後の魔人を探すことが決定した俺達は、その足で洞窟の外へと移動した。
俺の体調に関してはシンリーに治癒してもらったのでもう心配はいらない。
「!」
「「「ブオォー!」」」
「ギギー!」
「シャー!」
「ピィー!」
「よう、皆元気そうだな!」
洞窟を出ると、外で遊んでいた魔獣達が俺を見つけて駆けつけてくる。
彼らにも帝国では随分と無理をさせてしまったからな、数日だけでも休んでもらえてよかった。
「それでリツ、最後の魔人はどの国にいるんだ?王国か?」
「いいえ、違います」
「え、じゃあまさか実は帝国に居たってこと?」
「いえ、それも違います」
てっきり王国か帝国のどちらかに居るんだろうと思って聞いたのだが、リツは両方とも否定した。
それ以外の場所だと獣人族の諸島くらいしか知らないが、一体どこにいるのだろうか。
「両国とも違うとなると、海にでも居るんじゃないか?」
「いやー、さすがに海はないと思うよ。だってそれだと被るじゃん」
「ふふっ、そうですわね」
ゼクシリアは海に居るのでは洞窟の予想したが、さすがに2人も海に関係する魔人がいるとは思えない。
なぜならこれまでの傾向から、魔人達のタイプは皆違うのだから。
シーラも微笑しながら否定してるし。
「ただそうなると、もう分かんないな。答えを教えてくれよ、さすがに当てずっぽうじゃ時間が掛かりすぎるからさ」
リツが以前正確な場所は分からないと言っていたが、それでも大まかになら分かっているんじゃないかと思っての問いだ。
しかし、それに対する答えは驚きのものであった。
「空ですよ」
「空?」
「はい、最後の魔人は空にいます」
あまりにも短い答えに俺は思わず聞き返してしまった。
リツはそんな俺に前足を空に向けてジェスチャーも混じえてもう一度答えてくれる。
もう間違えることも無い。どうやら最後の魔人は空に居るらしかった。
「なるほどな、泥、森、溶岩、海ときて最後は空か。なかなかバランスいいんじゃないか?」
「んなこと言ってる場合かよ。空なんてどうやっていけばいいんだ」
ゼクシリアは感心したように頷いているが、本当にそんな場合では無い。
この世界には飛行機なんて乗り物は無いし、飛行系の魔法がある訳でもないのだ。
だから現状俺達に空へ向かう手段はない。
「ダーリンはクウかライチと融合すれば飛べるじゃない」
「それはそうだけど、俺だけ行っても見つけられないだろ。クウと融合してたらマナの能力を使えないんだし、マナを背負って飛ぶことも出来ないんだから」
シンリーが俺ならクウ達と融合すれば飛べるだろうと言ってきたが、魔人を探すためにはマナとの融合は必須なので結局探すことは不可能である。
空へ行く手段が思いつかず、手詰まり状態で全員頭を悩ませる。
「はぁ、だから私が協力すると最初から言ってあったでしょうに……」
だが、そんな俺達の空気を変えたのは、リツのなんとも呆れたため息であった。
「最初って……、あーだからあの時魔人を探すことになったらここに来なさいって言ってたのか」
リツの言葉を聞いて、俺はようやく以前竜の島に訪れた際にそんなことを言われていたのを思い出した。
あの時はあまり興味がなかったから適当に聞き流してたけど、あれってそういう意味があったのか。
「何のために私が一緒に話を聞いているのですか……」
「ごめんごめん、それじゃあよろしく頼むよリツ」
リツは俺の勘の鈍さに心底呆れたような表情をしている気がする。ドラゴンなのでよくは分からないが。
ともかくこうしてリツ協力によって飛行の課題をクリアした俺達は、早速空へ行くための準備を進める。
――
空へ向かう準備を終えた俺達は、現在出発の時を待っていた。
「やはり私も行ってはダメなのですか?」
「どんな機嫌があるか分からないからね、俺と魔人だけの方がいいんだよ」
「そうですか……」
空へ向かうメンバーは、相談の結果俺と魔人4人ということになった。
上空で魔人と戦闘になる可能性も考慮すると、全員で行くと帝家の皆にはこの島に残ってもらう。
「マナ、灯様達をしっかりサポートするのですよ?」
「コオォーン!」
魔人を探すにあたりマナの索敵能力は必要不可欠なので、メルフィナから少しの間預かることになっている。
メルフィナとマナはしばしの別れを惜しんでいた。
「では行きますよ」
「了解だ、たのむぞリツ」
帝家の皆と別れの挨拶を済ませた俺達は、リツの背に乗せてもらい大空へと飛び立つ。
リツの巨体は俺達5人を乗せてもまだ余裕があり、そして飛行速度も圧倒的で気づけば俺は今空の上へと来ていた。
「す、凄いな……」
前の世界では飛行機は数回乗ったことがあるが、体を触れる風や空気の冷たさ等、全てが乗り物とは桁違いだ。
全身を刺激する空の世界に恐怖と感動が俺の心を埋め尽くす。
「しかしこうして空に来てみると、探すのにどれだけかかるか分からないな……」
「それでしたら私が時間の流れを遅くしましょうか?」
「そんなこと出来んの!?」
「はっはっは!別にタイムドラゴンって名は飾りじゃねぇぞ」
リツの提案に心底驚いていると、ガンマが笑いながら答えてくれた。
そう言われてみれば、リツの本当の名前はタイムドラゴンだったな。クウと対をなすリツなら、それくらい出来ても不思議はない。
「それじゃあ時間がどれくらい必要か分からないし、お願いするよ」
「はい、分かりました」
リツはそう返事をすると、全身から何か波動のようなものが発せられた。
恐らくは今のでもう時間の流れは遅くなったのだろう。
「さーて、それじゃあ早速魔人探しを始めるか。マナ、融合するぞ!」
俺は事前にモンスターボックスに入ってもらっていたマナに呼びかけ融合する。
すると右腕は鋭い爪とサラサラの毛が生えた腕に変貌し、そして額には第3の目が開眼する。
その瞬間俺の視覚は全方面に広がった。人間の視覚はギリギリ180度見えるか見えないかくらいの広さであるが、この目は360度全てが見えている。
そして、視力もだいぶ上がっているようで、数キロ先の雲の模様もくっきりと見えていたのだ。
「この眼なら、もしかして……」
俺はマナの視覚の広さに驚くと共に、ある1つの可能性に気がついた。
だが、それは今試せることではないので一旦は置いておく。
今すべきことは魔人を探すことのみなのだから。
「貴方様、空の魔人を探すなら天候の荒れた箇所を重点的に見るといいですわよ」
「天気の悪い所ね、了解!」
シーラのアドバイスを元に、俺は出来るだけ天気の悪そうな所を探してみる。
すると、ここから少し南に行ったところに巨大な積乱雲を発見した。
あれだけ大きな雲なら、その周囲は天候が荒れている可能性はありそうだ。
「リツ、南にでかい雲があるからそっちに向かってくれ!」
「分かりました」
俺はリツに指示を出し、高速で南下する。
程なくして魔人達にも見えるくらい巨大な雲へと近づいてきたのだが、その時俺は厄介なものを見つけていた。
「あれって、魔獣か?」
俺が目にしたのは、雲と同じくふわふわした体毛を身にまとったヒツジであった。
なぜ飛んでいるのか理由は分からないが、それでも積乱雲にまとわりつくように彼らは浮いていたのだ。
「あれ?よく見たらフロートゴートがいるじゃない?」
「フロートゴート?あれヤギなの?どう見てもヒツジじゃん」
横に座っていたシンリーもその存在に気づいたようで、名前を教えてくれたのだが、フロートは分かるがなぜゴートなのだろうか。
あれはどこからどう見てもヒツジだろうに。
「空を飛ぶために、風に乗りやすい体毛を生やしてるからよくヒツジと間違われるけどあれはヤギなのよ。ほら、頭に角が生えてるでしょ?」
「え?あー、ほんとだ。角生えてるわ」
シンリーに言われてもう一度頭部をよく見てみると、確かに巻き角が生えていた。
あれを見るとヤギだと少し納得も出来る。まぁそれでもヒツジにしか見えないのだが。
こうして新たな魔獣も発見し、魔人探しの空の旅は始まった。
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